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企業価値10億米ドル以上のベンチャー「ユニコーン」。日本ではまだメルカリ、プリファード・ネットワークスの2社だが、政府は2023年までに20社に増やすという目標を定めた。その候補生として「J-Startup」の92社が選定され、これから“特待生”扱いを受ける。しかし、その中に「地方発」は1割しかなく、全国どこでも地方発ベンチャーはリスクマネーの供給不足に悩んでいる。
「ユニコーン」は世界で240社、日本は2社
6月20日、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は株主総会の席上、「当社はユニコーン・ハンター」と発言し、10兆円規模の投資ファンドを通じてユニコーンへの投資を積極的に行っていくと強調した。
かつてアップル、ヤフー、グーグル(当時)、ユーチューブ、インスタグラムなどに投資して成長させたシリコンバレーのベンチャーキャピタル「セコイア・キャピタル」は、その厳しい審査にパスしただけでそのベンチャーは一目置かれる存在になれるほどだが、ソフトバンクグループはそのセコイアにも匹敵するような存在になろうとしている。
ユニコーン(Unicorn)とは西洋の想像上の動物「一角獣」のことだが、急成長して企業価値または時価総額が10億米ドル以上に達したベンチャー企業を指す言葉だ。2013年頃にシリコンバレーのベンチャーキャピタルの間で使われ始め、ウーバーやエアビーアンドビー、中国のシャオミなども、かつてはそう呼ばれていた。
10億米ドルは、為替レートが1米ドル=110円とすると日本円で1,100億円。日本で時価総額1,100億円前後の上場企業には、コーヒーショップチェーンのドトール・日レスHD、準大手証券の岡三証券グループ、スポーツ用品メーカーのミズノ、岐阜県のトップ地銀の十六銀行などがあり(6月21日時点)、それなりの規模と知名度がある。
企業価値がそれらに匹敵するとは、ベンチャーとしてはすでに事業が軌道に乗り、伸び盛りで、投資家から大きな期待を集める企業だ。すでに株式を上場しているか、上場を間近に控えていると言っていい。
アメリカの調査会社「CB Insights」の集計によると、日本国内のユニコーンとして人工知能の深層学習関連のPreferred Networks(プリファード・ネットワークス/非上場)と、フリマアプリ最大手で海外にも進出したメルカリの2社が入っている(6月21日時点)。
メルカリは6月19日に東証マザーズに新規上場し、公開価格3,000円より66.6%高い5,000円の初値をつけ、時価総額は約6,700億円にはね上がった。
CB Insightsによると、全世界でユニコーンに該当する企業は240社で、その企業価値の総計は8,160億米ドル。アメリカに本拠を置く企業がほぼ半数の114社あり、その企業価値の合計も約4,000億米ドルでほぼ半分を占める。2位は中国で71社、3位は英国で13社だが、4位のインド(9社)以下の社数は1ケタ。2社の日本はフランス、スイス、南アフリカ、インドネシアと並ぶ第8位となっている(6月21日現在)。
「J-Startup選定企業」はユニコーン候補の“特待生”
日本政府もユニコーンを重視し、その創出目標を設定した。6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」には、ベンチャーの支援強化策として「2023年までに20社のユニコーンを創出する」というKPI(重要業績評価指標)が盛り込まれた。ユニコーンの社数を5年間で10倍にし、アメリカや中国に大きく水をあけられている差を、少しでも縮めていこうという計画だ。
そのユニコーンの候補生は、すでにリストアップされている。経済産業省と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本貿易振興機構(JETRO)、パナソニック、KDDI、みずほ銀行など100を超える民間の協力企業、ベンチャーキャピタルなどの「サポーター」が結集して今年、官民イニシアチブ「J-Startupプロジェクト」が立ち上がった。
