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業務効率化や生産性向上を実現するテクノロジーとして「RPA(Robotic Process Automation)」が注目を集めて久しい。実際に民間企業や自治体での導入も進んでいる。ただ、AI(人工知能)やマクロ、VBAとの違いを明確に理解しているだろうか?RPAの基礎知識から活用事例、主要製品や導入における課題までを分かりやすく解説していこう(2022年1月12日一部調整)。
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「RPA」(ロボティックプロセスオートメーション)の定義は?
企業の変革に欠かせないツールとして注目されているRPA。RPAとは「Robotic Process Automation」の略語で、事務作業を担うホワイトワーカーがPCなどを用いて行っている一連の作業を自動化できる「ソフトウェアロボット」のことである。
多くのオフィスでは日々さまざまな事務作業が行われている。たとえば、メールに添付されてきた商品情報をまとめたExcelファイルの内容を、基幹システムの商品登録マスタに「コピー&ペースト」して転記する作業や、FAXで届いた発注書の内容を手入力でEDI(電子データ交換)システムに入力する作業などがある。これらの定型的で反復性の高い業務RPAを活用すると、大きな効果を発揮できる。
かつて、職人たち(ブルーワーカー)が手作業で行ってきた業務は、産業革命以降、機械化されて生産性が向上した。近代では溶接や接着などの組み立てなどを産業用ロボットが代替し、熟練した職人の手にも劣らないほどの質を保ちつつ、生産性向上に貢献している。RPAとは、いわば「ホワイトワーカーのための産業用ロボット」である。
RPAの得意分野と不得意分野
RPAは万能ではなく、得意分野と不得意分野がある。大原則としてRPAの適用範囲は「判断を伴わない、単純な作業」が中心となる。仮に「前進しろ」と命令されれば前に進むだけで、行く手に障害物があれば止まってしまう。障害物を検知し、迂回行動を自律的に判断できるのはRPAではなくAIである(AIとの違いについて、詳しくは後述)。
RPAの代表的な長所と短所を以下挙げよう。
【長所】
・正確に作業を実施できる
・人間に比べ、作業スピードが圧倒的に速い
・24時間365日、休まず働き続けることができる
【短所】
・アクシデントや例外処理に弱い。遭遇した際には、作業が止まる
・あらかじめ命令されたことしかできない(判断できない)
・複雑なことを実施させるためには、タスク分解された多工程の命令を与えなければならない
RPAは、しばしば「知識の浅い新入社員」に例えられる。教えられたことしかできないし、不可知のアクシデントに遭遇すれば、仕事が止まることもある。入社したての新入社員に対しては、一連の業務のうち、判断を伴わず、また例外処理がなるべく少ない一部の業務だけを切り出して任せることが多いだろう。
また、RPAは「人との協働作業」によって真価を発揮する。人間が判断を下してRPAが作業をする、また例外処理が発生した際には人の手助けが必要だ。ある一連の業務に関し、一気通貫で担うことができるシステムとは、この点で大きく異なる。
RPAとVBAはどこが違うのか?
PC操作の自動化といえば、「VBA」を思い浮かべる人もいるだろう。VBAとは「Visual Basic for Applications」の頭文字を取ったもの。マイクロソフトが提供するExcel、Word、AccessなどのOfficeアプリケーションにおける処理の自動化を実現できるプログラム(またはそのプログラミング言語)を指す。
だが、VBAは、Officeアプリケーション内で行われる処理を自動化するためのものであり、原則として同アプリケーションでしか動作しない。対してRPAは、PC内で行われる作業を全般的に自動化できる。ただし、VBAがExcelで実施できる複雑な統計加工処理などは得意ではない。
もう1つ、RPAとVBAの大きな違いは「プログラミング」だ。VBAで1つの処理を行わせるためには、VBA特有の命令文や構文などプログラミングを理解することが必要である。
対して、RPAは基本的にノンプログラミングである。複雑なプログラミングを学ぶ必要はなく、RPAの操作パネルを用いて、自動化させたい一連の操作を記録していくだけで済む。
Excelを始めとするOfiiceアプリケーションについて、各アプリケーションの特性を生かした高度な処理まで自動化できるのがVBAだ。対して、プログラミングなどの専門知識を必要とせず、PCで行う処理をアプリケーションに限定されず横断的に自動化できるのがRPAなのだ。
RPAとAIとの違いは?
