0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
3月に入り花粉の飛散量はいよいよピークに達し、花粉症の人間にとっては非常に辛い時期となった。日本気象協会の「週間花粉飛散情報」を見ると、関東を中心に「非常に多い」または「多い」予想が連日続く。スギ花粉症の有病率は東京都の調査では45.6%に達し、症状が出る人は対策に平均4550円の費用をかけるという調査もある。そこで、鼻炎治療内服薬の市場は医療用医薬品のスイッチOTC化促進策や2017年に始まった「セルフメディケーション税制」にも後押しされて2桁成長中。「アレグラ」や「アレジオン」などが比較的よく売れているが、そこへジェネリック薬やPBなどのチャレンジャーが台頭し、花粉症薬をめぐる商戦は過熱している。
花粉症の有病率も治療薬市場も右肩上がり
春の気配とともに襲って来るくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の炎症……。「花粉症」はすでに俳句の春の季語になり、季節限定ながら日本人の国民病のようになっている。
東京都福祉保健局が10年ごとに実施している「花粉症患者実態調査」のスギ花粉症の推定有病率は、1983~87年は10.0%で「10人に1人」だったが、2016年は45.6%で「ほぼ2人に1人」に達した。「花粉症は昔よりもひどくなっている」という“体感”が、数字で裏付けられている。
年齢層別では2006年に14.2%だった60歳以上の有病率が2016年、2.39倍の33.9%に急増。15~29歳の有病率は56.0%、30~44歳は55.2%で、全世代にわたってほぼ半数の人が花粉症に苦しむ時代になった。
花粉症の本格的な治療には、長期にわたってスギ花粉の免疫成分(アレルゲン)を注射し続ける「減感作療法」や舌の下に垂らし続ける「舌下免疫療法」があり、歌手やアナウンサーのような自分の声が商売道具の人などが予防対策として行っている。しかしそうしたアレルゲン免疫療法は医師の診察を受けて医師の指導管理のもとで行わなければならず、保険適用だが費用もそれなりにかかる。たいていの人はシーズンになると塩水で「鼻うがい(鼻腔(びくう)洗い)」をやったり、市販の内服薬、鼻薬、目薬を使うことで症状を和らげながら憂鬱(ゆううつ)なシーズンが過ぎ去るのを待つ。
ネット調査会社のマクロミルが2019年1月15日に発表した「『花粉症』に関する調査結果」によると、スギ花粉症の症状がある人はその対策に平均4550円の費用をかけている。もっとも、統計の常識として単純平均値は「花粉症の苦しみから解放されるなら、カネに糸目はつけない」と何万円も使う人に数値が引っ張られる。実際に最も多数派だったのは「1000円以上3000円未満」で、47.2%と約半数を占めていた。
たかだか3000円程度であれば対策はマスク着用と、ドラッグストアなどでの市販薬の購入にとどまるだろう。多くの場合、鼻水や目のかゆみがひどい時の対症療法の鼻薬や目薬はサブで、シーズン中に毎日、花粉症の症状全体を抑えるために服用する内服薬(抗ヒスタミン薬)がメインになる。「スイッチOTC」の内服薬が「効く」と評判を呼んで人気が出て以来、その傾向は強まった。
スイッチOTCとは、以前はもっぱら医師が処方せんを書いて薬局で処方されていた医療用医薬品を、処方せんを必要とせずドラッグストアやネット通販で買える市販薬(OTC/Over The Counter)に転換(スイッチ)した薬のこと。富士経済の調査レポートによるとスイッチOTCは2017年は前年比3.0%増、2018年は3.8%増と右肩上がりで成長を続けており、内服薬の鼻炎治療剤は2018年、前年比11.4%と2桁伸びていた。
スイッチOTCの販売の伸びには、2014年の一般用第2類医薬品のネット販売の解禁(薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律の施行)とともに、2017年に始まった「セルフメディテーション税制」が寄与している。これは本人が定期健康診断の受診など一定の条件を満たせば、指定品目の市販薬を扶養家族の分も含めて年間1万2000円以上購入すると費用が所得税の所得控除の対象になる、というもの。
スイッチOTCの花粉症内服薬は指定品目なので、購入の翌年に健康診断を受けた証拠と薬の領収証を添えて確定申告すれば費用の一部が還付される。花粉症のシーズンと確定申告のシーズンはちょうど重なっているので、薬代の一部が1年後、国からキャッシュバックされることになる。
人気商品「アレグラ」「アレジオン」の違い
現在、スイッチOTCの鼻炎治療内服薬では「アレグラ」や「アレジオン」が人気を集める。
「アレグラ」には「フェキソフェナジン」という有効成分が含まれ、スイッチOTCは久光製薬が「アレグラFX」という商品名で2012年から発売している。「アレジオン」は「エピナスチン」という有効成分が含まれ、スイッチOTCはエスエス製薬が「アレジオン20」という商品名で2015年から発売している。
True Data社は、保有するドラッグストアの購買データ(POSデータ)を基に鼻炎用薬のメーカー別購入者数構成比を算出し、そのランキングを公式ブログの「True Dataブログ」で掲載している。それによると2018年のトップは「アレグラFX」を発売する久光製薬で18.25%、2位は「アレジオン20」を発売するエスエス製薬で15.05%となっている。久光製薬は2016年は5位だったが、アレグラがヒットしたことで2017年はトップに躍り出た。エスエス製薬はアレジオン発売直後の2016年はトップだったが2017年は4位に後退し、2018年は2位まで挽回している。
理由の一つとして「眠くなりやすい」という副作用がある。眠くなる恐れがある市販薬は添付文書(説明書)で「自動車の運転などをしてはいけない」または「自動車の運転などは注意すること」という趣旨の表示をする義務がある。両方とも眠気を起こしにくい「第2世代」に属しているものの、アレジオンは自動車の運転について注意表示がついている(アレグラには注意表示がない)。ドライバーが花粉症薬を買うとき、注意表示を見て、または店頭で説明を受けて、アレジオンを避けてアレグラを選んでいることも考えられる。
【次ページ】アレグラに迫る新世代、続々現る
関連タグ