0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
食品大手のキリンホールディングスは、2020年4月に経営企画部内にDX戦略推進室を設置した。グループ全体でビジネスプロセスの変革や効率化を進めるためのDX推進チームとして設置された同組織は、コロナ禍を経てどのような変化があったのか。キリンホールディングス 執行役員 経営企画部 DX戦略推進室 室長の秋枝 眞二郎氏に、キリングループの「DXの現在地」を聞いた。
執筆:阿部欽一 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司
執筆:阿部欽一 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司
キリンHDがDXの先に見据えるものとは
──長期経営構想「KV2027」、その第1ステージとして実施中の中期経営計画について、それぞれの目標を教えてください。
秋枝氏: 当社は、2019年2月に長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(KV2027)と「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」を策定しました。KV2027では、2027年に目指す姿として「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界の
CSV(Creating Shared Value) 先進企業となる」ことを掲げています。その実現のために「既存事業(食領域・医領域)の利益成長」「ヘルスサイエンス事業の立ち上げ・育成」の2点に取り組むことを掲示しています。
特に、2019年~2021年の中期経営計画では、医薬と食の双方を活用したヘルスサイエンスビジネスという領域にビジネスを広げる取り組みを進めています。
──2019年にスタートした中期経営計画は現在、最終の3年目を迎えています。
秋枝氏: そうですね。今中計は、既存の医と食に関する領域でお客様の価値を創造して、CSVの先進企業になるということが大きなビジネス目標です。
──CSVを掲げているのは、2019年の中期経営計画からですか。
秋枝氏: もともとは2013年からですね。CSVとは「共通価値の創造」の意味で、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決して「社会的価値」と「経済的価値」を両立させようとする考え方のことです。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)でいうところの社会貢献にとどまらず、世の中の役に立つ取り組みをしながら企業として経済的価値も創出して、サスティナブルに世の中の役に立つということを2027年に目指す姿として設定しています。
──その中で、2020年4月に設立され、ご自身が統括されているDX戦略推進室の役割というのは、どう位置づけられていますか。
秋枝氏: 現在のデジタル化の流れは加速していて、テクノロジーが進化し新たなデバイス、サービスが一気に増えています。2000年前後から進んできたICT化の流れの延長線上にある考え方や手法、テクノロジーをそのまま使い続けていくと、新しい価値を生みだせないという課題があります。
また、ビジネスの俊敏性や効率化もさらに高めていかなければなりません。DX戦略推進室は、これらをグループ全体として推進していくための組織として設置されました。
──キリングループにおけるDX戦略の基本方針は、どのようなものですか?
秋枝氏: DXというのは言葉が一人歩きしている感があって、雑誌やテレビでも見ない日はないほどですよね。ただ、本来はそれぞれの会社で定義が異なるものだと捉えています。
私どもが掲げているDXは、デジタル・IT部門固有の限られた領域の取り組みではなく、キリングループの多岐にわたる事業領域において、各社・各部門が主体的にビジネスのあり方、プロセスを変革していく取り組みを指します。当然、その取り組みの中で、デジタル技術や最新の知見、考え方を取り入れたり、それらを使って新しいビジネスを生み出していくということも含まれています。
今は「PoCを1周半くらい経過」した段階
──2020年4月にDX戦略推進室が立ち上がり、その室長に就任されました。ここまでに至る過程や、現在のミッションについてお聞かせください。
秋枝氏: もともと私は2019年から経営企画部で経営戦略を担当していました。デジタルというよりも、上述した「KV2027」の長期ビジョン実現のためのキードライバーとなる、イノベーションを実現する組織能力を高めることがミッションでした。具体的には「確かな価値を生む技術力」「お客様主語のマーケティング力」「価値創造を加速するICT」「多様な人材と挑戦する風土」の4つですね。
──4つの組織能力をもう少し具体的に教えてください。
秋枝氏: 「確かな価値を生む技術力」というのは、発酵や医薬につながるコアの技術力ですね。そして、それをお客様価値に繋げて、どう提供するかという意味での「マーケティング力」、そして、最新のデジタル技術を使った「デジタルICT」、最後に「組織・人材」を重要な4つの能力として定義しました。DX戦略推進室は、デジタルICTによる価値創造の加速を担う組織として創設されたのです。
それ以前の組織としては、業界に先がけて2013年にデジタルマーケティング部が設置されました。ビールや清涼飲料というのは大衆消費財なので、同部門では、お客様へのマーケティングを最新のデジタル技術を使って最適化しようと考えたのです。
その結果、デジタルマーケティングについては、業界でもそれなりに先進的なポジションにあるとの評価を得たと自負しています。翻って、マーケティング以外の領域はどうなっているのかという課題がありました。
すなわち、ビジネス全体にデジタル技術を活用して、経営の意思決定を最適化すべきだというのが、この中期経営計画の背景にある課題意識でした。そこで、発展的にデジタルマーケティング部を改組して、ビジネス全体のデジタル変革の担い手として設置されたのがDX戦略推進室です。私のミッションは、その組織を統括することです。
──DX戦略推進室の立ち上げから1年少々が経過して、現状をどう評価しますか?
秋枝氏: 正直にいうと、それほど簡単に成果が出るものではありません。そもそも組織能力として「DXを推進できる人材がいるのか」、あるいは「どんな領域で、どんなゴールを設定したらよい」かもわかりませんでした。そこで、まずDXの目的やゴールを設定するところからはじめました。PoC(概念実証)と呼ばれるテストを行い、うまくいった部分はドライブをかける、そうでない部分は見直すといったプロセスを1周と半分くらい取り組んだところ、というのが実感です。
現在は、PoCの結果を受けて「先につなげていけそうなもの」と「そうではないもの」を仕分けするタイミングに来ているという段階でしょうか。
【次ページ】生産と物流のサプライチェーン計画にAIを活用
関連タグ