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「2040年までに半数の市区町村が消滅する」。日本創生会議が2014年に公表した通称増田レポートは、人口減少のスピードの速さと影響の大きさを国民に伝えた。危機感を抱いた地方自治体が人口減少の抑制と成長策を模索し始める。そうした中で、経営コンサルティングなどを展開するアクセンチュア日本法人が8年かけて作り上げた福島県会津若松市の地方創生モデルをスマートシティ・プラットフォームに仕立てて、全国に広げるようしている。政府が進めるデジタルファースト法案が追い風になるかもしれない。
アクセンチュアが取り組む地方創生への挑戦
アクセンチュアが2019年に入り、地方自治体に共通プラットフォームの採用を働きかけ始めた。採用に至れば、各自治体が個別にシステムを構築することに比べ、運用・開発の時間・コストを大幅に削減できる。セキュリティなどの専門家育成も任せられる。結果、自治体はそれぞれの地域に求められるアプリ開発に専念できる。
そのベースにするのが、アクセンチュアが取り組んできた福島県会津若松市の地方創生モデルだ。同社は2011年3月の東日本大震災後、会津若松市に拠点を設けて、福島の復興支援を始めた。
江川昌史社長によれば、最初は地域の復興・産業育成を支援するイノベーションセンター福島を2011年8月に開設し、震災復興に向けた道筋を提示すること。2013年から、その計画にそった実証実験を繰り返し、地方創生モデルへと発展させていく。
2015年1月、会津若松市がデジタルを活用した地方創生モデル都市に認定されたのを契機に、2017年から市民や移住者、事業者、観光客ら地域のすべての人に利便性を提供する地方自治体の共通プラットフォーム化に向けた機能拡充と整備に入った。
アクセンチュアはその全国拡大にあたり、宮城県気仙沼市の震災復興計画策定などを支援した三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)と手を組み、自治体に共同提案する。江川社長は「目指す地方創生モデルはこれまでのものとは違う」と考えている。
簡単に言えば、賃金などコストの安さで地方に工場やコールセンターといった拠点を誘致するのではなく、デジタルを駆使した高付加価値な業務や成長産業を地方に根付かせること。コストを売りに工場を誘致しても、さらなるコスト削減を求めて、いずれアジアなどに工場を移転してしまうからだ。
産業の空洞化にもなる。そこで、研究・開発や経営企画などの一部を地方に移す。デジタルなど次世代を担う産業育成の拠点にもする。同時に、地元大学や企業と協力し、次世代産業を担う人材育成を推進する。
人口減少に歯止めをかけるには
会津若松市に移住し、約7年になるアクセンチュアの中村彰二朗イノベーションセンター福島センター長は「会津で実感したのは、地方の生産性が低いこと。デジタルなどIT化の提案もない」と、課題を指摘する。同社がターゲットにする大企業のデジタル化や生産性向上の現実とは大きく異なるということ。
だが、「ゴールはシンプルだ」(中村氏)。日本創生会議が2014年に公表した「人口減少により全国約半数の市町村が2040年まで消滅する可能性がある」というレポートに示されている。会津若松市の場合、2040年の人口予測は、生まれる人が918人に対して、亡くなる人が1656人、転入者3870人に対して、転出者4201人となり、合計1069人減の12万937人になる。
つまり、いかに人口減少に歯止めをかけるかだ。その策の1つが、東京など大都市でやる必要がない付加価値の高い仕事を地方に移すこと。クラウド環境があれば、いつでもどこでも仕事ができるようになる。その拠点を会津に作れば、地元大学生らの働ける場になる。卒業生が東京などに就職したり、グローバル企業に行ったりしても、戻れるよう受け皿を用意しておくわけだ。
その象徴が4月22日に開所式を行った会津若松市が設けたICTオフィス「スマートシティAiCT」だろう。約500人を収容できる同オフィスに、アクセンチュアはイノベーションセンター福島の人員約50人を移動させるとともに、約250人に増員する。
東京からの転勤に加えて、地元や外国人を採用する。不動産や飲食などの直接消費を増やしたり、地元卒業生を採用したりするなど、アクセンチュア自ら地方創生を実践する。少しだが、人口増は税収増にもつながる。
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