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  • 2021/04/08 掲載

野村とクレディ・スイス「巨額損失のカラクリ」、2社の犯した御法度とは?

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野村ホールディングスが、米顧客との取引に関連して約20億ドル(2,200億円)の損失を出す可能性が高くなった。ほかの投資銀行も損失を抱えた模様で、市場ではちょっとした動揺が広がっている。こうした巨額損失を発生させる原因は何だろうか。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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なぜ、野村は2200億円もの巨額損失を出したのか
(写真:ロイター/アフロ)

損失を出した投資銀行、ビジネスモデルとは

 多くの人は、米国のウォール街に代表される証券市場において、投資銀行がどのようなビジネスをしているのか明確な認識は持ち合わせていないだろう。映画やドラマの世界における金融マンというのは、「いちかばちか」に賭ける「危険な人たち」であり、当たれば巨万の富を得て、外せば破産というイメージかもしれない。

 たしかに、これに近いビジネスを行う投資ファンドは存在しているが、それはウォール街のごく一部を切り取った姿に過ぎない。株式市場における主役の1人である投資銀行(日本では証券会社が一番近い業態)は、基本的にこうしたサイコロを振るようなビジネスは行っていない。

 株式市場には、実際にリスクを取って投資を行う投資ファンド(あるいは個人投資家)と、投資ファンドなどに対して売買の仲介など各種サービスを提供し、手数料を稼ぐ投資銀行という2種類のプロが存在している。

 投資ファンドは自らリスクを取るので、投資した商品(株式や債券など)が値上がりするかどうかがすべてを決める。だが投資銀行はあくまで手数料を獲得するビジネスであり、自らが投資するわけではない。顧客が得しようが損しようが手数料をもらえば勝ちなので、過大なリスクを負う必要はないのだ。投資銀行の一部門では、自ら投資を行うところもあるが、基本的に投資銀行というのは手数料ビジネスで成り立っていると考えて良い。

 投資家にもさまざまな種類があり、危険な投資をするファンドも存在する一方で、年金基金のように何十兆円という資金を堅実に運用するファンドある。こうした超大型ファンドの売買を仲介できれば、それだけで投資銀行には巨額の手数料収入が入ってくる。投資銀行マンに求められるのは、大規模な取引を行うファンドに食い込める営業力であり、顧客を開拓できる銀行マンは高額報酬で他社に引き抜かれることも多い。

 今回、損失を抱えた野村證券の米国子会社も、基本的には投資銀行業務を行っており、自らリスクを取って投資をしているわけではない。

 筆者は今回のニュースを最初に耳にした時、ヘッジファンドにサービスを提供する、いわゆる「プライム・ブローカレージ部門」での損失ではないかと予想したが、案の定のその通りだった。

 プライム・ブローカレージ部門というのは、ヘッジファンドに対して各種サービスを提供することで手数料を獲得する部門である。あくまで手数料ビジネスなので、自らが巨額の損失を抱える必要はないはずだが、なぜこのような結果になってしまったのだろうか。

 野村證券は詳細を明かしていないので、現時点において事実をベースに記事を書くことはできない。この点についてはご容赦いただきたいが、おおよその状況は想像できる。

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野村の巨額損失の原因は、ヘッジファンドにサービスを提供する、いわゆる「プライム・ブローカレージ部門」での損失か?
(Photo/Getty Images)

巨額損失の原因?「プライム・ブローカレージ部門」とは

 プライム・ブローカレージ部門は、基本的にヘッジファンドを主な顧客としてブローカレージ(仲介)業務を行っている。売買を仲介するという点では、私たち個人が利用するネット証券に代表されるような、一般的なブローカレージ部門と大きくは変わらない。ではプライム・ブローカレージ部門は具体的に何が違うのだろうか。

 ヘッジファンドにはさまざまな種類があり、極めて高い頻度で売買を行ったり、元手となる金額の何倍もの金額を借り入れてリスクの高い投資を行うところもある(レバレッジは「てこ」のことで、元手の何倍もの金額で相場を張ることをレバレッジをかけると言う)。

 そうなってくるとヘッジファンド側には、証券会社に注文を出すだけでなく、リアルタイムの損益確認、借入れ比率の随時変更など、煩雑な付帯業務が発生する。ヘッジファンドは少数精鋭で運営されることが多く、しかも投資判断にすべての精力を傾けたいので、こうした膨大な事務作業や手続きは外注するケースが多い。


 ヘッジファンドのこうしたニーズに対応するのがプライム・ブローカレージ部門である。同部門では、売買の仲介はもちろんのこと、リスク管理の代行や損益の計算、取引システムの貸し出し、空売り(株式を借りてきて売却し、後に買い戻す取引)用の株式調達や、場合によっては資金の貸付けまで行う。つまり、ヘッジファンドの業務を丸ごと請け負うビジネスを行っており、状況次第では、ヘッジファンドの取引がスムーズに進むよう、一時的に株式を引き受けるといった業務も実施しているはずだ。

 もしプライム・ブローカレージ部門が、単にシステムの貸し出しや売買の仲介だけにとどめていれば、すべてのリスクはヘッジファンド側が負っているので、ヘッジファンドが破綻しても、顧客を失うだけで投資銀行は何も損しない。だが、ヘッジファンドに多額の資金を貸し付けていたり、取引を手助けするようなところまで業務を拡大していた場合、一部のリスクを投資銀行側が負ってしまう。

【次ページ】「野村」「クレディ・スイス」、巨額損失のカラクリ

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