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「モノ消費」から「コト消費」が喧伝され、オンラインとオフラインを融合したマーケティング施策に注目が集まっている。2018年4月に公開された劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』に合わせたコミックスのキャンペーンでは、オンライン施策として、劇中に登場する人気キャラクター「安室透(あむろとおる)」とLINEで友だちになって会話を楽しめる「安室透チャットボット」を公開、人気を博した。キャラクター設定を忠実に再現し、利用者であるファンに「楽しさ」を演出する運用のポイントや、想定を上回るような大量のアクセスが集中する状況を考慮したインフラの工夫などについて、キャンペーンをリードした小学館 マーケティング局の戸板麻子氏と、cloudpack(アイレット) セクションリーダーの比企宏之氏に聞いた。
ライトな女性のファン層への認知度向上を主眼に
──『名探偵コナン ゼロの執行人』は興行収入85億円を突破したそうですが、今回の映画のヒットの要因についてどうお考えですか。
戸板氏:なんといっても安室透のキャラクターの人気が定着してきたことが大きな要因だと思います。映画を見たファンがTwitterで「#安室透を100億の男にする会」などのようなハッシュタグをつけてつぶやいたりして、安室透の人気の高さを感じます。
『名探偵コナン』という作品は少年サンデーで連載しているのですが、映画に関しては、特に今年の作品のターゲットは対象年齢が高くなったこともあって、宣伝も大人に向けた施策が多かったと感じます。
──映画と連動してコミックのプロモーションについてはどんなことに注力しましたか?
戸板氏:映画に関しては、大人の女性の人気が高いのですが、前作ではファッション誌の『CanCam』で、名探偵コナンの婚姻届の付録をつけたことがありました。それはかなり話題になり、雑誌の売り上げも伸びたという実績を作れたのです。
今回、主眼に置いたのは「安室透」というキャラクターの認知度を高めること。実は、安室透はコアなファンが多い一方で、原作では登場したのが第75巻と遅かったのです。トリプルフェイスという複雑な設定のキャラクターということも相まって、特にライト層のファンになかなか認知されていない状況がありました。
ですから、キャンペーンについては、コアなファンとのエンゲージメントを強化しつつ、いかに20~30代を中心としたライトなファンに安室さんを認知してもらうかを意識しました。
安室透の愛車が16年前に販売を終了している「RX-7」であるなど、男性でも「おっ」と思う仕掛けをしてはいるものの、男性のキャラクターは、女性から支持を集めることが大事です。
実際に今回のLINEのチャットボットキャンペーンでも、Twitterのタイムラインなどを見ると、キャンペーンについて言及しているツイートなどは、自分たちが思っている以上のコンテンツの広がりを見せました。LINEでのやりとりを拡散したりと、ユーザーから次々とコンテンツが生まれているというのを感じます。
コミックスの増売施策としてリアル書店と連動したLINEキャンペーンを企画
──今回のキャンペーンは、対象コミックスの書店ノベルティとして配布された「キャラクター名刺」の裏に印刷されたQRコードを読み取って、LINEの友だち登録を行うと、安室透さんとLINEでチャットを楽しめるという内容です。改めて、キャンペーンの意図についてお聞かせください。
戸板氏:原作の宣伝担当としては、映画の公開によって盛り上がるタイミングで、原作コミックスの増売につながることを考える必要があります。今回のLINEのチャットボット施策の位置づけは、あくまでも原作の増売の施策です。ですから、書店さんで、現物の名刺をノベルティとしてつけてもらって、コミックスを売っていく施策になったのです。
名刺だけでもキャンペーンは成立するのですが、リアルの店頭だけで盛り上がりが終わってしまうのがもったいない気がしました。何か、ネットの力を借りてユーザーに発信してもらう仕掛けを考えようと思ったときに、LINEは年代層的にも、ライトなファン層的にも親和性が高いのではないかと考えました。
──このキャンペーンによって、コミックスの売り上げが伸びたのでしょうか?
戸板氏:効果を厳密に測るのが難しい面はあるのですが、ここ最近の書店キャンペーンの中では、反響も大きく、最終的な売り上げもおそらく一番の成果だと思います。映画に絡めたキャンペーンということで、名刺の効果や安室透の人気に支えられた面がやはり大きいと思います。
──キャンペーン実施にあたって、アイレットとの協業はどのような経緯ではじまったのですか?
戸板氏:所属している宣伝部にWeb媒体の担当者がいて、そこに「LINEと組んでキャンペーンをやりたい」と相談したことがきっかけです。媒体担当を通じてLINEのご担当者様を紹介いただき、チャットボットの開発にノウハウや実績が豊富なアイレットを紹介いただいたという経緯です。
──期間はどれくらいでしたか。
比企氏:最初に戸板さんとお会いしたのは、2月20日ころでした。私自身、安室透のキャラクターについては相談を受けるまで知らなかったのですが、先ほど戸板さんが話したように、コアなファンに対して、深いコミュニケーションをしていくというお話をうかがいました。
映画も何度もリピートしてもらうための施策としてLINEを使いたいという相談で、純粋に「面白いな」と感じました。
戸板氏:その後は、構築に関する金額をご提示いただいて、小学館では社内のコンテンツ制作、運用体制を整備しなければならないということで、その調整をしました。
何しろ、チャットボットのシナリオというか、コンテンツを考えて、システム(CMS)に投入するのも自分たちで担う必要があるということもわからなかったのです……。
プロジェクトが開始されてからは、チャットボット公開日である映画の公開初日(4月13日)に向けて具体的に手を動かしていきました。
アイレットさんにシステムのことをいろいろ教えてもらいながら、これまで一緒にコナンを盛り上げてきたライターさんと一緒に、チャットボットへの回答の単語を増やしていくことに日々取り組んでいきました。
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