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- 2019/09/09 掲載
スタバすら脅かす「ラッキンコーヒー」とは? 大赤字でも資金が集まる2つの理由
新連載:中国イノベーション事情
中国カフェ界の新リーダー誕生?
中国カフェ業界のリーダーが入れ替わろうとしている。中国のカフェ業界をリードしてきたのは、1999年に北京市に国内1号店を出店して以来、ずっと米国発のスターバックスだった。現在、中国内に3500店舗を展開し、売り上げ、店舗数だけでなく、カフェ文化そのものをリードし続けてきた。しかし、その地位が脅かされている。
2018年1月1日に北京と上海で開業した瑞幸コーヒー(中国名ルイシン、英語名ラッキンコーヒー)は、創業2年足らずであるのに、すでに店舗数は2963店舗(2019年6月末現在)、今後も尋常ではないペースで出店をしていく計画で、2019年内に店舗数でスターバックスを超えるのは確実と見られている。
それだけではない。2019年5月には、ナスダック市場への上場を果たしてしまった。
ところが、ラッキンコーヒーは創業以来黒字になったことがない。さらに、創業者の銭治亜(チエン・ジーヤー)CEOは、「今後3年から5年は、戦略的に赤字を出し続ける」と公言をしてはばからない。中国メディアは「ラッキンコーヒーは、投資資金を燃やしながら走っている」と揶揄している。
なぜ、ラッキンコーヒーは赤字上場ができたのか。
一般に、赤字上場が可能になるのは、サブスクリプションサービスなどビジネスモデルが評価された場合だ。たとえば、音楽ストリーミングサービスを運営するスポティファイ・テクノロジーは、新規会員獲得施策がしっかりとしていて、会員離脱率も低いことから、数年後の黒字化が確実視できる。だからこそ、投資家は投資をしたくなる。
ところが、ラッキンコーヒーは、コーヒーの小売業にすぎない。強力なライバルが登場すれば、あっという間に地位が脅かされることもありうる。それでも、上場ができたのは、ラッキンコーヒーがコーヒーのコスト構造を大転換させたからだ。
赤字上場できたカギは「コスト構造」と「モバイルオーダー」
一般的に、コーヒーの原材料コストは安い。中国の場合、1杯あたり4元から5元程度だと言われている。これを25元(約380円)前後で販売をする。と言っても、利益が大きいわけではない。店舗コストがかかるからだ。店舗の内装や運営スタッフの人件費などが、1杯あたり10元から12元もかかるという。
この他、設備の減価償却、物流、倉庫などの費用があるので、1杯あたりの利益は10元以下になる。つまり、カフェに行くということは、コーヒーを買うというより、空間を買っていることになる。
ここから日本では、店舗コストを吸収できるコンビニコーヒーが低価格で提供できている。ラッキンコーヒーは、また異なる発想で、コーヒーのコスト構造を変えた。
ラッキンコーヒーの店舗は3種類に分類される。一般のカフェのようにソファなどが用意されているリラックス店。テイクアウト専門のピックアップ店。外売(デリバリー)専門のデリバリーキッチン店の3種類だ。
このうち、最も多いのがピックアップ店だ。つまり、ラッキンコーヒーはテイクアウトを主体にしたカフェなのだ。
さらに、テイクアウトのユーザー体験を高めるために、モバイルオーダーの仕組みを全面的に導入している。
ラッキンコーヒーを買うには、まず専用アプリをスマートフォンに入れて、ユーザー登録をする必要がある。それを済ますと、一番近い店を選んで、コーヒーを注文。その場で、決済まで済んでしまう。できあがるとプッシュ通知がくるので、店舗カウンターで注文番号を表すQRコードを表示することで、商品を渡してもらえる。
注文は、何も店内でする必要はない。オフィスで仕事中にスマホ注文をしてしまい、できあがる時間を見計らって取りに行ってもいい。
一般のカフェでは、注文をするために注文レジに並び、商品を受け取るのに待たされるという悪いユーザー体験が長年放置されているが、ラッキンコーヒーはこのカフェの課題をモバイルオーダーという仕組みで解決をした。
【次ページ】ラッキンコーヒーをここまで導いたのは中国の国民性?
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