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大阪府堺市と藤井寺市、羽曳野市にまたがる百舌鳥(もず)・古市古墳群の世界遺産登録が決まった。国内の世界遺産登録は23件目で、大阪府内では初めて。地元の堺市では隣の大阪市に集まる訪日外国人観光客を引き込み、観光振興に生かそうと新しい取り組みに動き始めているが、登録直後に一時的な観光ブームが生まれても数年で観光客が激減する世界遺産が少なくない。奈良県立大地域創造学部の新井直樹教授(観光政策)は「登録後も継続して観光客や観光消費額が大幅に増加するという過大な期待は禁物」と指摘する。
堺市の百舌鳥古墳群、年間2000万人の観光客を想定
日本最大の前方後円墳で、百舌鳥(もず)・古市古墳群の目玉といえる堺市堺区大仙町の大仙陵古墳(大山古墳)。宮内庁によると、大きさは最大長840メートル、最大幅654メートル、墳丘長525メートルあり、地上から眺めると、都会に浮かぶ巨大な森にしか見えない。真の被葬者については議論があるが、一般に仁徳天皇陵の名前で知られている。
大仙陵古墳の最寄り駅となるJR百舌鳥駅では、ホームの壁一面に世界遺産登録決定のポスターが張り出されている。古墳の空撮写真の上に「祝世界遺産」の文字が躍る構図で、古墳見物にやってきた乗降客が足を止めて見入っていた。
百舌鳥・古市古墳群は堺市の百舌鳥古墳群と、藤井寺市、羽曳野市にまたがる古市古墳群で構成される。古墳は4世紀後半から5世紀後半に築造された計49基あり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議から「古墳時代の埋葬の伝統と社会・政治構造を顕著に示している」と評価された。
堺市は世界遺産への登録決定を観光客誘致の弾みにしようと動き始めている。大仙陵古墳の拝所近くにある堺市博物館が、古墳群の上空からの眺めを疑似体験できるバーチャルリアリティー装置を倍増させたほか、永藤英機堺市長は遊覧ヘリコプターを発着できる拠点の設置を検討していることを明らかにした。
堺市は古墳群のほか、戦国時代に商業の中心地だった歴史を持つ。
関西を訪れる外国人観光客の増加とともに観光入込客が増え、2017年度は前年度を7%上回って初めて1000万人を突破した。堺市都市政策研究所は世界遺産登録で堺市など地元自治体に年間約2000万人の観光客が押し寄せ、大阪府全体に約1000億円の経済波及効果があるとみている。
古墳群は内部に立ち入りできないことが観光面の弱点だが、堺市観光企画課は「世界遺産は訪日外国人観光客誘致の大看板になる。大阪ミナミに集まる外国人観光客を堺市に呼び込み、地域振興につなげたい」と意気込んでいる。
国内の世界遺産は計23件、京都や奈良は観光ラッシュに
世界遺産は1972年のユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき、人類が共有すべき普遍的な価値を持つ遺跡や景観、自然などが登録されている。
国内では1993年、青森、秋田の両県にまたがる白神山地、奈良県の法隆寺地域の仏教建造物などが登録されたのを皮切りに、百舌鳥・古市古墳群で計23件を数える。
ほとんどの地域が遺跡や自然の保護に力を入れるだけでなく、世界遺産登録を観光振興のきっかけにしようとしてきた。しかし、観光客数は世界遺産によって明暗が分かれている。
国外でも知名度が高い観光地は訪日外国人の増加とともに、観光客を増やしている。古都京都の文化財を抱える京都市は5年連続で年間5000万人以上の観光客を記録した。東山、嵐山、河原町など人気スポットは観光客の殺到で交通渋滞や路線バスの遅延が慢性化し、観光公害の様相さえ示している。
古都奈良の文化財を抱える奈良県奈良市は2018年、1700万人以上の観光客を集め、奈良公園や東大寺周辺の混雑が目立ってきた。兵庫県姫路市の姫路城は登録前の約2倍の人出が続いている。
岐阜県白川村、富山県南砺市にまたがる白川郷・五箇山の合掌造り集落は、白川村への入込客数が世界遺産に登録された1995年で77万人だったが、2017年には176万人まで増えた。
【次ページ】国内の主な世界遺産の観光入込客数まとめ、苦戦中の世界遺産はどこ?
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