キャッチフレーズは「日本のスタートアップに次の成長、世界に次の革新を。」で、ユニコーンを産み出せるエコシステムを構築しようとしている。
6月11日に虎ノ門ヒルズで催されたローンチセレモニーの会場では、スタートアップ企業約1万社の候補から選ばれた「J-Startup選定企業」92社がお披露目され、その経営者たちが立ち上がって満場の拍手を浴びた。CB Insightsからすでにユニコーンと認定されたPreferred Networksとメルカリの両社も名前を連ねている。CYBERDYNEやペプチドリームやPKSHA Technology のように、すでに上場を果たして時価総額が10億ドル(1100億米ドル)を超えている企業もある。
事業領域で分類すると、ロボット・制御系21%、IoTデバイス系20%、医療・バイオ系14%、製造・新素材・エネルギー系12%、航空・宇宙系6%、モビリティ系5%で、ハイテク分野が大多数を占める。「グローバルに戦い、勝てる」という視点で選ばれた92社は、ユニコーンレベルに成長するよう今後、官民挙げてバックアップする。学生に例えると、成績抜群で将来を嘱望され、返済不要の特別奨学金がもらえたりタダで海外留学ができたりするような「特待生」に相当する。
本社所在地を確認すると、71%の66社が東京都にある。川崎市や横浜市なども含めた首都圏全体では73社で、8割近くを占める。アメリカのシリコンバレーで起業した1社を除くと、首都圏、中京圏、近畿圏以外に本社を置く企業は9社で、1割にすぎない。
国別のユニコーンの数、地域別のJ-Startup選定企業の数を見ると、世界的には「起業するならアメリカ」で、国内では「起業するなら東京」だという傾向が見て取れる。東京の中でも特に渋谷駅周辺はITベンチャーが数多く集まり、「ビットバレー(Bit Valley)」と呼ばれてから早くも20年ほど経過した。
宮城、山形、新潟……「地方発ユニコーン」の有力候補の顔ぶれ
国内のユニコーン候補生の「東京一極集中」「大都市圏集中」の理由は、情報や人材や資金を得やすい、大学や研究機関が多く知識や技術の集積がある、“ベンチャー仲間”の横のつながりがあることだ。地方で起業したJ-Startupの9社は、福岡市が3社で、仙台市、熊本市、那覇市がそれぞれ1社。いずれも県庁所在地だが、それ以外の場所で起業した企業は宮城県亘理郡山元町、山形県鶴岡市、新潟県妙高市に、それぞれ1社ある。
ベンチャーにとってはいかにもハンデがありそうな、大都市圏でも県庁所在地でもない地域で起業し、ユニコーン候補生に選ばれたのは、どんな企業なのだろうか?
宮城県亘理郡山元町のGRAは震災復興事業として2011年に創業。地元の名産「ミガキイチゴ」の施設園芸栽培中心の農業生産法人で、イチゴのワインを製造・販売するほか、新規就農支援事業も行う農業ベンチャーだ。主要取引銀行は七十七銀行。グループ企業には産業革新機構の資金が入り、ロート製薬の子会社とともに購入型クラウドファンディングも始めている。
山形県鶴岡市のSpiberは2007年設立。世界で初めて人工合成のクモの糸「QMONOS」の量産化に成功した新素材ベンチャーだ。地元地銀の荘内銀行や、やまがた地域成長ファンド投資事業有限責任組合など、ベンチャーキャピタルが株主に名を連ね、事業提携したスポーツ用品メーカーのゴールドウインからも30億円の出資を受けた。
新潟県妙高市のコネクテックジャパンは2009年設立。半導体チップの「低温、低荷重」の基板実装技術を世界で初めて開発した半導体関連ベンチャーだ。取引銀行は地銀では第四銀行、北越銀行。メガバンク系や新潟ベンチャーキャピタルなど複数のベンチャーキャピタルから出資を受けている。さらに2018年2月、三井物産から新たに出資を受けた。
どれも選び抜かれたユニコーン候補生だけに、現状ではベンチャーキャピタルだけでなく大企業からも出資を受けるほどだが、その陰では、全国で無数のベンチャーが「地方発」ゆえに資金調達に苦労している。上記の3社もその道のりは決して楽ではなかった。
【次ページ】東京と比べて地方発のベンチャーに圧倒的に足りていないもの
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