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2014年という早い段階からRPA(Robotic Process Automation)に注目し、PoC(実証実験)を開始した日本生命保険(以下、日本生命)。2018年度からは新たなフェーズとして、RPA全社展開に踏み切った。同社では約7万名の社員のうち、約1万名が事務業務に従事している。Excelのマクロ機能すら使った経験がない社員もいる中、いかにRPAを導入したのか。試行錯誤を繰り返しながらRPAを成功に導き、現在までに約140業務を自動化した同社の取り組みについて紹介する。
執筆:井上猛雄、聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
執筆:井上猛雄、聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
「日生ロボ美」を経て、全社導入にRPA全社導入にかじを切った
日本生命は、早い段階からRPAを導入してきた企業である。その背景には、2011年、生保業界で起こった大きな動きがある。「保険商品の銀行窓口販売」の全面解禁で、銀行でも保険が販売できるようになったのだ。この環境変化を受け銀行窓販マーケットは急速に拡大。日本生命では2014年頃に事務量が大幅に増えることとなった。
そこで日本生命が目をつけたのがRPAである。当時まだ認知度が低かったRPAに注目し、2014年度にRPA導入を開始。銀行代理店向けの保険事務を担当する金融法人契約部にRPAを導入した。「日生 ロボ美」 と命名したロボットは、2017年度までに計26業務に適用された。
そして新中期経営計画 「全・進-next stage-」(2017-2020) の中で、先端IT活用を柱としたデジタル化・業務効率化が指針として打ち出されたこともあり、特定の業務部門だけでなく、いよいよRPAの全社活用へと進んでいくこととなる。「RPA全社展開フェーズ」のスタートである。
「まず、中長期的な目線で全社的なコスト効率化を進める打ち手として『構造革新取組』があり、この中で効率化・生産性向上を実現する武器の1つとして『RPA』を挙げています。『RPA全社展開フェーズ』では、少量多品種業務の自動化も進めていきたいと考えており、各部門にRPA推進リーダーを立て、現場主導でRPA取り組みを推進しているところです」と語るのは、日本生命 デジタル推進室 専門部長 デジタル推進担当部長の高倉 禎氏だ。
「2019年3月に優秀なロボットや優秀取り組み部門を表彰する『ロボット大賞2018』を開催して社内認知が高まったこともあり、未導入部門から相談されることも増えてきました。他部門での業務自動化を目の当たりにして、自分たちもという相談も増えており、草の根的にRPAを導入する機運が生まれつつあります」(高倉氏)
同社では、RPAを試したいという部門に対して、まずはトライアル的にRPAを作ってもらうことにしている。同社の渡邉康氏は「最初にRPAを導入した2014年頃は、まだベンダーも少なく、選択肢もほとんどありませんでした。2017年頃から多くの製品が登場し、他社事例も増えてきました。そこで改めて当社の業務特性やニーズに照らして最適なRPA製品を活用することにしました」と語る。
RPA導入から定着までの道のり
RPAの全社展開に当たっては、システム企画部(当時)が音頭を取り、第一フェーズの「日生ロボ美」時期から利用していたRPAツールのほか、複数のRPAを比較検討しながら、ユーザー部門を巻き込んでPoCを進めた。部門ごとにチーム単位で有志を集め、日生ロボ美を導入した際の有識者の知見も生かしながら、横串でプロジェクトを結成。RPA導入に知見のあるコンサルティング会社にも支援を仰いだ。
渡邉氏は「課題の1つは、当初から利用していたRPAツールのライセンスコストでした。大規模な事務センターへの導入時には問題ないのですが、少量多品種業務にRPAを適用しようとすると十分な費用対効果が得られず断念することが多かったのです。そこでスモールスタートが可能なRPA製品も視野に入れることになりました」と当時を振り返る。
同社では現在、以前から使っていたツールを含む3つのRPA製品を使い分けており、2018年度末の段階で累計約140業務にRPAが適用されている。
高倉氏は「保険会社は部門により業務内容・特性が大きく異なります。事務センターにように同一業務の大量処理を担っている部門から、少量多品種の業務を抱えている部門までまちまちです。そこで、業務特性や操作対象システムとの親和性に合わせて、適切なRPAツールを活用するようにしています」と説明する。
「RPA全社展開フェーズ」で最初にRPAを適用したのは、資産運用とホールセールの部門だ。部門ごとにRPA化対象業務の棚卸しを行い、自動化したい業務に優先順位を設定して、3カ月ほどかけてPoCを実施したという。
「PoC段階では特にKPIを定めず、実際にどの程度自動化できるか、RPA適用のフィージビリティ確認を主目的にしていました。短くて分岐が少ない業務は簡単に自動化できるのですが、最初から1時間以上かかるような業務を自動化しようとすると、さまざまな要因でロボットが停止するなどして、安定稼働まで時間を要しました」(渡邉氏)
2018年度からは、効果性や業務特性・難易度、リスクなどの観点から対象業務を評価し、現場担当者と相談のうえRPA化する優先順位を定めているという。
【次ページ】日本生命が考える、RPA成功のカギとは
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