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  • 2018/08/10 掲載

AIチップ総論:NVIDIAが先行、グーグル・インテル・中国勢が追従、日本の勝機は?

連載:シリコンバレー発 米テックレポート

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次代のコンピューター基盤とサービスの覇権をとるべく、AIチップの開発競争が始まっている。Nvidia、Google、Facebook、Apple、Amazonなども新世代のデバイスやサービスの開発に向けてオリジナルチップ開発に舵を切った。その開発レースの(現時点での)全貌を明らかにした上で、この流れに対して日本はどのようなポジションにあるか、どのようなギャップがあるか解説する。
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NVIDIAが2018年5月に発表した「HGX-2」。HPCとAIコンピューティングを単一アーキテクチャに融合した。
(出典:NVIDIA)


すでに始まっている「AIチップ」開発レース、現在の王者はNVIDIA

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 ムーアの法則の終焉が近い将来見えており、量子コンピューターの研究と並び、CPUに代わる新しいコンピュータ基盤の開発が世界で進んでいる。そして現在、自動運転、ドローン、ロボティクス、AR/VRなど、次代のハードウェアが続々と誕生し、どんどん進化している。

 それらをより高次元に作りこむためは、従来よりもさらに高度で複雑な状況に対し、人間のエキスパートまたはそれ以上に対応できるよう、瞬時、確率的な処理が必要になってきている。

 しかし、従来のCPUでは、そのような並列・確率的な計算処理を行うことに向いておらず、時間がかかるうえに、消費電力も激しくなる。そのうえ集積・微細化に終焉が見えてしまっているのだ。このままでは目指すべき未来が見えてこない。

 そこで、新しいチップ・アーキテクチャが必要になっている。今はコンピュータ業界、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング、いわゆるスパコン)業界においても、大きな分岐点を迎えているといっていいだろう。そして、これを大きな好機と考えているのは、なにも伝統的なチップベンダーばかりではない。

 実はAI向けチップの開発、利用はディープラーニングの理論が公表される以前の2009年ごろからすでに始まっていたというのだ。NVIDIAのGPUの高速画像処理を可能にする「アクセラレーター」としての処理がAIの学習にも使えるということが分かったからだ。

 AIチップの王者に君臨しているのは、当時から、ディープラーニングが流行った2012年以降も、ずっとNVIDIAである。インテルでさえも着手には大きく出遅れ、その後塵を拝してしまっている。インテルは自前での開発に加えてスタートアップの買収などさまざまな戦略を実行し、そのキャッチアップに急いでいる。

 もともとNVIDIAもAI向けに開発をしていたわけではない、同社のメインビジネスは昔から、高画質ゲーミングやクラウド・シンクライアントに用いられるような、画像処理に強いチップだ。そのアーキテクチャがAIの処理に向いていることが分かったため、既存のアーキテクチャを活かして、よりAIの学習処理向けに開発するようになっていったのである。

 さらに近年、このアーキテクチャがビットコインのマイニングにも有用であることが分かり、その用途や需要は世界に急拡大している。そして、クラウドサービスでのAI学習の需要も高まる中、インテルの重要かつ強固なビジネス基盤であった、データセンターサーバ市場にまで、NVIDIAのAIチップが納入されるようになったのだ。

グーグルはNVIDIAをキャッチアップできるか

 NVIDIAがAIチップ業界の一社独占をひた走る中、キャッチアップに向かったのがグーグルだ。グーグルは「TPU(Tensor Processing Unit)」というAIチップを開発し、それを「アルファ碁」の学習処理で用いることで、その省電力性、学習スピード、性能の強さをアピールした。
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グーグルが開発したAIチップ「TPU(Tensor Processing Unit)」
(出典:Google Cloud Platform
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CPU、GPUとの1ワットあたりのパフォーマンス比較
(出典:Google Cloud Platform

 AI開発フレームワークにはCaffeやTorchなど、さまざまなオープンソースがあるが、今のところはTensor Flowが圧倒的に人気のようだ。さらに7月末に行われた「Google Cloud Next 2018」では、IoTのエッジデバイス向けとなる「Edge TPU」の提供も発表した。TensorFlow Liteモデルをエッジ側で実行するためにデザインされたASICで、消費電力当たりのパフォーマンスが高いことが特徴となる。

