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ここ数年のキャッシュレス化の進展とともに、金融サービスの高度化が進んできたが、それと同時に決済サービスに関する課題も浮き彫りになってきた。金融サービスの現状と課題、さらには新たな決済インフラとして期待される「次世代資金決済システム」について、かつて金融庁に出向し資金決済に関する法律や政府令の策定に関与した経歴を持ち、現在はFintech協会理事を務める、森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士・堀天子氏に話を聞いた。
公正取引委員会が問題視する「金融サービスの現状」
社会全体のデジタル化という大きな流れを受け、金融サービスの高度化も進んでいます。こうした中、資金移動業者のような新しいプレイヤーが参入し金融サービスの種類が増えてきていること自体は、消費者の利便性の向上にもつながり、金融業界全体としてもプラスの面が大きいと言えるでしょう。
ただし、課題がないわけではありません。金融業界において新しいサービスや新しい担い手が増えれば増えるほど、サービスを裏側から支えるインフラの問題点も浮き彫りになってきています。現在のインフラやシステムが将来的にも最善であり続けるのか、インフラの利用料が高止まりしている現状のままで良いのか、議論すべき課題が出てきているのです。
2020年4月、公正取引委員会から「フィンテックを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題」という報告書が発表されました。その中に「家計簿サービスに関する実態調査」と「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査」に関する記述があります。
ここで、問題点がいくつか言及されています。「銀行と電子決済等代行業者との間の競争は公平なのか」「銀行が新たなシステムを導入する際に、既存のベンダー(金融システムの提供者)が妨げになっていないか」などです。
デジタル社会において、金融機関に求められる変革として重要なポイントは「『デジタルでつながること』イコール『多様なシステムと連携すること』」です。すなわち、これまでのように、単独の金融機関がインフラを所有し金融商品や金融サービスを提供する、といった具合に1金融機関でサービスが完結するのではなく、他の事業者とシステムやサービスを連携させることで、顧客に最適な包括的なサービスを提供できるような体制への変革が求められているのです。
昨今顕在化してきている課題の根源にあるのは、複数のサービス・システムと組織の連携にあると考えられるのです。
決済サービスと銀行の連携高度化がもたらした課題
2020年に起きた「ドコモ口座」不正出金による被害は、決済サービス業者と銀行との接続が狙われたことによって起こった問題でした。結果的にはドコモ口座と銀行口座の紐付時の認証の弱い部分が標的にされたことが原因とされています。
かつては自社のサービスのリスクだけを考えて、セキュリティ対策を行っていれば良かったのですが、デジタルでの連携が高度化している現在においては、それだけで十分とは言えません。他社とデジタルで連携している場合には、つながっている相手のサービスもしっかり見渡して、安全性を確認する必要があります。つまり、自社の領域だけでなく、他社の領域も含めて確認した上でのセキュリティ構築が不可欠となるのです。
たとえば、「BaaS(APIを介して、さまざまな金融サービスを提供する仕組み。Banking as a Serviceの略語)」や「エンベデッド・ファイナンス(銀行以外の事業者が金融サービスを組み込み、新しいサービスを生み出す仕組み。『埋め込み型金融』『組み込み型金融』とも呼ばれている)」が提供されるようになると、サービスのうち誰がどの機能を提供しているのかすら、よく分からない状況が出てくるでしょう。
利用者は便利であれば使うわけですが、何か問題が発生した場合には、関係者が複雑に絡み合っているため、責任の所在を特定することが難しくなります。決済サービスの高度化に伴って、安全性の確保と責任分界点の確認は必須となってくるでしょう。また、連携によって責任の所在の特定が困難な場合があるとしても、利用者保護を図ることは、金融サービスの信頼確保に向けて不可欠と言えます。ドコモ口座の不正出金の事例を参考にして、課題の克服が求められるのです。
2020年には全銀協による「資金移動業者等との口座連携に関するガイドライン」、決済協による「銀行口座との連携における不正防止に関するガイドライン」と、業界全体から相次いでガイドラインが発表されました。金融業界全体で「一緒に取り組む」という流れになってきていることがみてとれます。課題克服の鍵は「当局や業界がガイドラインで示したことをいかに実務に根ざした形で安全に積み上げていけるかどうか」にかかっています。
資金移動業者と銀行との連携は、さらに深くなっていくと予想しています。競争というよりも、むしろ棲み分けと協力が進んでいくという表現がふさわしいでしょう。サービスの性質も違いますし、同じことをやる必要もありません。それぞれの連携と適切な公正な競争が進むことによって、結果として利用者の選択肢が増えるのは良いことであると考えています。
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