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  • 2016/10/06 掲載

花王CIO 安部真行 執行役員に聞く、花王の「データ至上主義」はなぜ生まれたのか

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花王は2016年6月、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「攻めのIT経営銘柄2016」に選定された。評価されたポイントは大きく2つ。1つめは資金効率をグローバルレベルで向上させ、決済手数料など1億5,000万円のコスト削減につなげたこと。もう1つは消費者ニーズを把握する大規模データ管理基盤を構築し、分析作業時間を劇的に短縮したこと。これを支えたのが、いち早くグローバル標準として展開を完了していた基幹システムの存在だ。トイレタリーメーカーの同社が、なぜこれほどまでにITに投資をし、データドリブンなのか。花王で情報システム部門を統括する安部真行 執行役員に話を聞いた。

執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司

執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司

photo
花王
執行役員
情報システム部門 統括
安部 真行 氏

創業から129年、中期経営計画はすべて達成

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 花王の原点は、初代・長瀬富郎 氏が1887年6月(明治20年)に創業した洋小間物商「長瀬商店」にまでさかのぼる。1890年には現在の社名にもつながる桐箱入りの「花王石鹸」を発売している。創業から129年後の現在、同社は一般消費者に向けたコンシューマープロダクツ事業として、ビューティケア事業・ヒューマンヘルスケア事業・ファブリック&ホームケア事業を展開。また、産業界向け工業用製品を扱うケミカル事業も展開している。

 同社は、グローバルで存在感のある会社をめざして、2013年度を初年度とする、花王グループ中期3カ年計画K15(Kao Group Mid-term Plan 2015)に取り組み、その最終年度である2015年度は、目標である売上高1兆4,000億円、営業利益1,500億円を上回る、同1兆4,718億円、1,644億円を達成した。さらに2012年に26.8%だった海外売上高比率も、35.0%と目標を大幅に超えた。配当では27期連続増配予定と、国内トップをひた走る。

 こうした好業績を支える要因の1つが、同社のIT部門であり、グローバル展開を終えた基幹システム(SAP)だ。1997年7月のアジア通貨危機を機に、タイ花王でSAPを導入した同社は、その後、日本を含むグループ全社への導入に着手。2015年度には完了させている。

 なぜ、花王はITに積極投資するのか。そこには古くから「データ」にこだわってきた同社の歴史があった。

花王の「DNA」に組み込まれていたIT活用

──トイレタリーメーカーである花王がなぜIT投資に積極的なのでしょうか。

安部氏:先人たちの功績と言うべきかもしれません。1955年、国内初の商用コンピュータ「UNIVAC(ユニバック)120」を導入したのは野村證券ですが、実は2番目に導入したのが弊社です。1961年のことでした。当時の経営者は、すでにコンピュータという新しいテクノロジーを経営に活かそうと考えていたのです。

 また、1980年代には数理科学研究所や知識・情報科学研究所といった研究所を持っていました。数理科学研究所には、当時のスーパーコンピュータであるクレイが置いてあったりもしたものです。研究所はその後、発展的に解消しましたが、研究者たちは現在、ビッグデータ解析のキーパーソンとして活躍しています。花王がITに強いのは、こうした長い歴史の積み重ねの結果です。DNAにIT活用が組み込まれているといってよいかもしれません。

──情報システム部門の規模、編成などを教えていただけますか。

安部氏:グローバルで約400名です。情報子会社はありませんので、ITに関わることはすべて情報システム部門が担当しています。2012年から2013年にかけて、組織全体を事業×機能のマトリックスで再整理しました。事業というのは、ビューティケア・ヒューマンヘルスケア・ファブリック&ホームケアやケミカルなどで、機能がサプライチェーンや会計、ITなどです。したがって、情報システム部門も、ビューティケアやヒューマンヘルスケアなどの事業単位でグループ編成しています。

データドリブンなのは「汚れを落とすこと」が生業だったから

──2013年に「花王グループ中期3カ年計画K15」を発表され、2015年度はその最終年でした。ITの視点で、その成果をどう見ていますか。

安部氏:K15の最も大きい目標は、SAPのプロジェクトにピリオドを打つことでした。おかげさまで、入れるべき会社にはほぼ入れ終えることができました。したがって、次の中期に向かっては、この基盤をどう活用するのか、ということになります。また、SAPのテクノロジー自体も変化していますので、それをどう取り込んでいくのか、計画を練っているところです。

