0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
菅新政権がデジタル庁の創設に動き出している。デジタル・ガバメントについては、安倍政権時代から「IT新戦略」が進められてきたが、今一つ内容がつかみづらかった。内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官の砂金 信一郎氏が、今後どのような形で日本のデジタル行政が進んでいくのか、IT新戦略の内容をもとに解説する。
給付金、オンライン授業……コロナ禍で露呈したデジタル対応の課題
政府CIO補佐官は、ITに関する専門的知見を有する者として民間から採用され、政府組織の一員として政府CIO等に助言・支援を行うことでデジタル・ガバメントの推進に貢献している。
LINEの執行役員と政府CIO補佐官を兼務する砂金氏によると、コロナ禍で政府や厚労省など多くの省庁が連携し、さまざまな取り組みをする中で、具体的な課題が見えてきたという。実際に、安倍内閣時代に閣議決定された政府の「IT新戦略」は、2020年7月、新型コロナウイルス対策を踏まえた内容にアップデートされた。
たとえば、10万円を配布した特別定額給付金では、マイナンバーカードが普及し日常的に使いこなせる環境であったら、もっとスムーズに運用ができたかもしれない。砂金氏は給付金配布のプロセスの問題点を次のように振り返る。
「マイナンバーカードは個人情報と世帯情報がひもづいておらず、それを結び付けるデータは各自治体が持っていました。実行したいこととデータ管理の粒度が政府と自治体で合わず、個人情報と世帯情報の突合のためにデジタルから紙に戻しての作業などが発生してしまい、ビジネスプロセスとして非効率な点が露呈しました」(砂金氏)
また、今回は行政サービスだけでなく、教育関係でも課題が明らかになった。オンライン授業は、「ネット回線が整備されていない」あるいは「PCがITの授業で導入されていても国数英などの基礎科目では活用している学校が少なかった」ことなどが原因で円滑に実施できなかった。
「IT業界などの民間企業では、プロジェクト実行後に改善点の振り返りをして『次にどうつなげるか』という学びのループを回すことが常識ですが、多くの政策ではその振り返りの弱さが目立ちます。ですが、今回のコロナ禍におけるデジタル対応においては、政府のメンバーも非常に重く受け止めており、『どうすればうまくいったのか』を振り返る文化ができたことは、非常に大きな前進だと感じています」(砂金氏)
政府は、コロナ禍で明らかになったこれらの課題を今後どのように解決していこうと考えているのだろうか。
「IT新戦略」から読み解く今後のポイント
まず、砂金氏は「IT新戦略」の概要とともに、今後のデジタル戦略のポイントを説明した。
政府は、サイバー空間と現実空間を融合させることによって経済発展と社会的課題の解決を両立する社会として「Society5.0」を打ち出したが、そのなかで「データの資源化と最大活用」を中心に据えている。砂金氏はデータの活用ができていない現状を指摘したうえで、「人に優しいデジタル化」がさらに大きな意味を持つと語る。
「民間とは異なり、行政サービスは『平等性』が非常に重要になります。スマホが使えないお年寄りなどの情報弱者が不利にならないデジタル社会にする工夫が必要です」(砂金氏)
さらに、同文書では「デジタル強靭化社会の実現に向けた基本的な枠組み」も示している。この枠組みは「紙やハンコをなくし、ワークフロー化するといった狭義のデジタル化」ではなく、社会全体をどうDX化できるかについて示唆したものだ。砂金氏によると、社会全体のDX化には『ワンストップ』が重要なキーワードになるという。
【次ページ】乗り越えなければいけない「縦割り」の壁
関連タグ