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金融業界におけるグローバル化に伴い、架空口座や他人名義口座を不正に利用し、犯罪によって得られた不正資金の出所や真の所有者を分からなくする「マネー・ローンダリング(資金洗浄、以下マネロン)」や、テロリスト・テロ行為への資金供与(以下マネロンと併せ、マネロン・テロ資金供与)などが増加している。こうした中、2019年秋に、マネロン・テロ資金供与対策における国際協調を推進するFATF(ファトフ)による「第4次対日相互審査」が行われた(審査結果の公表は2021年8月頃の予定)。前回の第3次対日相互審査では極めて厳しい評価を受けた日本だが、今回はどのような結果となるか。今後、日本の金融機関に求められる対応のポイントについて、御堂筋法律事務所の高橋良輔氏と津田慧氏に聞いた。
FATFの「第4次対日相互審査」とは
全世界で資金洗浄されている金額は、世界全体のGDP(国内総生産)の約2~5%(約8,000億ドル~2兆ドル)に上ると推定されています(金融庁2020年2月発表の『規制の精緻化 マネー・ローンダリング対策に係る実証事業について』)。こうした金額規模から見ても、マネロン・テロ資金供与対策は、各国共通の重大課題と言えます。
マネロン・テロ資金供与は各国が個別に規制を強化したとしても、より規制の緩やかな国の金融機関が抜け道として使われてしまうため、国際協調の枠組みの中で対応することが不可欠になります。こうしたマネロン・テロ資金供与対策の活動を先導するのが、FATF(ファトフ)です。
FATFは、1989年にアルシュ・サミット合意により設立された政府間タスクフォースで、英語の正式名称は「Financial Action Task Force」、日本語では「金融活動作業部会」と訳されています。現在、37の国と地域、2つの国際機関(EC、GCC)が参加しており、マネロン・テロ資金供与対策に関する国際基準であるFATF勧告の策定・見直しのほか、FATF参加国・地域相互間におけるFATF勧告の遵守状況の審査などを行っています。
そのFATF第4次対日相互審査が、2019年10月末から11月中旬にかけて行われました。同審査結果の公表はコロナ禍の影響で、当初の2020年8月頃から大幅に後ろ倒しとなり、2021年8月頃となる予定です。この審査結果に基づいて、当局と各金融機関は対応を求められることになります。
過去の日本のFATF対応と第4次対日相互審査結果の予測
日本はこれまでにも3回のFATFによる審査を受けており、その結果を踏まえ、関連法令を改正してきた経緯があります。前回の第3次対日相互審査(2008年)では40の勧告と9の特別勧告のうち、半数以上の25項目に不備がある(10項目:不履行、15項目:一部履行)という審査結果になってしまいました。
その要因の1つは、日本におけるマネロン・テロ資金供与対策の一部が金融庁の監督指針により求められていたところ、同指針が強制力のある手段に該当しないとの判断がされてしまったことにあります。その後、前回の審査を踏まえて関連法令の整備が進み、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が順次改正・強化されるなど、不合格水準とされた事項の改善が図られています。
第4次対日相互審査の結果公表は2021年8月頃を予定していますが、すでに29カ国の審査結果が公表されており、相互審査の傾向が明らかになってきました。なお、第3次相互審査が「法令等の整備状況」のみを対象としていたのに対して、第4次相互審査では「法令等の整備状況」に加えて、「有効性」も対象となり、合格水準と評価される難易度も上がっています。
実際に審査結果が出た29カ国中21カ国が不合格水準という評価を受けています。国ごとに不合格水準と評価された理由は異なりますが、いずれの国にも共通しているのは、金融機関における“リスクベースの対応”に関する項目が未達成となっていることです。国ごと、業態ごと、業者ごとに、そのリスクや対策のポイントが異なるため、「これさえやっておけば良い」という一律の対策が存在せず、このことが難易度を高めているものと考えられます。
日本においては金融庁が2018年2月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表しています。同ガイドラインは、2019年4月に改正された後、2020年12月11日にも改正案が公表されています。この改正案はFATF第4対日相互審査も踏まえつつ、金融庁のモニタリングの中で把握した課題などを整理したものです。
同改正案のポイントは、金融機関における経営陣の主導的な役割の明確化や、リスクの特定・評価の整理、顧客管理に関する実務的な要請などであり、金融機関によるマネロン・テロ資金供与対策のより一層の高度化を加速させたいという金融庁の意図が見受けられます。
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