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  • 2024/02/15 掲載

APMとは何か? 主要19社を比較、なぜクラウド時代は「オブザーバビリティ」が重要なのか

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Webやモバイルアプリケーションでのユーザー体験(UX)がビジネスの結果を大きく左右するようになった。アマゾンでは、Webサイトの表示が1秒早くなれば、売り上げが1割伸びるという。一方で、クラウドの登場でシステムは複雑さを増しており、システムに何か問題があった場合でも把握しづらくなっている。こうした課題を解決する上で「アプリケーションパフォーマンス監視(Application Performance Monitoring :APM)」や「オブザーバビリティ(可観測性)」に注目が集まっている。ここでは、APMやオブザーバビリティを基礎から解説するとともに、Dynatrace、Datadog、New Relicなどの業界の主要プレイヤー、OpenTelemetryなどのオープンソースソフトウェアを紹介する。
執筆:友永 慎哉
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APM/オブザーバビリティを基礎からわかりやすく解説する
(Photo/Getty Images)

APM/オブザーバビリティとは何か

 アプリケーションパフォーマンス監視(以下、APM)とは、システムやアプリケーションの性能を管理、監視するツールのこと。アプリケーションの応答時間を把握したり、アプリケーションを構成するさまざまな要素のパフォーマンスを調査することで、システム全体の稼働状況を可視化し、部分最適に陥らず、システム全体の体験を担保する。

 また、オブザーバビリティツールは、システム開発者や運用者がSRE(サイト・リライアビリティ・エンジニアリング)の詳細を分析するために使用する、より技術的な手法と捉えられている。

 調査会社のガートナーによれば、アプリケーションパフォーマンス監視(APM)およびオブザーバビリティ市場を、アプリケーションの稼働状態、パフォーマンス、ユーザーエクスペリエンスの観測や分析をできるようにするソフトウェアの市場として定義している。

 監視対象のアプリケーションはツールにより異なるが、一般的にはERPなどのパッケージソフトウェア、SaaS、自社開発ソフトウェアなど多岐にわたっており、アプリケーションのパフォーマンス悪化をソフトウェア全体的な視点から把握できる。障害が発生した際は、迅速にアラートを通知し、原因を特定する。

クラウドなどで複雑化するシステム

 現代の企業におけるシステム環境は、過去から継承したオンプレミスシステムや仮想化システム、コンテナに加え、IaaS、PaaS、SaaSなどのクラウドサービスが混在し、そして連携して構成されている。

 システムは複雑化の一途をたどっており、稼働状況を横断的にまとめて管理することは困難になりつつある。

 これに対して、APM/オブザーバビリティでは、こうした問題を容易に把握できるようになるため、パフォーマンス悪化によるビジネス面の損害を防ぎ、運用負荷を軽減することができる。

 ガートナーはAPM/オブザーバビリティの対象となる職務として、ITオペレーション、SRE、クラウド/プラットフォームチーム、アプリケーション開発者、製品オーナーを挙げている。また、自社環境、ベンダーが管理するホスト環境、もしくはSaaSでの運用を前提にしている。

APM/オブザーバビリティの具体的な機能

 APM/オブザーバビリティの主要機能は次のとおりである。最近は、セキュリティ機能が含まれるようになっているのも特徴だ。

  • アプリケーションのトランザクションにおける挙動を観測する
  • アプリケーションとそのインフラの自動検出とマッピング
  • ブラウザ、モバイルアプリ、APIを通じて提供されるアプリケーションの監視
  • アプリケーションのパフォーマンスに関連する問題とビジネスの成果に与える影響の分析
  • 自動化やサービス管理ツールとの統合、パブリッククラウドプロバイダーとの連携
  • ビジネスアクティビティの監視、KPIとユーザープロセス全体の分析
  • トレース、評価指標、ログなど複数のテレメトリタイプを双方向に探索、分析し、「未知の不明」を検知する機能
  • 監視対象アプリケーションの既知の脆弱性を識別する機能、その脆弱性の悪用を阻止する機能など、アプリケーションのセキュリティ機能

 このほかに、ユーザー体験やそれがビジネスに与える影響を把握するためのエンドポイント監視、ホスト型やSaaSベースのアプリケーションから収集したテレメトリを取り込む機能、AIOpsなどによる分析で稼働状態やパフォーマンスの異常を解消するための施策を特定する機能、DevOpsツールとの統合、パフォーマンステストやストレステスト用ツールとの統合なども視野に入ってくる。

APMのメリットは? アマゾンは表示が0.1秒遅れると売上が1%減る

 通常の運用管理では、ネットワーク、サーバ、データベースなどのシステムに付属する管理ツールから出てくるログを基に問題点を把握し、アプリケーションのパフォーマンス悪化の原因を把握する。だが、これでは個別の事象が全体に影響を与えていることを把握するまでに時間がかかることがある。