RPAと混同されがちなものとして、AIも挙げられる。まず、AIについて確認しておこう。
AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字を取ったものであり、「人工知能」と訳される。AIの最終的な目的は、人間の思考、知能、知覚や行動など、人間の振る舞いを人工的に再現することだとされる。対して、前述したとおりRPAはあらかじめ命令された作業処理しか行うことができない。
現在、RPAにAIを組み合わせることで、より高度な自動化処理を実現する研究が進められ、そして実現され始めている。たとえば手書きで書かれた申込書などを、AI-OCR(光学文字認識)の技術で読み取ってデジタルデータ化し、それをRPAでシステムのデータベースに取り込む技術も出てきている。FAXによるやり取りが多い日本では、業務改善に大きく貢献できる活用事例だといえる。
また、AIとRPAの間に明確な境界線は引きにくいのも実情である。現在のAIは、あらかじめ人が設定したルールを元に判断を下す「ルールベース型AI」と、過去のデータを元にして近しい類型ケースを抽出、処理に用いる「機械学習型AI」の2つが主流である。拡大解釈をすれば、RPAにおける定型処理を膨大に登録したものがAIであると言えなくもない。RPAとAIが相互に発展することで、これからの私たちの社会やビジネスに貢献していくと考えられる。
RPAの種類と主な製品、市場
ここからは、RPAの種類と主要な製品を紹介していく。RPAには、「デスクトップ型」と「サーバ型」の2つの種類がある。なお、サーバ型には、クラウドの技術を用いた「クラウド型」も含まれる。デスクトップ型とサーバ型の特徴、違いは以下のとおりだ。
【デスクトップ型】
・RPAソフトウェアをインストールしたPC内で稼働する
・比較的安価な製品が多い
・担当者のPC内で稼働するため、操作が比較的簡単で管理も容易
・横展開がしにくい。RPAの利用範囲を担当者から部門、事業部へと拡大していくのは難しい
【サーバ型】
・RPAがサーバ内で稼働するため、業務を横断的に自動化しやすい
・デスクトップ型に比べると、高額な製品が多い
・多数のロボット(デジタルレイバー)を同時に稼働可能
・組織における横展開がしやすい
このように、デスクトップ型、サーバ型(クラウド型も含む)には、それぞれ一長一短がある。中には、導入する組織や業務の特性に合わせて、両方のタイプや異なるRPA製品を導入している企業もある。近年はクラウド型で比較的安価なRPA製品も登場しており、製品選択の幅は広がっているといえる。
代表的なRPA製品 (実績や料金形態は2019年10月執筆時点のもの)
Automation Anywhere(Automation Anywhere社)
世界1600社以上の企業で導入されている高機能RPA。利用料金は他RPAと比較しても高めだが機能・性能への評価は高い。
・BizRobo!(RPAテクノロジーズ社)
ビジネスパートナーが多く、業界に合わせた拡張パッケージも豊富。2019年、利用企業社数が1,000社に到達した。
・Blue Prism(Blue Prism社)
15年以上の歴史を持つ、RPAの老舗的存在。セキュリティや大規模環境での運用管理に強みを持つ。
・RPA Express(WorkFusion社)
無料RPAの代表格であり、「RPAを試してみたい」という方に適している。サポートが充実した有料版もある。
