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- 2018/11/16 掲載
三菱電機、裁量労働制の“悲劇” 大手企業の働き方改革は「八方塞がり」だ
社名公表のリスクを考えた可能性が高い
三菱電機ではこれまで約1万人の社員に裁量労働制を適用していたが、制度を全廃したことが明らかとなった。裁量労働制で働いていた社員にトラブルが続出したことが廃止に至った原因とみられている。従来は、労働基準法に違反し、かつ送検された企業だけが社名公表の対象だったが、2017年以降は方針が大きく変わり、一定要件を満たした企業については送検されていなくても公表されることになった。
大手企業の場合、社名が公表されることの影響は大きい。同社に限らず、裁量労働制について再考を迫られているところは多いだろう。
本来、裁量労働制というのは、労働時間と成果が直接関係しない職種に適用されるべきものである。現実には、極めて高い成果を上げる社員の労働時間はそれなりに長いと考えられるが、いずれにせよ自らの責任で業務を完結でき、それにふさわしい報酬をもらっている社員が対象となるはずだ。
しかし日本企業において、純粋に成果だけで評価される業務に従事している社員は少ない。多くの職場では、労働集約的な性質を色濃く残しており、長時間働かないと業務をこなせないというのが現実である。こうした職場にやみくもに裁量労働制を適用すれば、労働時間が際限なく伸びることは容易に想像ができる。
日本の組織には、戦略が軽視され個別戦術ばかりが重視される、全体最適化が進まず部分最適化だけが行われる、といった欠陥があることは以前から指摘されてきた。働き方改革をめぐる一連の混乱は、日本型組織の欠点が顕在化した典型例といってよいだろう。
日本は労働動員型経済になっている
働き方改革の本質は生産性の向上にある。だが日本の職場では、生産性という概念が誤解されているケースも多く、これが働き方改革を阻む要因となっている。生産性は生産量を総労働量で割って求めることができる。生産量としては比較検討がしやすいよう、企業が生み出す付加価値を用いることが多く、マクロ的に考えればGDP(国内総生産)がこれに該当する。総労働量は総労働時間もしくは就業者数を使うのが一般的だ。
日本ではアベノミクスがスタートした2013年から2017年にかけて200万人も就業者が増えた。率にすると3.2%の増加だが、これは高齢者や専業主婦などが労働市場に出てきたことが最大の要因である。だが同じ期間で実質GDPは4%しか増えていない。3.2%も就業者を増やして、4%しか成長しなかったのだから、労働生産性の向上はごくわずかということになる。
理論上、労働者の賃金は生産性に比例するので、日本の従業員の実質賃金はほとんど上昇していない可能性が高く、現実のデータもそれを裏付けている。
数年にわたって労働生産性が上昇していない場合、企業のビジネスモデルはほとんど変わっていないとみてよいだろう。つまり日本全体として同じビジネスモデルを維持したまま、労働投入量を増やすことで何とか経済を回すという、いわば労働動員型経済に陥っていることが分かる。
本来であれば、資本集約型あるいは知識集約型にビジネスモデルを転換し、より少ない従業員数で同じ付加価値を得られるよう体質転換しなければならないが、そこまでには至っていないというのが現実だろう。
【次ページ】なぜ経団連は裁量労働制に「前のめり」なのか
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