 一方、APM/オブザーバビリティではエンドユーザーの視点からアプリケーションを監視できるのが特徴だ。「Webサイトが遅いな、なぜだろう」といった直感に沿って原因を究明できる。

 それを踏まえて、APM/オブザーバビリティの特に注目しておきたいメリットは大きく分けると2つある。

  1. 売り上げの増加
     大手EC事業者のアマゾンは2007年「サイト表示が0.1秒遅れると、売り上げが1%減少する。1秒速くすると1割向上する」という分析結果を公表した。Kissmetricsは2017年に「47%の消費者は2秒以内にWebページが読み込まれることを期待し、40%のユーザーは読み込みに3秒以上かかるとWebサイトから離脱する」と示した。

     このように、Webサイトのパフォーマンスが売り上げに直結することが古くから指摘されている。

     また、遅延によるユーザーのストレスを解消することは、顧客満足度を高めて新旧のユーザーを引き込むだけでなく、競合他社への流出を防ぐ意味もある。攻めと守りの両面で、継続的に売り上げに寄与できる。さらに、評判の低下など、間接的な損失も回避できる。

  2. 迅速な障害対応
     すでに指摘しているとおり、APMによりユーザー視点で複雑な情報システム環境を横断して監視し、パフォーマンスの悪化など不具合の原因を迅速に把握できる。これが障害対応の迅速化を促す。これにより、システム管理者の負担が軽減することに加え、ビジネスのダウンタイムを極力抑えることができる。
  3. APM/オブザーバビリティのデメリット

     APMツールを導入するデメリットもある。端的に言うと、うまく使いこなせなければメリットも生まれず、コストばかりがかかることになるということだ。

    1. アプリケーション管理が複雑化することがある
       APMによってアプリケーションのパフォーマンスを管理しようとするため、管理者は企業が持つ複数のアプリケーションを理解する必要が出てくる。

       さらに全体的な視点でシステムの状況を分析するなど、管理自体の難易度が上がる。優れたAPMツールは数多く提供されているものの、アプリケーション管理者にとってハードルの高い仕組みになる可能性もある。

    2. 高コストになる可能性
       APMを実施するためには専用ツールが必要となり、高額なものも多い。今後、機械学習や振る舞い検知などの最新テクノロジーを採り入れる場合は、さらにコスト負担が増える可能性も考慮しなくてはいけない。
    3. 金融大手シティグループの導入事例

       APMを導入した企業として、金融大手のシティグループが挙げられる。世界各地で金融サービスを展開しており、「ビジネスアプリケーションチーム」はグローバルな運用インフラを支えている。

       ITインフラが複雑であることから、規模のメリットの追求や不測の事態からの事業の回復力、アジリティ、ITツールの最適化などを試みているという。

       特に部門間でのITツールの最適化は重要だったそうだ。同グループが業務を監視するためには大量のデータが必要だが、データが異なる部門や国に散在しており、効果的なインフラ監視システムの構築は不可能に近かったという。そこでたどり着いたのが、APMの導入だった。複雑なシステムを統合的に管理し、データをガバナンスする効果があった。

       シティグループのように、多くの企業でシステムが複雑化している。これはさらにクラウド化とも深く関わっている。

       現在、複数のクラウドサービスを使いこなし、マルチクラウド環境化する動きが急速に進んでいる。そのため、異なるクラウドサービス間で管理しているリソース情報が共有できていなかったり、横断的な観点で動作状況の確認ができていなかったりといった問題が出てきている。

       さまざまなクラウドサービスを使うことがアプリケーションの遅延につながることを避けるため、APM/オブザーバビリティを導入しようとする企業が増えている状況だ。

      APM/オブザーバビリティの主要ベンダー19社+1

       ガートナーは2023年7月、「アプリケーションパフォーマンス監視/オブザーバビリティのマジック・クアドラント」を発表した。

       ここでは、リーダーに分類された5社、チャレンジャーの4社、概念先行型の4社、特定市場志向型の6社を紹介するとともに、要注目のオープンソースソフトウェアを紹介する。

      リーダー Dynatrace
      Datadog
      New Relic
      Splunk
      Honeycomb
      ビジョナリー Grafana Labs
      ServiceNow
      Logz.io
      Elastic
      チャレンジャー Amazon Web Services
      Cisco
      Microsoft
      IBM
      ニッチプレイヤー Oracle
      Sumo Logic
      SolarWinds
      Broadcom
      Riverbed
      ManageEngine
      オープンソースソフトウェア OpenTelemetry
      (ガートナー資料を基に筆者作成)

      各ベンダーの特徴や製品の詳細は以下の通り。

      ■リーダー
      ・Dynatrace

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