・UiPath(UiPath社)
グローバルで4000社、国内で1000社以上の導入実績あり。非営利団体、小規模事業者、教育機関、研究機関等は無料で利用可能。
・WinActor(NTTグループ)
NTTグループで開発された純国産RPA。導入実績は約4000社を超える。サーバ型、デスクトップ型の双方がある。
事実、RPA市場は拡大を続けている。矢野経済研究所のレポートによれば、2018年度のRPA市場は、134.8%増の418億円に拡大すると予測されている。同市場は今後も成長を続け、2020年度には約1.6倍の537億円へ、2022年には約1.9倍の802.7億円への拡大を見込んでいる。市場が拡大すれば、RPA製品および関連サービスの価格も下がる。ユーザーにとっては、一層RPAを導入しやすい環境が期待できるだろう。
「スマート自治体」実現に向け、RPA導入が進む自治体
RPA導入は民間企業、自治体を問わず、さまざまな組織で導入されている。日経グローカル誌が2019年2月~3月に行った調査によれば、都道府県で10.6%、市区で3.6%の自治体がすでにRPAを導入済みだという。さらに、導入意向について尋ねたところ、「2019年度に導入する」および「導入する方向で検討・研究している」と答えた都道府県の合計は57.4%、市区は19.7%となっている。
自治体でRPAやAIの導入が進む背景には、総務省が主導する「スマート自治体」というビジョンがある。同ビジョンでは、「人口減少が進む社会でも行政サービスの提供を維持すること」「職員を事務作業から解放し、より価値ある業務に注力させること」「ベテラン職員の知見をAI等に蓄積・代替することで、団体の大小や職員の経験によらず、事務処理を正確に行うこと」などが目標に掲げられている。また2019年5月に発表された報告書には、複数の具体的方策の中に「AI・RPA等のICT活用普及推進」が明記されている。
ユニークなRPA導入事例:つくば市
自治体におけるRPA導入への取り組みの中でも、特にユニークなつくば市(茨城県)の取り組みを紹介しよう。同市はNTTデータ、クニエ、日本電子計算とともにRPA導入を進めている。ユニークなのは、RPA導入に向けた研究・実験過程を公開している点だ。このレポートが、自治体におけるRPA導入推進のみならず、民間企業におけるRPA検討にも貢献したことは想像に難くない。
2018年5月に発表された研究結果を見てみよう。
つくば市では、新規事業者登録や電子申告の印刷作業など市民税課における5業務と、市民窓口課における異動届受理通知業務にRPAを導入した。
導入の過程では職員全員に対して業務効率化に関するアンケートを実施。RPA実証実験の対象となる業務を選定した上で、対象業務に対するRPA導入を図った。RPA導入の前段階では、対象業務に対する業務プロセスを可視化し、RPAの設計図にあたる動作シナリオを作成している。
その結果、市民税課では年間約336時間(削減率79.2%)を、市民窓口課では年間71時間(削減率83.3%)の業務時間の削減を実現したという。
つくば市の研究報告では、「市民税課業務全体の5%にRPAが適用できた場合、年間で約1,400時間の作業時間が削減でき、約370万円相当の時間外勤務手当が削減できる見込み」とまとめている。筆者は、この見込みは少々甘いのではないかと考える。本件を例として、RPA導入の課題を考えてみよう。
RPAの課題、導入・普及のボトルネックは?
