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第二次世界大戦によって多くのものを失った日本にとって戦後の復興に必要とされたものの一つが住宅でした。しかも世界有数の災害大国の日本では、災害に強い住宅であることも必須条件とされました。こうした住宅問題の解決に挑み、「パイプハウス」や「ミゼットハウス」をつくり上げたのが、過酷なシベリア抑留から帰還し大和ハウス工業を創業した、石橋信夫氏でした。
シベリアの受難、3年もの抑留生活
石橋氏は1921年、奈良県吉野郡川上村で父・茂吉、母・キヨの五男として生まれています。九人兄弟の「まことににぎやかな家庭であった」(『不撓不屈の日々』p9)といいます。
奈良県吉野は、「吉野杉」で知られるように林業の盛んな地です。石橋氏の生家も植林や製材で生計を立てており、尋常小学校を卒業した石橋氏は村にある吉野林業学校へと進んでいます。
「理屈は学校で、実地は家業で」(『不撓不屈の日々』p18)が父親の口癖でした。学校から帰ると石橋氏は、試験前だろうがお構いなしに、下草刈りや枝打ちをするために山に駆り出されていたのです。そのため成績は決して良くはありませんでしたが柔道はめっぽう強く、県内のリーグ戦で12本連勝したほどのつわものでした。
当時の石橋氏のお気に入りの言葉は「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ大志を抱け)」。吉野林業学校を卒業した石橋氏は、その大志を実現すべく、農林省山林局が募集していた満州の森林開発要員に応募し、見事に合格。半年間の研修を経て大陸へと渡っています。1939年、18歳の時です。当時の満州は日本の支配下にありましたが、伐採地は山奥で抗日勢力に襲撃されることもしばしばでした。辛うじて生き残るという危険な経験もしています。
やがて徴兵され軍人となった石橋氏ですが、1944年2月、出兵先の満州で暴走した馬ソリに激突され、あわや半身不随というほどの重傷を負っています。
幸い1年6カ月もの闘病生活を経て何とか回復した石橋氏。終戦の7日前、1945年8月8日にハルビンの原隊に復帰しています。ですが、日ソ中立条約を破棄して侵攻してきたソ連軍によって多くの仲間とともにシベリアに連行され、過酷なシベリアでの抑留生活を約3年にわたり送っています。
それは「飢えと寒さと重労働と、そして絶えず死と直面せざるをえない辛さ」(『不撓不屈の日々』p88)でした。しかし何とか生き抜いた石橋氏は1948年8月、舞鶴へと帰り着くことができました。
大災害の経験から生まれた「パイプハウス」
日本に帰ってきた石橋氏は兄の義一郎氏が社長を務める吉野中央木材で働き始めますが、しばらくして転機が訪れます。
1950年、関西地方を襲ったジェーン台風によって住宅12万戸が被害を受け、そのうち2万戸近くの家屋が全壊したのです。被災者は87万人という大災害でした。
当時の日本家屋のほとんどは木造住宅です。火に弱いだけでなく、風にも地震にも弱い住宅の惨状を目の当たりにした石橋氏は、強風にさらされても折れない竹や稲を見て「丸くて中が空洞の鉄パイプで家をつくったらいいのではないか」(『不撓不屈の日々』p109)とひらめきました。
そのひらめきの背景には、当時の建材事情もありました。戦時中の乱伐によって山林は荒廃。建築用の木材が大幅に不足していたため、木材に代わる建材が求められていたのです。
1955年、石橋氏は大和ハウス工業を創業、パイプハウス(骨組み、屋根、床、建具などを部品化、細径のスチールパイプの柱とトラスを現場で特殊金具で組み立てる特許工法)を発売しました。社名の「大和」は出身地である奈良の大和(やまと)からとっていますが、「だいわ」と読んだことには「大いなる和で経営にあたりたい」という意味が込められています。
社長には義一郎氏が就任、石橋氏は常務となりましたが、創業資金の多くをまかない、事実上の責任者として経営にあたっています。しかし、会社をつくってはみたものの、創業間もない小さな会社のパイプハウスをすぐに買ってくれるところはありません。石橋氏は沿線にたくさんの資材倉庫を必要とする国鉄(現JR)に狙いを定めて営業を開始しました。
しかし国鉄の対応は冷ややかなものでした。「大和ハウスなんて会社、どこにあるのか」と取り合ってくれない本社の局長に、石橋氏はこうたんかを切りました。
「国鉄も初めは数両の車両で出発したはずです。今みたいに全国の隅々までレールがあったわけではないでしょう」(『不撓不屈の日々』p119)
さらに「パイプハウスを活用して電化を進めて下さい」とまで大見栄を切りますが、そのおかげか、国鉄はパイプハウスの採用に踏み切ります。このことでパイプハウスは官民さまざまな企業で採用されるようになり、同社は初めての成功を手にすることになりました。
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