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顧客との強力な信頼関係を築くうえで、「カスタマージャーニー」の構築とその分析は必要不可欠となる。ではこのカスタマージャーニーはどう作成すればよいのだろうか。そしてこれを分析する上で、もっとも重要なポイントはどこにあるのか。その分析から得られた多種多様なデータを、いかに意味のある統合カスタマージャーニーへと紡いでいくのか。さらにそこで使うべきITツールはいかなるものか。ガートナー リサーチ部門 リサーチ ディレクター ガレス・ハーシェル氏が解説する。
カスタマージャーニーとは何か?何のためにあるのか
カスタマージャーニーとは、カスタマー(顧客)が商品やサービス、ブランドを認知してから購入(あるいは再購入)するまでのプロセスを「ジャーニー(=旅)」に見立てた言葉だ。
「ガートナー カスタマー 360 サミット 2017」に登壇したハーシェル氏は、カスタマージャーニーについて「計画は無意味。プランニングがすべて」という言葉を引用して、カスタマージャーニーにおける思考と行動のフレキシビリティの必要性を強調した。
計画はあくまで「ビジョン=考え方」であって、「プランニング=どう実現するのか」は、顧客のカスタマージャーニーの変化に合わせて変わっていくし、変わっていかなければならないという。
言うまでもなく顧客の状況や考えは変化を続けており、こちらが想定しなかったニーズが現れてくることもある。顧客のカスタマージャーニーを快適なものにし、自社の成果に結び付けるためにも、的確なプランを立案してそれに従いつつも、フレキシブルにそれを変化させていくことが必要となる。
だが同時に、ハーシェル氏は現代におけるプランニングの難しさも言及する。何年か前までは、カスタマージャーニーの方法は、メール、電話、実店舗などに限られていて、なおかつシンプルに理解できた。だがこれからは決して簡単とは言えないものとなっていく。
「とりわけIoT(モノのインターネット)やIoE(すべてのインターネット)では、すべてのものがチャネルになる。テニスラケットやコンピューター、住宅など、すべてがカスタマージャーニーの一部になっていくだろう。その複雑性の中で、顧客とのインタラクションをどう考えていくべきなのか。世の中はますます複雑になり、その中で最適な計画を立てることが非常に重要になってくるだろう」(ハーシェル氏)
カスタマージャーニーを3つの分類で理解する
ハーシェル氏は、カスタマージャーニーには大きく分けると3つあるという。
1.顧客の人生における旅=生まれてから亡くなるまでのジャーニー
私たちは、人生のライフステージごとに顧客にどんなイベントがいつ起こるかが、あらかじめわかっている。だが、誕生から入学、卒業、就職といったライフイベントを知っているだけでは意味がない。こうしたものが顧客一人ひとりの「重要な瞬間」として、本人にどんな意味をもたらすのか。そこまで掘り下げて理解する必要がある。
たとえば一口に「離婚」と言っても、人によっては不本意な結婚生活に区切りをつけて、新しい人生を始める前向きな意味を持つ場合もある。「こうした顧客ごとに異なるイベントの意味を正確に知ることは、顧客の人生の重要性に対して私たちが担う役割や、できることを見出すのにつながる」とハーシェル氏は強調する。
タイミングも非常に重要だ。せっかくの良いカスタマー・エクスペリエンスにつながる働きかけも、タイミングがズレたら無意味どころか反対の効果すらある。
過去の有名な事例だが、米ターゲットは、16歳の妊婦に、本人のお腹が目立つようになるより早く、妊婦向けのクーポンを送ってしまい、大騒ぎになった。同社では多くの顧客の指標を分析した結果、どの顧客がいつ出産するかまでを知ることができるようになっていた。だが、その妊婦の父親は、まさか自分の娘が妊娠しているなどとは知らないので、「なんてものを送りつけるんだ」と同社に抗議し、後から本当に妊娠していることを知って、二度驚かされることになってしまったのだ。
最適なタイミングならば喜んでもらえる「妊婦向けクーポン」というカスタマー・エクスペリエンスが、顧客当人さえ知らないことを企業が知っていることで、喜びどころか“不気味”さを感じさせてしまったわけである。顧客のすべての情報を知ることはできたが、活用のタイミングを誤ったがゆえに、顧客マーケティングとしては失敗してしまったという教訓だ。
2.カスタマーリレーションシップのジャーニー
カスタマージャーニー分析のプランニングにおける課題とは、カスタマージャーニーを理解するにつれ、柔軟に対応を変えていけるようになることだ。それは言い換えれば、いかに顧客セグメントごとに異なるカスタマージャーニーをつくり出し、的確に管理していくかという問いだ。
具体的には、さまざまな顧客ごとのカスタマージャーニーを正確に分析し、その顧客にたどって欲しいジャーニーをマップ上に落とし込んでゆく取り組みである。もしそれができないのだとしたら、そもそもカスタマージャーニーの分析をする意味はない。
マップができたら、次は何に投資すべきかを可視化する。たとえば、スタッフのトレーニングに投資をするのか。それともWebやモバイルアプリケーションに投資して、顧客とのインタラクションを強化する必要があるのか。その決定に基づき、コストを投下したチャネルからデータを収集し、分析し、活用するという流れになっていく。
3.顧客になってみる=客の立場でカスタマージャーニーを体験する
私たちは、カスタマージャーニーについて考えるときも、つい無意識に自社の視点で考えてしまいがちだ。顧客の立場や観点から、「自分はどんなカスタマージャーニーを体験していくのか」を考えてみよう。それも1人の顧客の誕生から死までを、克明にシミュレーションしてみることだ。
カスタマーの観点から、どんなサイトにアクセスしてどんな商品を買って、どんな使い方をするのか……を、具体的にイメージしてみることだ。今までに気づかなかった新しい気づきに出会えるかもしれない。
【次ページ】カスタマージャーニー分析のフレームワークと4つのプロセス
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