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  • 2023/11/02 掲載

【単独】2400名のDX人材育成、北九州市が「全職員」にノーコードツール配布の狙い

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デジタル庁主導の下、地方公共団体の基幹業務システムのクラウド移行やデジタル・トランスフォーメーション(DX)、DX人材の育成が始まっている。九州地方で第2位の人口規模を誇る政令指定都市である北九州市もDXを推進する自治体の1つだ。同市は、システムの内製化の促進とDX人材育成に向けて全職員を対象にノーコードツールを配布する取り組みを始動させた。3年で2400人と地方自治体で最大規模のDX人材の輩出を目指す。ビジネス+IT編集部は北九州市現地を訪れ、デジタル政策監を務める三浦隆宏氏に単独インタビューで話を聞いた。
聞き手・構成:松尾慎司、執筆:翁長 潤、写真:大参久人

聞き手・構成:松尾慎司、執筆:翁長 潤、写真:大参久人

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北九州市 デジタル政策監 三浦 隆宏氏
(写真:大参久人)

「デジタルで快適・便利な幸せなまち」の実現を目指す北九州市

 「デジタルで快適・便利な幸せなまち」の実現を目指して、北九州市が2021年12月に策定された「北九州市DX推進計画」だ。

 その背景は前編の記事を参照してもらいたいが、北九州市 デジタル政策監を務める三浦 隆宏氏によると「高齢化がピークを迎える2040年には、労働供給力がかなり低下することが予想される。それまでに何らかの手を打っておかないと、行政も民間も労働不足による問題が出てきてしまう」という。

 労働生産性を上げるためには、働きやすい環境を作る必要がある。そこでデジタルの力を借りながら労働生産性を高めるDXを進めている。

 三浦氏は特にDX推進のきっかけとなったのが「コロナ禍における生活様式の変化」を挙げる。これまでの市の行政手続きは「書面で対応」「市役所で順番を待つ」「書類に押印する」ことが当たり前だった。これがコロナ禍で人と接しない新しい生活様式に変化したことで、行政手続きのオンライン化が強く求められるようになった。

 現在、北九州市では市民視点での「北九州市民でよかったと感じられる市役所」、職員の視点では「職員でよかったと感じられる市役所」の2つを軸とするDXの取り組みを進めている。

 同市は市役所内に市長をトップに置く「デジタル市役所推進本部」を設置。「各施策の計画・検討段階から“デジタルファースト”の考え方を各所属のトップに繰り返しお願いしています」(三浦氏)という。

北九州市が取り組む「12の集中取組項目」とは?

 2021年の「北九州市DX推進計画」では、その中核として3つのスローガンを掲げるとともに、市民が抱える課題解決策として「12の集中取組項目」を掲げていた。

・DX推進の3つのスローガン
  1. (1)「書かない」「待たない」「行かなくていい」市役所へ
  2. (2)「きめ細かく」「丁寧で」「考える」市役所へ
  3. (3)「働きやすく」「いきいきと」「成果を出す」市役所へ
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北九州市の「12の集中取組項目」
(出典:北九州市提供資料より)

 その取り組みの成果は、徐々に表れ始めている。たとえば、「市民の行政サービス向上」の観点では、行政手続きのオンライン化が進みつつあるという。

 手続きオンライン化率は、申請件数の多いものから重点的に手を付けてきた。その結果、手続き数ベースで約6割、申請件数ベースでは約9割のオンライン化を実現した。

 また、「市役所業務の効率化」という観点では、2022年2月に各部署からデジタル化案件を集約して検証・実行する「デジラボ」を始動。その中では、AI(人工知能)/RPA(ロボット活用による業務自動化)の活用に積極的に取り組んでいる。

 具体的には、音声認識システム「AmiVoice」を活用したAI議事録作成やAI-OCRサービスの活用、RPA「UiPath」などによる集約処理などによって、2022年度は年間で1万882時間もの作業時間の削減を達成できたという。

 また、全庁で統一的な手法によるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の徹底に向けて、市役所における354課・1474係の業務量調査を実施し、約5万9000業務、1320万時間の業務手順などのデータを収集し、継続的な業務改善にも着手している。

136の業務システムを内製化、3万5667時間も削減

 特に市役所の業務効率化に貢献しているのが「ローコード・ノーコードツールの活用」だ。北九州市では、サイボウズの業務改善ツール「kintone」、グラファーの電子申請サービス「Graffer スマート申請」などを活用して職員自らシステムを内製化しているという。

 特にサイボウズとは、2021年9月に全庁的なDX推進に関する連携協定を結び、中小規模業務のDX(内製化)でフル活用している。

「市民サービス向上を最優先に掲げてきましたが、各業務の詳細はそれぞれの担当者が一番詳しい。そのため、効率化を図るシステムを職員自ら開発できることが重要だと考えました。とはいえ、ローコード・ノーコードツールを使っても、いきなりシステム化するのは簡単ではありません。デジタル市役所推進室では職員向けのスキル研修を実施したり、相談を受けながら伴走して一緒にシステムを作り上げています」(三浦氏)

 実際、北九州市では2022年度に136の業務システムを内製化、年間で3万5667時間もの作業時間の削減を実現したという。

 システム内製化による業務効率化の事例はさまざまだ。その一例が「保健所における新型コロナウイルス陽性者の発生届処理業務」だったという。システム導入前には、保健所の職員が電話で聞き取りしながら陽性者の調査内容を手書きで記録して個別フォルダに保存して管理していた。

「こうした業務フローは非効率で、多くの応援職員が必要となっていました。1日で最大100人も応援職員が必要となる時期もありました」(三浦氏)

 その後、職員がローコードツールでシステムを構築して業務効率化に着手。陽性者の調査内容などをシステムに入力して一元管理したことで業務量が激減した。

「ペーパレス化が進み用紙代や印刷代等が約1,000万円コスト削減できるとともに、応援職員の数も一日15人程度で済むようになりました。たった1つのシステムを作るだけで、こんなに大きな効果が得られるということを実感したのは大きかったと思います」(三浦氏)

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保健所における新型コロナウイルス陽性者の発生届処理における業務効率化の例
(出典:北九州市提供資料より)

 また、老朽空き家などの除却を補助する現地判定業務では、手書きによる判定シートや根拠写真撮影など現地判定で会議準備に伴う資料作成の手間が業務遂行上の課題となっていた。システム内製化によりモバイル端末からデータを登録したり、現地判定の点数の自動計算などの機能を活用したことで、年間で157時間の作業時間を削減できた。

 そのほかにも、住民税非課税世帯に対する臨時特別給付金事業では、スマートフォンによるオンライン申請の仕組みによって、2カ月で1万2000件の電子申請に対応して1069時間もの業務量削減が図れたとのことだ。 【次ページ】市役所「全職員」にノーコードツール配布、DX人材2400人規模へ
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