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昨今では、中堅・中小企業においても「人手不足」が課題として挙げられるようになってきた。だがその一方で、「働き方改革」に端を発する法制度改正によって、従来のように「忙しい時には従業員に何とか頑張ってもらう」といった対処も今後は難しくなってくる。こうした状況を乗り切るために、企業はどのようなIT活用に注目すれば良いのだろうか?本記事では、「業務のデジタル化」なしでも人手不足という課題を解決する、2つのソリューションを紹介する。
「人数を増やす」「稼動を増やす」が難しくなるワケ
「人手不足」の状況を受け、IT企業からは「ITによって業務を効率化し、人手不足を解消しよう」といったメッセージが頻繁に出されている。
最近ではヒトが担っていた繰り返しの作業を自動化できるITソリューションも登場しており、「ITによる業務効率化」は人材不足を乗り切る有効な手段の一つだ。
だが、中堅・中小企業ではデジタル化されておらず、ITによる効率化が難しい業務場面も少なくない。そのため、中堅・中小企業が「人手不足」に直面した時に講じられる直接的な対処方法は
1.従業員の人数を増やす
2.従業員の稼働を増やす
のいずれかに限られてしまいやすい。
1.従業員の人数を増やす
人数を増やす場合は「派遣労働者の活用」が挙げられる。可動を増やす場合は「少しの間、従業員に頑張ってもらう」といったケースも少なくないだろう。ところが、法改正の影響によって、従来と同じようにこういった対処を講じることが難しくなる可能性がある。
人数の増加に関連する法改正は「改正労働契約法(2012年)」および「改正労働者派遣法(2015年)」である。それぞれの概要は以下の通りだ。
A.改正労働契約法(2012年):
有期労働契約を締結し、少なくとも1回の更新を経て5年を経過した場合、派遣労働者は有期契約から無期契約への転換を申し入れることができる。
B.改正労働者派遣法(2015年):
同一組織内で同一個人が派遣社員として従事できる期限は3年までとなる(派遣元企業に無期雇用されている場合などを除く)
いずれの法改正も成立は数年前だが、施行時期を踏まえると改正労働契約法において有期契約から無期契約への転換申し入れが発生する最初の時期が2018年9月末、改正労働者派遣法において派遣社員として従事できる期限が訪れるのが2018年4月となる。
つまり、上記2つの法改正による影響が具体化するのが2018年というわけだ。派遣労働者にとっては正社員への門戸が広くなる。
一方、企業にとっては「将来的に正社員として雇用することになる可能性」を考慮した上で派遣労働者の活用を考える必要が生じてくる。急場を凌ぐためだけの派遣労働者の活用は許されなくなってくるわけだ。
2.従業員の稼働を増やす
稼働を増やす場合については周知の通り、働き方改革法案における「長時間労働の是正」が関係してくる。
従来はいわゆる「36協定」に「特別条項」を付記することで、例外としての残業が形骸化していた。だが、今後は時間外労働について「年間の上限720時間、単月の上限100時間(休日労働含む)、ただし原則を越える残業適用は年6回まで、かつ2~6カ月の各平均はいずれも月80時間以内(休日労働含む)」といった細かい規制が罰則付きで適用される(大企業は2019年4月以降、中小企業は20年4月以降)。
さらに、2023年4月以降は中小企業も大企業と同様に「月60時間を越えた分の賃金は50%割増」とすることが義務付けられる。
つまり、「忙しい時には従業員に何とか頑張ってもらい、十分な収益が得られたタイミングに賞与などで還元する(従業員も同意の上で)」という形で繁忙期を乗り切ることが今後は難しくなる可能性がある。
働き方改革法案を巡っては「高度プロフェッショナル制度」に伴ってサービス残業が増加する懸念に注目が集まっているが、中堅・中小企業にとっては「繁忙期をどうやって乗り切るか?」も働き方改革法案に伴って生じる今後の大きな課題の一つになると予想される。
法改正の影響はすでに表れている
こうした法改正の影響は中堅・中小企業におけるIT活用の意思決定にもすでに表れている。以下のグラフは年商5億円未満、年商5億円以上~30億円未満、年商30億円以上~50億円未満の企業層に対して、「IT活用において今後重要度が高くなると考えられる事柄(複数回答可)」を尋ねた結果だ。
いずれの年商帯においても、「人材不足を回避するための人材派遣サービス活用」と比べて「人材不足を回避するための業務アウトソーシング」の方が高い回答割合を示している。
人材派遣サービスによって「ヒトを供給する」ことよりも、アウトソーシングによって「業務を外部に委託する」ことを選択する企業が多いということになる。この背景には先述の「改正労働契約法」や「改正労働者派遣法」が少なからず影響していると考えられる。
また、いずれの年商帯においても、「働き方改革に沿ったテレワーク/在宅勤務の推進」と比較して「業務の効率化に向けたモバイルワークの推進」の回答割合が高くなっている。
在宅勤務が実現すれば、確かに従業員の負担は軽減される。だが、通勤時間は業務時間にはカウントされないので、働き方改革が求める長時間労働の是正には必ずしも寄与しない。また、在宅勤務が可能な職種も限られてくるだろう。
むしろ、モバイルワークを推進して、「日報を提出するためだけに外出先から帰社する」などの無駄をなくした方が効果的だと考える企業が多いことを、上記の結果は示唆している。
とはいえ、業務アウトソーシングには相応の支出が伴う。モバイルワークについても端末や通信の費用負担が生じてくる。法制度改正の影響を考えると、業務アウトソーシングやモバイルワークは望ましい選択肢ではあるが、中堅・中小企業が手軽に取り組める対策とはいえないのが現状だ。
【次ページ】「業務のデジタル化」なしでも人手不足を解決する、2つのソリューション
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