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- 2023/12/25 掲載
自治体が「ガバメントクラウドに大困惑」の根因、あまりに異なる当初の理想と現実
国が主張するメリットとかけ離れた現実
現在、日本の地方自治体の数は1700超あるが、これまで各自治体は、それぞれ独自のシステムを開発して行政業務を遂行してきた。このため、相互にデータを活用することが困難で、運用・管理にも多くのムダが発生していた。こうした行政システムに関わるムダを是正し、データの利活用を促進する目的で、2021年9月1日に施行されたのが「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」である。
これにより、すべての自治体は、2025年度末(2026年3月末)までに住民基本台帳や税に関わる20の基幹業務について、標準に準拠したシステムへの移行が義務づけられた。
その移行先として国やデジタル庁によって推奨されているのが「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」である。これは、政府や地方自治体が共通利用できるクラウド基盤だ。
ところが、このガバメントクラウドをめぐって、さまざまな混乱や反発が起きている。VMware 公共SE本部 本部長 中島 淳之介氏は、現在の状況を次のように説明する。
「デジタル庁は2021年の『地方自治体によるガバメントクラウドの活用について(案)』などで、地方自治体がガバメントクラウドを活用するメリットとしてコスト削減やセキュリティなど4つのメリットを挙げていました。しかし、本当にこれらは実現できるのか、当初の狙いと現実とはかけ離れたギャップがあるのではないかということで、混乱が起きています」(中島氏)
カレーライスが出てくると思って入ったら料理教室だった
行政の中核を担う基幹業務のシステムがすべての自治体で標準化・共通化され、クラウドで提供されたら、それは素晴らしいことだ。中島氏も「多くの自治体の関係者もそう思っていたはずだ」と述べる。ところが、取り組みを主導するデジタル庁の説明を聞いた自治体関係者からは、次のような戸惑いの声が聞こえてくるという。
「誤解を恐れずにたとえるなら、おいしいカレーライスが出てくると思ってレストランに入ったら、ジャガイモやニンジンが並んでいる料理教室だったというような印象を持っているようです。SaaSアプリケーションのような標準化されたシステムが提供されると思っていたら、自治体それぞれでクラウドを使って自分たちでベンダーと一緒にシステム構築をしなければならなかったのです」(中島氏)
つまり、1700超の自治体に求められているのは、共通化された1つのシステムを使うことではなく、各自治体の基幹システムをそれぞれが新たに構築することであり、その基盤として提供されるのがガバメントクラウドだったというわけである。
さらにいえば、デジタル庁は、クラウドの機能を積極的に活用することを推奨している。具体的には、現行のシステムをそのままクラウドにリフト&シフトする方法ではなく、モダンなシステムを開発することを求めているとされる。しかもそれは自治体がコントロールできることではなく、ベンダーがモダン化するかどうかに委ねられてしまっている状態になっている。
これが事実なら、自治体の担当者が“目を白黒させている”のも十分納得できる。 【次ページ】自治体の情報が米国企業のクラウドサービスへ
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