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東京証券取引所(以下、東証)の取引システムに障害が発生したことにより、株式などの金融商品が終日取引停止となった。事態を受け、金融庁は東証への立ち入り検査を始めている。取引所の停止は金融市場の混乱につながりかねない。再発防止に向け、東証をはじめ日本の金融市場にはどのような変化が求められるのか。日本総合研究所 調査部 上席主任研究員の石川智久氏に話を聞いた。
東証のシステム停止、海外の評価とは
今回の東証のシステム障害に対する市場参加者の反応ですが、日本のメディアでの報じられ方とは裏腹に、海外投資家はそれほど深刻に受け止めていなかったと考えています。その最大の理由となっているのが、東証のシステム障害後の優れた事後対応にあるでしょう。
事件発生後、東証は速やかに売買停止の方針を通知したほか、会見を開きシステム停止の原因がハードウェアの故障にあったことを発表しました。
原因が“分からない”状況を嫌う市場参加者からは、東証の発表によりシステム停止の原因が、サイバー攻撃によるものではない(=2次被害が想定されにくい)ことが明らかになった点、さらに会見を通じて東証の経営陣の技術理解の深さが伝わった点などが好感されたものと考えられます。
また、株式市場への影響が限定的だった背景には、米大統領選が関係している側面があるかと思います。ここ数カ月は、大統領選の行方が、世界の投資家の最大の関心ごとになっています。大統領選の結果を投資ポジションの判断の軸に置く投資家は多いことが想定され、東証のトラブルはそれほど大きな株価材料にならなかったのではないでしょうか。
取引所停止で想定される最悪のシナリオ
もちろん、一部の海外メディアでは、東証のシステム停止を深刻な事態と報じています。しかし、これは、東証自体の問題点を指摘しているというよりは、「取引所が終日停止してしまうことの影響の大きさ」を指摘しているものだと考えています。
仮に、取引所が終日停止すると、投資家の注文した取引が不成立になったり、そもそも注文が入らなくなってしまいます。投資家は適切な取引のタイミングを逃し、損失を負ってしまうことがあるかもしれません。特に、相場が大きく動く局面であれば、取引が成立しないことで投資家が被る損失は大きいでしょう。
このように、一時的に取引システムが停止することの影響は大きいですが、より深刻なのは「誤った取引が成立してしまうケース」です。証券取引において、誤発注とはいえ一度取引が成立してしまえば、基本的には取り消しはできません。確かにシステムトラブルの内容によっては例外的に認められる可能性は否定できませんが、訴訟などにつながり、混乱が広がる可能性もあります。
もちろん、そうした事態が起こらないよう、取引情報は慎重に管理されていますが、仮にサイバー攻撃などにより誤発注を伴うシステム障害が起これば、取引市場だけでなく、日本全体に混乱が広がるような最悪のシナリオも想定されます。
今回の事態を受けて、早速東証では「再発防止策検討協議会」が設置されました。ここでは、(1)取引再開の基準や再開判断時の手続きの明確化、(2)発注済み注文の障害時の扱い、(3)東証と証券会社双方のシステム対応など。証券会社など取引参加者を交えた定期訓練、(4)英語やSNSによる障害時の情報発信の強化などが議論されます。
ある意味、トラブルは技術レベルを向上させる良い機会です。この協議会をうまく活用して、安心できる取引所に向けた取り組みが進むことを期待しています。
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