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一口にクラウドサービスといっても、グループウェアに勤怠管理といった総務系のサービス、CRMやSFA、MAなどの営業・マーケティング系など、さまざまなサービスがある。これからの企業はクラウドだけで社内業務を運用できる、といっても過言ではない。そんな時代に新たな課題が姿を現した。「誰もがみんな、突然システム発注者としての苦労を背負い込むかもしれない状況」だ。専門スキルを身に着けていない人が導入プロジェクトを成功させるためには何が必要か。答えは意外にシンプルだ。
「実績あるクラウド」と「現場に強い社員」が作り出す落とし穴
数年前を思い返せば、企業がクラウドサービスを導入しない理由の筆頭は「セキュリティ上の懸念」だった。今日においてはとんだ時代錯誤な話に聞こえる。
しかし、会社のしがらみや文化でクラウド導入が遅れる、というのはあまり珍しい話ではないらしい。先日、こんな話を聞いた。ある会社の資本系列が事業売却によって変わり、ようやく業務システムをクラウドに変更できるのだ、という。人生いろいろ、会社もいろいろだなぁと感じ入った出来事であった。
自前でインフラを立てる必要もなければ、初期費用が膨大にかかるわけでもないクラウドサービス。ビジネスの現場において、スピードを加速させたい、効率化を実現したい、働き方を改革したいと考える人にとって、これが福音であることは間違いない。
しかし、あらゆる技術革新がそうであるように、1つのメリットが生まれたとき、その裏側で、別のデメリットが生まれる。
いまわれわれが直面している課題とは、「情報システムの専門家でない人が、システム導入プロジェクトに携わる機会の増加」である。
この「情報システムの専門家でない人」は、プロフェッショナルとして日々自らの職務を遂行する人である。それが、ある日突然、システム導入の主要メンバーとして抜てきされる。「名選手、名監督にあらず」とはよくいうが、「業務をする」ことと、「業務環境を変革する」ことは、全然違う話なのである。
「その業務に特化している」「導入実績が多く、成功事例も語られている」クラウド製品と、「システムには疎くても、現場に強い社員」がそろえば、「ある程度導入できそう」に見える。それがなかなか、うまくいかない。
クラウド導入をやってみたことのある人にとっては言わずもがなの話であるが、そうでない人にとっては、なかなかピンとこない現実が、そこにはある。
システム導入成功確率は「コイントス」と同じ水準
10年前は、「システム導入プロジェクトの成功率は3割」というのが定説であった。
日経クロステックが発表した調査によると、近年は5割程度なのだそうだ。コスト、納期、満足度の三要素のすべてが満たしたものを成功と定義しているということなので、業界全体としては、改善の傾向にあるのだろう。
しかしそれでも、成功率はコイントスと同じ確率なのである。考えてみればこれは非常に怖い話だし、見方によっては、異常な話だ。
たとえば、スーパーマーケットで「買う食べ物が安全で品質に問題がない確率が半々」だとしたら、一体どうなるだろうか。マイホームを建てるとき、50%の確率で納期遅れや欠陥がある、なんてことになったら大問題である。
情報システムは、その名の通り情報を取り扱う仕組みであり、実物がないだけに、失敗したとしてもその真の影響が見えづらい面がある。
また、システムの設計というもの自体が人間にとって想像力の範疇を超える面がある。長い人間の歴史のなかで、非常に歴史が浅く、なおかつ日進月歩で基盤技術が変化していくものでもある。
その結果として、業界全体としての成功率が低いことがそれほど問題視されていない面がある。
とはいえ一般論と自分の話は別だ。いざ自分自身が発注する当事者となった際に、発注をする時点では、納期の遅延や求める品質の未達があるとは、なかなか想像しづらいものだ。「ちゃんとお金を払っているのだから、失敗することなんてないだろう」「御社はこの世界のプロフェッショナルだから大丈夫」と思うのは自然な話だ。
こうして信じていても、遅延や未達は起きる。だが、いざそうなったときに営業担当者に詰め寄ったところで、状況は改善しない。不承不承にその現実を受け入れて、関係部門に謝罪し、協力を仰ぎ、どうにかこうにか仕事を前に進めていく。
その後やっとの思いでシステムリリースを迎え、苦行から解放されるかというと、そうではない。今度はユーザーから、あれが使いにくい、これがわかりづらい、あるいはパフォーマンスが遅い、機能が足りない、と不平不満の連続。運用上の苦労が幕を開ける。
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