 先ほど申し上げたように、80年代後半から研究所で在庫の適正化などの数理解析的なアルゴリズムを追求してきたので、データの大切は身に染みています。データの解析では、基本的にデータをどう表現するかだと思います。この分野は、いま、さまざまなテクノロジーが登場し、オープンソースのライブラリやリポジトリも数多く提供されています。ただ、ソフトウェア的にはまだ黎明期にあると考えています。

 なお、新しい案件が発生したときは、ガートナーのペース・レイヤーモデルを意識しています。Systems of RecordなのかSystems of Differentiationなのか、あるいはSystems of Innovationなのかによって、開発手法も異なるからです。ユーザーは3か月後に必要としているのに、ウォーターフォールで開発して数年後に完成しても話にならないのです。

──企業によっては、データ分析して経営ダッシュボードのようなものを作る例も少なくありません。花王でも、同様の取り組みはされているのでしょうか。

安部氏:我々の場合は、データ分析は現場のものです。ダッシュボードを作っても、それは経営だけでなく、全員が見えるものでなければならないと考えています。どの部門でも、議論をするとき必ずデータを使って話を進めています。

 それはたぶん、我々の生業が石けんやシャンプーなどの「汚れを落とすこと」にあるからかもしれません。「汚れを落とすこと」は、どれだけ汚れが落ちたのか、客観的なデータの裏付けかないと話にならないのです。

グローバルで資金効率を向上させて1.5億円のコスト削減

──経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「攻めのIT経営銘柄2016」に選定されましたが、資金効率の向上は評価されたポイントの1つでした。

安部氏:グローバルでSAPを導入し、あらゆるデータを見える化できたことが背景にあります。今回は、そこに銀行のサービスが加わったことで、この銀行のサービスを使って各国に集まっている資金を本社に集約してプールし、まとめて支払えば、資金効率があがることに経理・財務部門が気づきました。この仕組みにより、キャッシュコンバージョンサイクルを10~20日短縮し、決済件数、手数料の大幅削減により、約1億5,000万円のコスト削減と業務量圧縮に成功しました。

 種明かしをすると、実は80年代に国内で同じ取り組みをやっていたのです。弊社には国内の販売会社があるのですが、当時、各販売店に入金された資金を毎日、銀行の自動送金で本社の口座に送り、本社からすべての支払いを行う仕組みを作りました。もちろん、金利を計算して利子も付けますし、逆に販売会社にキャッシュが足りない場合は、融資することもあります。これをグローバルで行ったのが、今回の取り組みなのです。

──最近は新しいデバイスも登場し、開発手法もアジャイル的なアプローチが注目されています。関連する取り組みについて、お聞かせください。

安部氏:正直なところ、そのあたりの取り組みは遅れたと思います。たとえば、アジャイル開発に関しても、方法論のスクラム(Scrum)を勉強しながら進めています。

──現在、どのような領域で取り組みを進めているのでしょうか。

安部氏:弊社には、フィールドを回っている販売会社の社員がたくさんいます。ドラッグストアを回る化粧品の担当者もいますし、スーパーマーケットで洗剤の棚を作る担当者もいます。こうした社員にスマホを持たせれば、作業指示や確認、勤怠管理、交通費の精算などが効率化できます。

 ただし、こうした複数の案件を一品料理することは考えていません。社内向け業務のモバイルプラットフォームは1つにして、そこでデバイスやアプリケーション、セキュリティを管理し、アプリケーションごとにUIを別々に設計して、バックエンドの接続先をシステムごとに変える仕組みにしています。

 担当者の役割や権限に応じて、異なるアプリケーションポータルを構築していますが、その基盤は一つに揃えるようにしています。

──最近は越境ECも話題になっており、貴社も取り組んでいます。情報システム部門はどのような形で携わっているのでしょうか。

安部氏:やるかどうかは事業部門側の判断ですが、ITに関することは必ずIT部門が関わっています。越境ECの件も、標準化された基幹システムがあるので、やると決まれば3か月もあれば対応できます。これはECに限った話ではなく、たとえばどこかの国に販売会社を作ることが決まっても同じぐらいの期間で対応可能です。こうしたスピード感で取り組まなければならないのです。

【次ページ】ベンダーやソリューションはどのように選定するのか

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