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国内証券最大手の野村證券が、大規模な店舗統廃合に乗り出した。ネット証券の普及で対面販売への逆風が叫ばれながらも、同社は圧倒的な営業力を生かして店舗網を維持してきたが、いよいよ時代の流れには逆らえなくなってきた。今後は富裕層向けのコンサルティング営業を強化するが、銀行などライバルも多く、市場開拓は容易ではない。
一般的な個人投資家は証券会社にとって「美味しい顧客」ではない
野村證券などを傘下に抱える野村ホールディングスが、国内店舗を大幅に削減する方針を固めた。同社の中核企業である野村證券は全国に156カ所ある店舗の統廃合を行い、店舗数を約2割削減する。店舗網には約9500人の営業担当者がいるが、約3000人を配置転換するという。
ネット証券の登場以降、個人の株取引の多くがネットにシフトしたが、それでも野村證券にとって店舗というのは収益の基盤であり続けた。
誤解を恐れずに言うと、ネットでたまに株取引をするだけの個人投資家は、わずかな手数料しかもたらなさいので証券会社にとっては「美味しい顧客」とはいえない。こうした顧客はコストが安いネット取引にシフトしてもらって、チリも積もればという形で手数料を稼ぐのが最も効率がよい。
支店の営業担当者が狙っているのは、このような「細い」顧客ではなく、ある程度のまとまったお金を動かせる「太い」顧客である。
具体的には、土地所有者や羽振りのよい中小企業のオーナー社長、宗教団体といった属性の投資家である。こうした顧客に大口の株取引をしてもらったり、手数料の高い特殊な金融商品を売り込めば、支店に入ってくる手数料はそれこそケタが違ってくる。
だが、このような「優良」な顧客層というのは、競合の証券会社はもちろんのこと、銀行や保険会社、不動産会社など他業種にとっても垂ぜんの的であり、多くのライバルが同じ顧客を狙って営業合戦を繰り広げている。かつて野村證券は、過酷なノルマや強引な営業手法など、体育会系カルチャーの頂点といもいえる企業だったが、そうした企業カルチャーは限られた顧客を奪い合うという特殊な市場環境から生まれてきたといってよい。
サラリーマン層にシフトしたが
だがバブル崩壊以降、長期の景気低迷が続き、中小企業の経営環境が著しく悪化した。このため、資金に余裕がある中小企業が少なくなり、積極的に資産運用したいという顧客は目に見えて減っていった。そこで野村證券をはじめ証券会社各社が目を付けたのが、退職金を手にして資産運用について関心を持ち始めたサラリーマン層である。
野村證券は一時、同社の象徴でもあった過酷なノルマを廃止し、投資信託など金融商品の残高を積み上げる営業方針に転換した。最初は苦しくても、そして、1つの商品から得られる年間手数料がわずかであっても、残高が大きくなれば、それなりの収入になるはずだ。
だが困ったことに、多額の退職金を手にする顧客というのは、公務員だったり、大企業の社員というケースが多く、資産運用には関心があるものの、実際には怖くてなかなか前に踏み出せない人たちばかりである。また、資金を持っているといっても、わずか2000万円や3000万円といったレベルであり、相当な数をこなさないと従来のような手数料収入は確保できない。こうした属性の顧客というのは、銀行がすでに囲い込んでいるケースも多く、証券会社にとっては最初から不利なゲームになってしまう。
結局、一部の支店では、投資信託を強引に顧客に進め、回転売買で手数料を得るという、時代に逆行した従来型ビジネスに走ってしまったところもある。野村證券ではこうした経緯から、営業方針が二転三転していたが、これも大きな枠組みで見れば、顧客層の変化と提供したいサービスのミスマッチであり、根本的な対応が求められていることの前兆だったともいえる。
それでも野村證券は着実に資産残高の積み上げを行っており、そこから得られるストック収入は毎年増加が続いている。しかし、それ以外の販売手数料の落ち込みをカバーできず、手数料収入の総額は減少しているというのが実状だ。
そこで同社が目を付けたのが、多額の資産を持ついわゆる富裕層へのアプローチである。
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