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  • 2018/05/15 掲載

MITメディアラボ石井裕 教授が明かす「独創性のレシピ」、アウフヘーベンするモノたち

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「独創」「協創」「競創」。この3つの言葉を念頭に置き、常にオリジナリティあふれる研究成果を生み出しているMITメディアラボ副所長の石井裕氏。未来を予想することは不可能で、多くの企業では中長期計画を立案しているが、その通りにことが運ぶことはない。ではそのような予想不可能な未来に生き残っていくために、企業には何が必要なのか。
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安全神話が崩壊する時代に企業はどう動くべきか。熱弁する石井裕氏

「独創」「協創」「競創」

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MITメディアラボ
副所長
石井裕 氏
 MITメディアラボは、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)は1985年に設立された、従来の研究とは異なる発想や技術などが求められる学際的なアプローチによる研究が行われている機関である。

 東洋経済新報社主催「デジタル×CxO」に登壇したMITメディアラボ 副所長の石井氏は、「研究者として次の三つの言葉を大事にしている」と語る。それが「独創」「協創」「競創」である。

 「独創」で世界に通じる強烈なオリジナリティを徹底追求する。そして「協創」でとがった独創性を有する少数精鋭チームを創り、ビジョンの共有共鳴と前陣速攻(真っ先に、すばやく攻めたてる)、切磋琢磨(せっさたくま)を通して量子飛躍(ある状態から別の状態へ不連続的に移り変わること)させる。

 さらに「競創」、つまり世界のライバルたちと最前線で競いつつ、彼らをあっと言わせる夢と追い抜かれる恐怖との間で、連続して量子飛躍することである。

「世界にはすごい連中がたくさんいる。私はいつも、そういう人たちとカンファレンス会場で出会うたびにあっと言わせたいと思い、彼らもそう思っている。そういう緊張と恐怖のはざまにいることも新しい発見を生むのです」(石井氏)

破壊革新の時代には、中長期計画は意味がない

 今は破壊革新の時代だという石井氏。破壊革新の説明をするため、石井氏が提示したのは2010年に爆発したアイルランドの火山(エイヤフィヤトラヨークトル)が噴火した写真。このときの噴火で火山灰が欧州の空域を覆い尽くし、飛行機が飛べなくなったことで大混乱に陥ったという。

 「あなたは乗客の命と機体に責任を持つキャプテンであれば、どのような対応をするか」と問いかける石井氏。飛行プランと自動航行システムは確かにあるが、飛行できる空がないのである。このときキャプテンはどうすればよいのか。

 「手動航行に切り替えるか、空中でプログラムに変更する。飛行中にリブートするしかない。これはあくまでも一つの例えで、今はそれに近いことが世界中で起きている」と石井氏は説明する。

 現実のビジネスの世界に当てはめると、Amazonの登場もその一つだ。Amazonのような突然変異的なものが生まれることで、価値観がガラリと変わることがある。

「このようなことが起こるので、中長期計画を立案しても、その通りに従うわけにはいかない。先の例で言うと、プランもなければ航路図もない、飛行空域もない。つまり戦うルールは常に変わっていく」(石井氏)

 たとえば従来の電話やカメラ、時計は2007年に登場したiPhoneに取って変わった。ラボのデスク環境も変わり、今ではノートブックとスマホだけになっている。音楽メディアはレコードからCD、MD、今ではメディアを所有することなく、ストリーミングによって、アプリを介して楽しむ時代となっている。

視座と磁針が、ドラスティックな変化から企業を助ける

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 進化はモノだけではない。今は「所有から共有へというドラスティックな変化が起こっている」と石井氏は説明する。米国の家庭では電気ドリルを持っている人も多いが、ほとんどの人は年に1回ぐらいしか使わないという。あるいは車も、使う頻度の低い人なら、使いたいときに借りる方が効率は良い。

「そういうサブスクリプション型のビジネスが登場している。これは今までとはまったく異なる価値を提供するビジネスです」(石井氏)

 安全神話も崩壊している。それを象徴する出来事として石井氏が紹介したのが、「NSA(アメリカ国家安全保障局)が国最大のスパイセンターを建設している」というニュース。NSAが個人情報の収集をしていたという事実はエドワード・スノーデンの告発により発覚した。

「Facebookは我々のプライバシー情報を分析して、それを戦略的ビジネスに使っている。プライバシーを完璧に守るというのは幻想である。ハックされないマシンは存在しない。つまり完璧にセキュアというものはこの世にはない。そういう世界に向かっていることを認識しておく必要がある」(石井氏)

 このような破壊革新が起きているときに重要になるのが「視座を持つこと」と石井氏は語る。そしてもう一つ、大事なのは地図自体がドラスティックに変化する中で、磁針を持つことである。つまり地図よりもコンパスの時代だというのだ。これはMITメディアラボの伊藤穣一所長の言葉である。

 計画経済が崩れ競争市場が成立。群雄割拠の時代となっている。群雄割拠の時代になると、最初に人々の心をつかんだ技術スタンダードがメインストリームとなり、淘汰(とうた)されていく。つまり戦いに勝利したモノが標準になるというわけだ。このような時代に勝ち残っていくためには、「大きな視座で戦局を見る力。つまり未来視力=ビジョンが必要になる」と石井氏は語る。

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一つのテクノロジーの寿命は非常に短くなっている一方で、ビジョンは長く残る。ビジョンドリブンの行動が求められる
(出典:MITメディアラボ)


情報は流水。水流の循環でどこを押さえるか

 現在、クラウドやIoTの進展により、世の中は大きく変わりつつある。このような状況を見通した概念「ユビキタスコンピューティング」の提唱者、マーク・ワイザー氏は石井氏の友人だったという。

 いまやあらゆるものがインターネットにつながり、クラウドでデータが蓄積される。それらの情報が流水のように流れ、循環していく。たとえばEvernoteはあらゆる情報をキャプチャーしてアップロードすれば、いつでもどこでも取り出すことができ、人々と共有することができる。

 石井氏は「情報は流水。クラウドと百億のマシンを結ぶ水路網=新エコシステムを高速循環する水流。印刷による永久凍結、オフライン記憶装置内での蒸発、防火壁内での死水化のせきを乗り越え、水流は加速を続ける。世界による共有・編集・再発信を繰り返しながら」という言葉で説明する。水際で水しぶきを浴びるだけではなく、水流が循環する中でどこを押さえていくかが重要になる。

「オフラインになっても処理ができるようにすることが次の大きなポイントになるかもしれない」(石井氏)

【次ページ】石井副所長がいま明かす「独創性のレシピ」
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