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このところIT事業者によるクラウド・サービスが驚異的な伸びを見せている。中でも米アマゾンが提供するAWS(Amazon Web Services)とマイクロソフトのAzureの躍進が著しい。近い将来、IT投資の多くが、2社のクラウドに集中するという話もあながち非現実的ではなくなってきた。本当にそのような事態となった場合、これまでシステム構築の請け負いを主業務としてきたITサービス事業者は極めて大きな影響を受けることになるだろう。両社は詳しい情報を開示していないが、本当のところ、どの程度の台数のサーバをクラウド上で運用しているのだろうか。また、クラウドへの集中化が加速した場合、ITサービス産業はどう変わるのだろうか。大胆に予測してみた。
来年にはクラウドがアマゾン1社で1兆円規模に
米アマゾンは6月、2016年4~6月期の決算を発表した。注目されていたAWSの売上高は、前年同期比58%増の28億8,600万ドル(約2,970億円)だった。AWSの2015年通期の売上高は78億8,000万ドルだったので、このペースが続けば、売上高はさらに拡大し、2016年通期では100億ドルを突破する可能性が高い。たった1社のクラウド・サービスがとうとう1兆円産業に成長することになる。
マイクロソフトのクラウド事業も好調だ。4~6月期におけるインテリジェント・クラウド事業の売上高は67億1,100万ドル(約6,910億円)と前年同期比で6.6%の増加となっている。この事業区分は、Azure事業だけではなく、各種サーバ製品のサービス課金なども含まれている。同社はAzureの売上高そのものは公開していないが、この四半期は前年同期比で2倍の売上高になったことを明らかにしている。
Azureの売上高はまだAWSには及ばないと考えられるが、足元ではAzureの利用に踏み切るユーザーが増えているとの報道も多い。マイクロソフトには分厚い法人顧客基盤があり、これらが一気にクラウドにシフトした場合のインパクトは大きいはずだ。
調査会社のガートナーは、2015年における世界のパブリッククラウド・サービス市場の規模は1,750億ドルで、2016年には2,040億ドルに拡大すると見ている。アマゾンとマイクロソフトのクラウド事業が2016年に200億ドルに成長すると仮定すると、すでに両社は1割のシェアを確保していることになる。
寡占化が始まる場合、むしろ、ここからがスタートラインであり、場合によってはクラウド事業のかなりの部分を両社が占めるという事態も十分にあり得る話となってきた。
アマゾンはすでに450万台のサーバを保有?
両社の事業規模が持つインパクトは、売上高の数字を見ただけでは今ひとつピンとこないが、保有しているサーバの台数で考えるとその巨大さが分かる。
アマゾンとマイクロソフトは、クラウド事業向けに自社が保有しているサーバの台数などについて情報を開示していない。ただ部分的に明らかにされている情報などから、おおよその台数を推定することは可能だ。
アマゾンはデータセンターのために確保した施設の面積について情報を開示している。データセンターに収納されたサーバからは大量の熱が発生する。このため、サーバを目一杯、施設に収納することは難しく、一定の冷却性能を確保するためには、単位面積あたりのサーバ台数を制限する必要が出てくる。
同社は以前、データセンターの大まかな拠点数などについても一部ではあるが情報を公開したことがある。こうした部分的な情報を総合すると、アマゾンは2015年時点では約450万台程度のサーバを保有していると推定される。
Azureの売上は一部報道によるとAWSの3分の1程度まで迫っているとされるが、マイクロソフトはアマゾンと同程度のインフラ投資はすでに実施済みの可能性が高い。そうだとすると、マイクロソフトも300万台から400万台程度のサーバを保有してもおかしくないことになる。
総合すると、アマゾンとマイクロソフトの2社ですでに800万台程度のサーバを運用しており、来年にはおそらく1000万台を越えることになるだろう。
2015年における世界のサーバ出荷台数は1100万台であり、サーバの償却期間を5年とすると、全世界には5500万台のサーバが稼働している計算になる。つまり世界のサーバの5分の1がすでに両社によって管理されている可能性が高いのだ。
このまま2社への寡占化が進んだ場合、世界のITインフラの3分の1が両社に集中するという状況も十分にあり得るだろう。
【次ページ】クラウドの進展が及ぼす影響額は?
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