なぜ見込みが甘いのか、その理由を挙げる。
・この取り組みでは「RPA化しやすい」業務、つまり業務の可視化が進んでいる業務を対象にRPA化した可能性が高い
・報告書によれば、「職員へのRPA研修は、RPAへの理解を深めるための初級レベルのもの」であり、職員自身によるRPA内製化には課題を残している
・RPA作成に関わるシナリオ作成などの多くをNTTデータ等の外部リソースに依存している。370万円程度の時間外手当削減効果では、費用対効果がマイナスになる可能性が高い。
総務省が2019年5月に発表した
資料 によれば、地方自治体におけるRPA導入における課題として以下が挙げられている。
(1)どのような業務や分野で活用できるかが不明
(2)導入効果が不明
(3)参考となる導入事例が少ない
(4)取り組むための人材がいない、または不足
(5)何から取り組めばいいのか不明
(6)取り組むためのコストが高額であり、予算を獲得するのが難しい
統計データ等が公になっている自治体を例に挙げてきたが、ここに挙げた事情や課題は、民間企業においても同様だと推測できる。
RPAを導入しても思うような効果が得られないのは下記のようなケースだ。
・作れない: RPAの作成や設定、チューニングができない。もしくはできる人がいない
・使えない: RPAがすぐ止まる。期待したような動作が実現しない
・面倒くさい: 日々業務が多忙で、RPAの作成、メンテナンス等を行うのが面倒
・分からない: 1次導入以降、次にどの業務にRPAを導入すれば良いのかが分からない(導入が拡大しない)
事業への活用には「RPA人材」が必要だ
RPAに幻滅する人の多くは、RPAに過剰な期待をしてしまっていることが多い。前述したように、RPAは大原則として、判断を伴わない単純作業しかできない。得意とするのは、定型業務や反復業務であり、判断等の高度なプロセスを任せることはできない。
RPAは「作って終わり」のものではない。導入・制作フェーズも重要だが、より重要なのは運用・修正フェーズである。RPAは導入後、トライ&エラーでブラッシュアップしていく必要がある。設計や制作段階では顕在化していなかった課題を、RPAに反映・修正し、より精度の高いRPAへと昇華させなければ、現場の満足度、そして生産性の向上という導入効果を得ることはできない。
つまり、RPAを組織内で十分に活用するためには、RPAの特性を理解した上で社内への浸透から運用・修正までできる人材が不可欠である。RPAとの協働作業のエキスパートであり、組織内におけるRPA普及のかじ取り役となる「RPA人材」である。RPA人材に求められる素養は下記だ。
【RPA人材に求められる素養】
・論理的思考: 業務を形式知化することができ、また形式知化した業務を、RPAに導入可能な形でシナリオ分解できる能力。
・ITリテラシー: RPAを理解し、RPAに対する操作、制作、修正などを行う能力。また、RPAの対象となるシステムを理解できる能力。
・コミュニケーション能力: RPAの必要性を組織内に説明できる能力。また、RPA導入や、導入後の修正にあたって、業務担当者から現状や課題、要望などをヒアリングできる能力。
RPA人材は、大原則として外部に求めるべきではなく、社内の人材で賄うべきである。それは、費用対効果の問題もあるが、最大の理由は「困った時に相談できる相手」がすぐそばにいる必要があるからだ。外部、たとえばシステム会社のSE(ソフトウェアエンジニア)などでは難しいこともある。
RPAはすべての企業の財産となり得る
2019年春、働き方改革関連法が施行され「生産性向上」を日本中の企業が目指している。その武器になるのが、RPAである。
RPAに対して「まだハードルが高い」と感じている企業や人が多いことも確かだろう。多くのRPA製品は、高額であり、中小零細企業が導入するにはハードルが高いものもある。また、先に挙げたRPA人材を育成するノウハウ、能力を備えた関連サービスも現状では限られている。そのため、RPAが本当のブレイクスルーを果たすためには、まだもう少し時間がかかるかもしれない。
だが、ぜひ多くの企業にRPAをチャレンジしてほしい。その取り組みは、きっと会社の財産になり、未来の可能性へとつながるはずだ。
〔参考文献〕
1)
大角暢之『知識ゼロからのRPA入門』幻冬舎
同書において、筆者は著者であるRPAテクノロジーズ社 大角暢之社長の考えや思いを文章にする、取材および執筆を担った。本記事執筆は、この経験をベースとしており、本記事の出典としてご紹介したい。
2)
中川内 克行『(日経グローカル 2019.5.6)特集 広がる自治体RPA : 都道府県の7割、市区の4割が導入・検討』日本経済新聞社
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