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日本企業の内部留保が6年連続で過去最高を更新したことが明らかとなった。活況を呈する米国経済の追い風を受け、輸出産業を中心に好業績が続いているが、なぜ日本企業は利益を貯め込もうとしているのか、ライバル同士であるソニーとパナソニックの比較から探った。
内部留保が過去最高を更新するのは6年連続
財務省が公表した法人企業統計によると、2017年度における日本企業(金融・保険業を除く)の内部留保は446兆4844億円と過去最高を記録した。昨年より40兆円以上も増えており、過去最高を更新するのは6年連続である。
内部留保は貸借対照表(バランスシート)の利益剰余金のことを指すケースが多いが、あくまでも会計上の概念であり、実際に同額の現金が存在しているわけではない。しかしながら、内部留保がすべて資産に変わっているわけではなく、実際のところ半額程度の現金が何もしない状況で遊んでいる。
安倍政権はたびたび多額の内部留保を批判する発言を行ってきたが、企業の姿勢はほとんど変わっていない。政権が企業の経営に対して口出しすることについては賛否両論があるものの、日本企業の内向き姿勢が過剰なのは事実といってよいだろう。
一般的に企業が内部留保を溜め込むのは、将来について楽観視していないことが主な要因だが、日本企業はなぜここまで後ろ向きなのだろうか。バランスシートというのは、過去の業績を蓄積したものなので、現状を理解するためには、これまでの経緯を知るのがもっとも近道である。
過去5年間で日本企業全体の売上高は12.3%伸びた。単純平均すると年2.5%程度だが、この数字には実はムラがある。毎年順調に売上高を伸ばしているわけではなく、2012年度と2015年度には何とマイナスを記録している。それでも全体で12.3%伸びたのは2017年度の伸びが極めて大きかったからである。
2017年度は絶好調な米国経済を背景に輸出が大幅に伸びた年である。つまり過去5年を通じて、企業の売上高が大幅に拡大したのは2017年度のみということになる。
日本企業は人員を増やすことで何とか売上高を拡大してきた
企業が生み出す付加価値は売上総利益で示されるが、売上高に対する付加価値の割合である売上総利益率も緩慢な伸びにとどまっている。2012年度から2014年度までは23%台という数字が続き、輸出の伸びが顕著になった2016年以降になってようやく25%台に乗せている。つまり日本企業はビジネスの根幹である売上高や付加価値の部分について、あまり顕著な伸びを示せていないのだ。
一方、日本企業の業績は好調だと喧伝されてきたが、この話もウソではない。日本企業の営業利益率は2.9%から4.4%に急拡大しており、それに伴って当期利益も大幅に増えた。
売上高や付加価値があまり増えていないにもかかわらず、利益が拡大しているのは企業がコスト削減を徹底的に進めてきたからである。
では企業は人減らしでコスト削減を行ったのかというとそうではない。過去5年間で日本企業に勤務する従業員の数はむしろ増えている。総人件費があまり増加していないことを考えると、1人あたりの賃金を大幅に抑制してきた可能性が高い。
一連の状況を整理すると、日本企業は人員を増やすことで何とか売上高を拡大しているものの、1人あたりの賃金を抑制することで業績を上向かせているという図式になる。企業の業績が良くなっているのに賃金が上がらず、一方で人手不足が深刻という日本経済の状況は、一連の企業の動きと符合している。
ソニーとパナソニックを比較すると…?
ここでもっとも重要なのは従業員数が増加している点である。企業は常に生産性を向上させていくことが求められるので、従業員数が増えずに売上高が増えるのが望ましい。売上高を増やすために人員を投入している状況では、人が増えた分しか売上高が拡大しないので効率が悪い。いわゆる労働集約型ビジネスであり、利益が増えているといってもあまりヘルシーな状況とはいえないだろう。
ではどうしてこのような状況に陥っているのだろうか。
日本の場合に原則として解雇はできないので、雇った従業員は半永久的にコストになる。こうした状況で再び景気が低迷した場合、企業の経営は一気に苦しくなる可能性が高い。好業績であるにもかかわらず企業が内部留保を過剰に溜め込んでいるのは、景気後退時の人件費負担を強く警戒しているからにほかならない。
以上はマクロ的、抽象的な話なのであまりピンとこないかもしれないが、具体的な企業にあてはめて考えればもう少しイメージしやすいだろう。電機メーカーのライバル企業であるソニーとパナソニックは非常に対照的な状況にある。
【次ページ】ソニーとパナの2018年3月期業績を比較、実は大きな開きが
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