 ハードウェア基盤を無償または特別価格で開放しつつ、ソフトウェアをオープンに提供して、たくさんのユーザー、ファンを獲得できたことが、グーグルの強さであり、それらがまたポジティブフィードバックを生み、さらなる改善に向かうだろう。

 “NVIDIA包囲網”にも負けず、ソフトウェアディベロッパー、データサイエンティストの多くも、Tensor Flowに親しみ、TPU利用がしやすい形だ。

次々と名乗りを上げるテック企業まとめ

 NVIDIA、インテル、グーグルに続いて、次々とAIチップの開発に名乗りが上がってきたので、以下にまとめる。すべてAI計算処理に特化した専用チップを開発していると報じられている企業だ。

チップベンダーインテル、Qualcomm、NVIDIA、AMD、Xilinx、IBM、NXP、HiSilicon、Media Tek、ATMicroelectronics
テック企業、HPCベンダーグーグル、アマゾン、マイクロソフト、アップル、アリババ、テンセント、バイドゥ、ファーウェイ、富士通、ノキア 、フェイスブック、テスラ
中国系スタートアップBitmain、Cambricon、DeePhi、Horizon Robotics
アメリカ系スタートアップCerebras Systems、Groq、KnuEdge、Mythic、Thinci、Wave Computing
その他スタートアップGraph Core(UK)、Tensorrent、NSITEXE


 大手では、アップルアマゾンが自社のiPhoneやEchoなどにAIチップを載せようとしている。音声認識処理や、画像処理、クラウドにデータを送らずともデバイス自身が学習をしていくためには、CPUでは処理が追い付かず、やはりその製品用途のスペックのAIチップが必要になる。

 テスラのイーロン・マスクも理想的なスペックのチップがないため、自社で開発するしかないことを公言している。

 フェイスブックは自社のSNSサービスにおいて、より効率的に、コストや電気消費量も抑えて個人の趣向を学習できるよう、自社でAI学習専用チップを開発すると発表している。

 中国では、最近アリババが「Ali NPU」と呼ばれるAIチップを開発していることが分かった。同社は量子コンピュータ基盤も含め、基盤技術専用研究所に数十億ドルの巨額投資をしている。チップ企業の買収も盛んだ。そして、バイドゥも、AIチップの開発についてアナウンスがあった。

 驚いたのはIBMの参入だ。IBMは伝統的なHPCチップベンダーである傍ら、NVIDIAとAIチップ分野では懇意にしているパートナーであり、NVIDIAのGPUチップを差すためのCPUを開発していた。しかし最近、NVIDIAのような汎用AIチップを研究開発中であることを発表した。精度も高く、あらゆるディープラーニングの手法にも対応しているとし、真っ向からNVIDIAの市場と構える製品ポジションだ。

 また、スタートアップも、投資家や大企業、政府から多額の支援をもらいながら、たくさんの会社がAIチップの次代の覇権をとろうと開発を急いでいる。

 中でも、中国のCambriconはアリババや中国政府から10億ドル以上の投資を受けているとし、一躍有名だ。また、Bitmainのように、ビットコインのマイニング用の専用AIチップを開発、販売し、すでに多くの収益を確保しているスタートアップも登場している。

 日本においてはHPCベンダーとして、富士通が汎用的なディープラーニング学習専用チップの「DLU」を開発中であることを発表している。スパコンの京で培ったインターコネクト技術や並列処理の仕組みを利用することで、性能と省電力で優位性を狙う。

 そして、自動車業界ではデンソーからスピンアウトして、NSITEXEという会社が設立された。新しい自動車専用AIチップの開発に挑戦することになった。これは、トヨタ・デンソーに限らず他社にもライセンスする向きで、テスラのカスタムチップに対抗する構えに見える。

 なお、最後に重要なプレーヤーとしてIPベンダー、世界の多くの企業のAIチップ開発を支える存在として、ソフトバンクが買収したArmの存在も紹介しておく。最近の発表で、機械学習用と、物体・画像認識に特化したチップアーキテクチャを発表していた。これにより、AIカスタムチップの製造はますます増えていくことだろう。また、関連技術を有するエンジニアは引く手あまたになると思われる。

【次ページ】各国の戦略は?日本がAIチップ開発競争を勝ち抜くために必要なモノ
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