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保険業界は現在、法令順守などの厳しい規制を受けながらも、新商品の開発や販売チャネルのデジタル化による成長を模索中だ。しかし、ニーズがはっきりとした顧客であっても、適切な商品が提案されなければ売れる商品も売れない。保険会社の商品開発やマーケティング、システム開発などを支えるインシュアテック(保険テック)企業justInCaseTechnologiesのビジネス開発責任者らに、保険販売における課題を整理してもらい、販売・マーケティングのポイントを解説してもらった。
日本の「保険販売」の実態とは?
ここ数年、日本の保険業界は販売チャネルのデジタル化などDXを進めてきました。しかし、まだまだ課題はあると考えています。はじめに、保険販売のDXにおける課題を解説していきたいと思います。
そもそも、保険販売はどのように行われているのでしょうか。保険商品を購入する顧客の視点から購買プロセスをいくつかのステップに分けると、「検討」「加入」「変更/更新」「支払い」に分かれます。
保険業界のDXで先行する海外企業の場合は、すでに「検討」から「支払い」まで、保険販売におけるすべてのプロセスのデジタル化が進みつつあります。一方、日本の保険業界の場合は、顧客の購買行動の入口となる「検討」の段階と、出口となる「支払い」の領域のデジタル化に留まっている状況です。
これは、日本と海外の金融規制の違いなども要因として考えられます。また、ビジネスにおけるDXの方向性には、大きく分けると「デジタル化でより稼げる力を付ける」と「デジタル化でコスト削減」の2つがありますが、このうち効果の出やすい「コスト削減」を保険会社が考える場合、保険販売における「入口」と「出口」にメスを入れることが最もコスト削減効果が期待できるため、この領域からデジタル化が進んでいるのだと考えられます。
現在、具体的に見られる日本の保険会社のDXの事例としては、他業種に比べると改善余地のあるUIやUXを向上させる取り組みや、顧客との接点を広げるために保険販売のチャネルをWeb上に作るといった動きが多いかと思います。
しかし、こうした保険商品の募集導線をデジタル化していくことだけでなく、今後は顧客の行動データを収集・分析し、そこから得られた知見を活用することで保険会社は「各顧客に最適なアプローチ(パーソナライズ化)」ができるよう変化していく必要があると感じています。これが保険業界の目指すべきDXの方向性の1つだと考えています。
同時に、従来の保険販売の接点となっていたリアルチャネル(代理店・郵送・電話)も駆使し、クロスマーケティングをふんだんに使いながら、DXを進めていくこと、つまりデジタルと人の融合を図ることが望ましいのではないでしょうか。
教科書通りの「売り方」がダメな理由
それでは、より良い保険販売の在り方とはどのような形になるのでしょうか。ここからは、ありがちな保険販売の失敗談を紹介しつつ、保険販売のポイントを考えていきます。
紹介するのは、当社の関連会社で、保険商品の開発をするjustInCaseの事例です。justInCaseでは、日本発の後払いのがん保険である「わりかんガン保険」を開発したり、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてコロナで入院した場合に給付金が受け取れる「コロナ助け合い保険」を開発するなど、ほかの保険会社とは異なる切り口の保険商品を開発してきました。
そんな当社の関連会社のjustInCaseですが、もちろん保険商品の開発・販売において、あらゆる失敗も経験しています。
たとえば、従来の保険商品の販売におけるセオリーには、「まずは顧客の悩みを聞く」「そこから、顧客の悩みを解決するソリューションとしてプロダクトを提示する」といった流れがあります。とはいえ、この教科書通りの売り方では商品が売れないといったケースはよくあります。こうした販売のセオリーに従っているからと言って、顧客が登録しているメルマガの反応率が良くなったり、販売促進活動の効果が上がったりするわけではありません。
それではどうすべきでしょうか。保険商品の販売においても、顧客の購買行動のプロセス(カスタマージャーニー)を整理しつつ、購買行動の「注意・喚起」「興味・関心」「検索・比較」「行動・購買」のうち、どの領域にいる人に、どのようなアプローチが最適かを想像した販売アプローチが求められるのです。
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