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  • 2016/06/16 掲載

バルミューダの「扇風機」と「トースター」 なぜ高価格な家電が売れるのか

寺尾 玄 社長が誕生秘話を語る

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バルミューダといえば、斬新なアイデアの家電を世に送り出しているベンチャーだ。同社は、独自技術によって自然界の風を再現する扇風機や、最高の香りと食感を実現するトースターなどを発売し、高価格な家電にも関わらずヒットを続け、熱烈なファンを獲得している。バルミューダ創業者の寺尾玄 氏が「バルミューダの家電が売れる理由」と「ヒット家電を生み出すための理念」、さらには「次に売れる家電」について語った。
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バルミューダ
代表取締役
寺尾玄 氏

アップルからヒントを得て家電の道へ

 他社にない独自製品を連発する家電ベンチャーとして有名になったバルミューダ。創業者の寺尾 玄氏は17歳で高校を辞め、スペイン、イタリア、モロッコ、フランスなど放浪の旅に出ていた。20代からはアートの世界に身を置き、その後ミュージシャンに転向するも、いずれも芽が出なかった。

 ダッソー・システムズ主催イベントに登壇した寺尾氏は「どんなに頑張ってもできないことがあることを知った」と当時の心境を語った。

 夢破れ、何か自分にできることを模索していた寺尾氏だったが、楽曲制作で使っていたアップルのPCから「よいツールは人生を変える」というヒントを得た。同氏は「音楽という自分の夢は終わったが、この素晴らしいツールを使ってモノづくりの世界に入ろうと決意した」と語り、次のように続けた。

「アップルはマーケティングによるビジネスを行っていない。さらに、競合とも争っていない。クリエイティブからセールスを生み出す方法で、まず自分たちがつくりたいものをつくってしまう。これはミュージシャンと同じ手法。つまり偶然と熱意からスタートするということだ」(寺尾氏)

 当時、モノづくりの知識や経験が全くなかったという寺尾氏。秋葉原や東急ハンズに毎日通って、いろいろな話を聞くことから始めた。

「スプーンは何からできているのかを教えてもらったら『プレス』という言葉が出てくる。次の日に電話帳でプレス工場を探した。当時、外見は金髪のミュージシャンのままだったので、なかなか相手にされなかった。まず自分で2.5次元のCADを覚えてモノを設計し、『この部品を作りたい』と工場を回った」(寺尾氏)

 初めて寺尾氏を迎え入れてくれたのが、東小金井の町工場だった。そこで1年間にわたり、旋盤やフライス盤などの技術を学んだ。「実際に現場に入って手を汚し、エネルギーを感じられたぶん、モノづくりの何たるかが分かった。最初はノートPCの冷却台を削り出しでつくった」(寺尾氏)

リーマンショックをきっかけに生まれた「扇風機」

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 こうした修業を経た2003年、寺尾氏はバルミューダを創業する。当初はデスクライトやスタンドライトなどを手掛けていく中で、創業からおよそ5年後には、何とか食べていけるレベルになった。

 しかし、ここでまた大きな危機が襲う。リーマンショックが直撃し、倒産しそうになったのだ。寺尾氏は当時の心境を次のように回想する。

「音楽の世界でもダメで、製造業でもダメかと思った。しかし最後に、どうせ倒産するならば思いっきり好きなことをやろうと思い、腹をくくって扇風機を開発することにした。資金がなかったが気合でやった。人生そのものをベットし、人生を切り開く扇風機ができた。それで流れが大きく変わった」

 この扇風機こそが、同社のヒット商品である「GreenFan Japan」だ。GreenFan Japanには、2つの異なる翼がある点が大きな特徴だ。

 これで渦を巻いた風が生み出され、大きく広がってゆっくり移動する自然界の風を再現する仕組み。このほかにも省エネルギー性や静音性に優れた設計になっている。そして設計・開発が終わった時点で、一気に資金調達に走りまわった。

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バルミューダの成長の起爆剤になった扇風機「GreenFan Japan」。2つの異なる翼によって渦を巻いた風が生み出され、自然界の風を再現する。この家電がヒットしたことで、昨年の年商はおよそ29億円となった

「試作品をつくり、販路を回って、とにかく注文を取ってきた。製品に対する反応はよく、3000枚の注文書が集まったので、あるモーター供給メーカーに掛け合い、資金を立て替えてもらった」(寺尾氏)

 当初、資金調達が完全でない段階で注文を取るために、「来年5月に発売する」と先方に伝えていた。寺尾氏は「嘘のように思えて良心が痛んだが、実はそうではない。なぜなら実際に5月に製品が発売されたからだ。結局、人は将来や未来を約束できない。それが本当かどうかは後にならなければ分からない。最終的にそこに向かっていく心構えがあるだけだ」と熱く語る。

 結果的に、バルミューダの扇風機「GreenFan Japan」は同社が成長するための起爆剤になる。初年度の年商は4500万円だったが、扇風機を売り出してから2億5000万円、8億5000円、16億円、23億円、27億円、昨年には29億円となった。

バルミューダの高級家電が売れる理由

 このような急成長を遂げたバルミューダだったが、近年の売上をみると徐々にその勢いが鈍化していた。扇風機のような季節モノは売れ行きの変動が激しく、在庫を抱えるリスクもある。扇風機を発売した後も、空調制御を中心に家電のラインアップを広げたが、これらすべてが季節モノだった。

 寺尾氏が出した次なる打ち手が、スチームテクノロジーと温度制御によって誰でもおいしくパンを焼けるトースター「BALMUDA The Toaster」だ。

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バルミューダの名を世に知らしめた高級トースター「BALMUDA The Toaster」。本当に美味しいトーストやクロワッサンが焼けると口コミで広がり、値段が2万円以上にも関わらず、大ヒットを飛ばした

「在庫の山を見て感じたことは、人々はモノを意識して買っていないということだ。人々は体験を買っているという仮説を立て、企画から開発まで一貫して体験を考えた」(寺尾氏)

 BALMUDA The Toasterを生み出すヒントは、同氏がスペインを放浪していた頃、「1枚のパンを食べて涙した」という原体験だ。

「生活必需品でないモノを買うのは、より良い体験をしたいという気持ちの表れ。人々はトースターが欲しいわけではない。美味しいトーストが食べたいのだ」(寺尾氏)

 寺尾氏は、いまモノが売れないのは、すべての家庭で基本的な道具があり、そこには単なる「買い替え需要」しかないためだと指摘した。つまり、モノを欲しがっていない人に売ろうとしても売れないのは当たり前だという。

【次ページ】バルミューダが考える「次に売れる家電」
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