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三菱UFJ信託銀行が、個人情報データを預かって民間企業に提供する「情報銀行」に乗り出すことになった。ネット企業による個人情報の管理のあり方が社会問題となっているが、情報銀行はこれを解決するひとつの手段になる。情報銀行とは具体的にどのようなビジネス・モデルなのだろうか。
フェイスブックのデータ不正流用事件をきっかけに流れが一変
これまでネット企業が収集した顧客情報は、各企業が独自に管理しており、情報を提供した本人が、自分の情報にアクセスすることはできなかった。ネット上でサービスを提供する企業が、個人情報を独占的に管理することについて批判の声はあったが、こうした批判がネット企業のサービスに反映されることはほぼゼロだったといってよい。
だが、米フェイスブックのデータ不正流用問題が状況を大きく変えた。
今年4月、英国のデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックのデータにアクセスする自己診断アプリを使い、8700万人の個人情報を本人の許可なく入手。そのデータが2016年の米大統領選でトランプ陣営の選挙活動に使われたことが明らかとなった。
この事件をきっかけに、米国ではフェイスブックに対する批判が高まり、CEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグ氏は議会証言に立たされた。
欧州では5月に入って、フェイスブックをはじめとするプラットフォーム企業を標的にしたGDPR(一般データ保護規則)を施行。企業に対して個人情報の厳格な管理を求めるようになった。GDPRではIPアドレスなどインターネット上の情報も「個人情報」とみなされ、欧州、域外の企業であっても規則の対象となる。
特に重要なのは、ネット企業が収集する個人情報について「利用者自身が管理する権限を持つ」という考え方が明確に示されたことである。つまりネット企業が独自に収集した情報であっても、それをコントロールする権利は、基本的に利用者に帰属するということになる。
この考え方が明確化されたことの影響は極めて大きい。少なくとも欧州では、情報の管理権が個人に帰属するため、企業側は、収集した情報を利用者が閲覧・管理できるツールを提供する必要に迫られる。どこまで管理できるようにするのかは判断が難しいところだが、ネット企業側の負担が増大することは間違いない。
利用者が企業に提供できる情報を選択
こうした状況から、「情報銀行」というビジネス・モデルがあらためて注目を集めている。情報銀行とは、ネット上の個人情報を一元的に管理し、個人情報の提供者の意向に合わせて、各企業に情報を提供する一連の仕組みのことを指す。
今回、三菱UFJ信託銀行が開発したのは「DPRIME(仮称)」と呼ばれるプラットフォームで、政府が検討を進めているデータ流通環境整備の方向性に沿ったものだ。
サービスの利用者はスマホのアプリを通じて個人情報を入力し、企業側はこの情報に対価を支払った上で利用する。具体的には個人の健康情報や行動情報、家計収支などが収集対象となっており、利用者は自分が提供する情報を選択できる。
続いて企業側が求めるデータやその利用目的などがアプリ上に表示されるので、利用者は、企業に提供してもよいと思える情報を選択し、情報の利用を許諾する。データ提供を受けた企業は、利用者に対して一定額の報酬を支払った上でその情報を利用することになるが、対価としては現金のほか、無料チケット、クーポンなどが想定されている。
同行は、今年の8月から実証実験を開始し、サービス開始に向けたノウハウを蓄積した上で2019年には本格的に事業に乗り出したい意向だ。
このプラットフォームの最大の特徴は、提供した情報に対して対価が支払われることである。
利用者はわざわざ自身が提供する情報を選択し、その提供によって対価を得るので、能動的に情報の提供に応じていることになる。企業が個人の情報を利用することが避けられないのであれば、むしろ積極的に情報を管理して、対価を受け取った方が得策であるというのは、ひとつの考え方といってよいだろう。
【次ページ】お金をもらって情報を提供するか、お金を払っても情報を守るか?
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