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- 2021/06/03 掲載
製造業のデータ分析で考える、「SIerの価値」とは?
第8回:現場から見たPoCの理想と現実
PoCによりデータ活用業務を見い出す
筆者のところには、製造業のお客さまを中心に、社内に蓄積されたデータを業務上の問題解決につなげるためのPoCのお声がけを多くいただきます。データサイエンティストが、お客さまの中で当該領域の実務やデータに精通された方(ドメインエキスパート)およびPoCの成否判断、ひいては事業性判断をされるマネジャーの方と三位一体となって、PoCを推進しています。たとえばモノ作りにおいては、製造現場で採取された大量のセンサーデータや設備稼働データと、製造不良や設備停止の事象が発生したタイミングを教えていただき、予兆検知の方法を導き出すなどです。生産管理業務においては、過去の生産量、在庫量、販売実績などの推移データを開示していただき、在庫を最適化するモデルを導き出すなどが挙げられます。
マーケティング領域では、消費者アンケートの結果を分析して、ブランドロイヤリティの状況を把握したり、購買や離反の予測などを行います。サービス事業においては、利用者の到着分布や待ち時間を分析して、対応リソースの配備を最適化するなどです。最近は、スマートシティのオープンデータを用いた新サービスの企画という案件もありました。
そしてPoCの先で期待するのは、本番システムの構築です。たとえば、データ活用を担う基盤の構築や、予測モデルを業務システムの中に組み込むなどです。お客さまの中の業務やサービスの立ち上げ、定着を支援させていただくこともあります。
SIerは、複数のお客さまで同一領域の業務課題を経験し、場数を踏むことができるポジションにあります。あるお客さまの現場で習得した経験知を別のお客さまの現場で発揮して問題解決に貢献できるように、また、自社としても効率的にデータの価値化やPoCを進められるように、知見の蓄積と発揮のサイクルを回すことを意識して運営しています。それでも、過去データの分析だけにとどまっていると、なかなかシステム構築の仕事に帰着し難いことは前回述べた通りです。
転換期にあるSIer、何をすべきか
従来のシステム構築においては、お客さまもSIerも、固有業務を作りこんだ専用システムをお引き渡しした後は、トラブルが発生せずに、最低限の維持コストでシステムの運用が継続すること、いわゆる手離れが良いことを良しとしていました。しかし最近、お客さまは自社の業務を変更することも含めて、既製品を組み合わせて使うことをいとわないようになっています。また、クラウドサービスの利用が定着し、汎用(はんよう)のシステム機能の実装はクラウド上で簡易に実現できるようになっています。
その中でSIerはシステムを構築・納入するだけの役割にとどまらず、よりお客さまに寄り添って事業上・業務上の難しい問題解決を共に担っていく必要があり、その1つの取っ掛かりとしてデータアナリティクスがあります。
【次ページ】分析対象となるデータの素質、実例128件から考察
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