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書店が街から減り続けている。2000年には2万1,600店舗だった書店の数は2020年には1万1,024店舗と、20年間で約50%まで縮小した。地方では、住民の高齢化と過疎化が進み、さらに日本の人口は今後減少していく。その中にあって「書店ゼロの街をなくす」という構想を掲げたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC) 蔦屋書店カンパニー BOOK本部長 鎌浦慎一郎氏に独占インタビューを実施した。
聞き手:編集部 松尾慎司 構成:編集部 渡邉聡一郎 執筆:井澤梓
聞き手:編集部 松尾慎司 構成:編集部 渡邉聡一郎 執筆:井澤梓
井澤梓
大学卒業後、金融機関を経て、2010年ビズリーチの新規事業立ち上げに参画。法人営業や人材エージェントの新規開拓営業に携わる。その後、独立し企業広報支援を開始。主にBtoB企業の発信力向上をサポートする。2020年にカタル設立。代表取締役に就任。
街から書店がなくなると、何が起こるのか
出版産業は1997年の販売金額2兆6,564億円をピークに減少を続け、2020年には電子出版を合わせても1兆6,168億円まで落ち込んだ。
本が売れない時代。2020年のCCCの書籍・雑誌全体 既存店前年比は 110%を記録しシュリンクし続ける業界の中で一定の成果を上げているが、「昨年の結果は『鬼滅の刃』ヒットやコロナ禍での巣ごもり需要の影響も大きい。あぐらをかいてはならない」と鎌浦氏は冷静に語る。
同氏は2021年6月に開催された出版社向け説明会で、「書店ゼロの街をなくす」という構想を掲げた。
2017年8月24日の朝日新聞によると、全国420の市町村・行政区の2割強で、すでに書店は消滅している。すなわち新規出店を行わないとCCCの掲げた目標は達成できないが、そもそも街から書店がなくなると何が起こり得るのか。鎌浦氏はこう説明する。
「NHKが開発したAIが、のべ41万人のデータを元に解析した結果によると、読書習慣と健康寿命の長さに相関関係が見られました。しかも、運動や食事よりも健康維持に強い影響があるという結果も出ています」(鎌浦氏)
それを証明するかのごとく、男性の健康寿命全国1位、女性全国3位を誇る山梨県では人口に対する図書館数が全国1位だというデータもあるという。「書店があることは、文化的な意義のみならず住人の健康に良い影響を与える可能性もある」と同氏は語る。
地域に合わせた店づくりをしていく
「書店ゼロの街をなくす」を掲げたCCCは、書籍の利益構造まで踏み込んだ取り組みを提案する。「また“カフェをくっつけて、おしゃれな本屋を作るんでしょ“なんて言われるのですが(笑)、やろうとしていることはまったく違います」と鎌浦氏は話す。
レンタル業態、TSUTAYAで日本全国に店舗網を誇る同社。しかし、CDの年間販売数は、1998年の約3億300万枚をピークに縮小を続けている。加えて、Netflixやアマゾンプライムビデオなど定額制動画配信サービスの定着もありレンタル利用は減少している。そんな同社のイメージを一新させたのは、2011年の「代官山 蔦屋書店」。鎌浦氏が話す、“おしゃれな本屋”である。
緑に包まれた閑静な住宅街に作られた「代官山 蔦屋書店」は、空間をリッチに使用。これまでのレンタルのTSUTAYAのイメージを覆す店構えは、代官山の人の流れすらも変えた。
その後、同業態の店舗を都心部に次々投入。二子玉川には、蔦屋家電をオープンさせて反響を呼ぶなど、このまま出店を拡大を拡充するかに見えた。
しかし、鎌浦氏はそれぞれの地域に合わせた店づくりの重要性を感じているという。
「地方には地方のやり方があります。地方に書店を増やすためには、都会で流行るスタイリッシュなパッケージを持ち込むことではなく、その地域に合った書店を作り、その書店が儲かる仕組みを作ることが必要だと考えています。書店が儲かるビジネスになれば新規参入者が増え、書店が増えて行くはずです」と話す。業界の利益構造の改善こそが、書店ゼロの街をなくす手がかりだと考えているのだ。
【次ページ】利益構造に踏み込む。返品率を35%から10%へ
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