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ファクトリーIoTの分野では、2000年代から「垂直統合」というコンセプトが提唱されてきました。ERP、MES、さらにPLCなど製造現場のFA機器を接続して情報の相互活用を目指すものであり、工場のモノ作りの現場をサプライチェーンの川上・川下と統合(水平統合)する際にも必要な仕組みと言われています。また、これらを接続する方式はすでに数多くあり、その実現は技術的には比較的容易です。にもかかわらず、垂直統合を活用できている例は決して多くありません。今回は、ERP-MES-FA間の情報活用で効果が得られそうに思える垂直統合について、なかなか有効活用できていない現状を解説するとともに、その中でも新たな試みとして「スケジューリング」に焦点を当てた期待を述べます。
執筆:三菱電機インフォメーションシステムズ 小林 敦 / 中塚 善之
執筆:三菱電機インフォメーションシステムズ 小林 敦 / 中塚 善之
小林 敦
三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)産業・サービス事業本部。
三菱電機に入社し、コンピュータシステム製作所、情報通信システム開発センターなどのSEを経て現在、分社化された三菱電機インフォメーションシステムズの営業部長。
国際海底ケーブル網監視システム、携帯電話向け映像ストリーミング配信システム、グローバルWebプラットフォームなど通信・放送・Webメディア分野を担当する中で、オープンソースソフトウェアの導入促進に取り組み、最近はIoT/ビッグデータ/AI領域で新たなビジネス創出に挑む。
OSSコンソーシアムでは副会長(分散コンピューティング部会担当)を務める。
中塚 善之
1995年に三菱電機入社。 以降一貫して国内外ユーザーのSAP関連システム開発ライフサイクル全体を担当。企画構想から実現化、導入後サポートまで現場でのコンサルティング経験を早く効果的にユーザーに届けるために、ERP業務モデルを実装したテンプレート製品の企画開発やプリセールスも推進。
シングルインスタンスERPのグローバル横展開や戦略的BI、MES/製造IoT連携などERP活用効果を高めるプロジェクトを推進している。
垂直統合・水平統合とは?
垂直統合とは、工場内におけるERP-MES-FAの3階層の統合のことです。生産管理・在庫管理・販売管理などを担うERP(企業資源計画)のレイヤー、工場内の工程管理を担う
MES(Manufacturing Execution System) のレイヤー、それにPLC(Programmable Logic Controller)、DCS(Distributed Control System)、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)などFA機器のレイヤーを加えた3つのレイヤーを接続して情報の相互活用を目指します。
一方、水平統合には2つの側面があります。
1つ目は、製品設計、製造ライン設計(工程設計)、モノ作りの現場、そして運用保守(アフターサービス)において情報を統合する「エンジニアリングチェーン」です。
たとえば、CADで製品を設計し、3次元モデリングや切削シミュレーションで加工方法を机上検証した上で、実際の製造ラインを構築するとか、図面や部品表(BOM: Bills of Materials)などのデータを効率良く共有することで、製品の開発から保守に渡るライフサイクルコストを低減するといったもののことを指します。
2つ目は、いわゆるサプライチェーンの構築であり、調達・生産・物流・販売における情報の統合です。
垂直統合と水平統合を両面で進めることで、製造業さらには産業全体のデジタル化につながっていきます。
Industry 4.0でも求められる垂直統合
ファクトリーIoTにおいては、たとえば消費者がECサイト上でポチれば、それに応じて自動的に製造現場でモノ作りが始まるような未来が描かれることがあります。
これを実現するためには、工場の中では垂直統合が完成しているほうが、都合が良さそうに思えます。しかし、実際はこのような目的で垂直統合を目指す例はまだ多くないと思います。
垂直統合でやりとりされるデータは、単に「生産計画を現場に指示する」「生産実績を在庫量に反映する」といった簡単なものではありません。
【次ページ】垂直統合の本質的な狙いとは?
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