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  • 2021/07/20 掲載

ネットフリックスが成し遂げた「4度のDX」、どうやって業界のルールを書き換えたのか

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有料会員数は世界で2億人超、日本だけでも500万人が登録する「王者」、Netflix(ネットフリックス)。1997年の創業から20年あまりで、世界のエンタメの「一丁目一番地」に躍り出ている。この目覚ましい躍進は、同社が“破壊者(ディスラプター)”として、業界のルールを何度も塗り替えてきたことに起因している。アジアクエスト 金澤一央氏が上梓した『DX経営図鑑』から、同社が行ってきた「4度のDX」、およびそれによって解決したペイン(苦痛)ともたらしたゲイン(利得)を紹介する。
金澤 一央、DX Navigator 編集部

金澤 一央、DX Navigator 編集部

・金澤一央
アジアクエスト 執行役員CMO兼DX戦略室長。大手量販店、SI企業等を経て2001年、ネットイヤーグループに参画。同社プロデューサーを経て、データ分析専門の事業部を設立、大手企業を中心に通算100社を超えるプロジェクトを牽引。2016年、留学を機に同社フェロー就任。2019年よりアジアクエストの「DX Navigator」編集長兼DXフェロー。2020年より現職。ニューヨーク大学大学院SPSインテグレーテッド・マーケティング学科(休学中)。東京工業大学大学院エッセンシャルMOT修了。高崎経済大学経済学科卒業。

・DX Navigator編集部
デジタル・インテグレーターのアジアクエストが提供するデジタルメディア「DX Navigator」の運営を行う。DXが生み出す新しい価値交換と技術革新、ビジネスモデルの創出に関連するトレンドやコラムを発信している。

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ネットフリックスのビジネスはどう変化してきたのか。社史とともに見ていこう
(写真:ZUMA Press/アフロ)
※本記事は『DX経営図鑑』の内容を再構成したものです。

ネットフリックス1回目のDX──オンラインDVDレンタル

 ネットフリックスの創業は、実はビデオレンタルからでした。創業者のリード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフの冒険は、当時アメリカのホームエンターテインメントを席巻していたBlockbusterを盟主とする、ビデオレンタル市場の破壊者として1997年に始まります。

 それはインターネットが商用化された直後の時代でした。ネットフリックスは当初、インターネットによる伝統的ビジネスの革新を目指した星の数ほどのスタートアップの1つに過ぎなかったのですが、その中で20年以上生き残り、世界の消費行動を変えた数少ない企業となりました。

■店舗のないビジネス
 ネットフリックスはその社史の中で、少なくとも4回のDXを実行しています。

 1回目のDXは、ビデオレンタルを無店舗で行ったことです。レンタル予約をすべてウェブ上で完結させ、DVDに特化することで画質劣化と配送料を抑え、既存の郵送網を使って配送を完了させます。「店舗に行く」という価値入手のための使役負荷を「自宅配送」でゼロに近づけることで、コンテンツ配給という価値を差し引きで最大化したのです。

 この手法はインターネット黎明期のビジネスのほぼすべてに共通するもので、アマゾンやグーグルも、デジタルによる「ユーザー負荷のゼロ化」によって市場を変えていきました。ネットフリックスを含む当時のスタートアップは、デジタルによる既存ビジネスモデルの破壊と変革そのものを競争力としており、それゆえに破壊者(ディスラプター)とも呼ばれています。言い換えれば、ディスラプターとは、既存業界のDXを体現するスタートアップそのものを指します。

「オンラインDVDレンタル」で取り去ったペイン、もたらしたゲイン

■ネットフリックスが取り去るペイン1─「来店」と「レジ待ち」の概念をなくす
 創業当初のネットフリックスは、従来の店舗型モデルがユーザーに強いる使役負荷、すなわち来店移動とレジ待ちを、ウェブ受付と郵送によって省略していました。価値提供のプロセスからペイン(苦痛)を取り除くために、Webサイトを店舗化することでレンタル時の来店移動をなくし、郵送返却を実現することで返却時のペインも取り除いたのです。

 一方、デジタル化によって新しいペインとなる、複雑な商品選択はリコメンドの実装によって軽減し、配送待ち時間はデジタルオペレーションを最小化し(高速オーダー処理と同日発送など)、ペインのゼロ化に注力しています。

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ネットフリックス1回目のDXによるペインリリーバー(ペインの解決策)

■ネットフリックスがもたらすゲイン1─「無限の在庫」と「確実な予想外」という魅力
 従来の店舗型ビデオレンタルも ネットフリックスによる郵送DVDレンタルも、最終的な顧客の価値は「観たいコンテンツを入手する」ことです。

 ただ、ニーズの多くは公開中の新作や見逃した準新作タイトルを家で楽しむことであり、Blockbusterなどの大手レンタルチェーン店は新作調達力の強さによって、確実に新作を借りられる品ぞろえを強みとしていました。

 ネットフリックスは新作調達では大手企業にかなわないため、旧作の保有力と発掘・推奨に重きを置き、デジタル技術を活用します。また、高精度のリコメンド機能を付けて「旧作から作品を探し出す」ペインを和らげ、旧作中心の品ぞろえを「確実に得られる予想外の喜び」というゲイン(利得)に変えました。オンラインゆえに無限の在庫を選択肢にできる「ロングテール」のセオリーをビデオレンタルに適用したのです。

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ネットフリックス1回目のDXによるゲインクリエイター(顧客がゲインを感じる原因)

ネットフリックス2回目のDX──サブスクリプション

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『DX経営図鑑』
画像をクリックすると購入ページに移動します
 2回目のDXは収益モデルの変革、すなわちサブスクリプションへの挑戦でした。実質上、延滞金を大きな収益源としていたビデオレンタル業界の収益構造を、根本からひっくり返すことになったのです。

 店舗型であれば陳列在庫が限られ、売れ筋の回転を速めるために延滞料というペナルティは必須になります。ネットフリックスはオンライン店舗なので陳列在庫は無限にあるのですが、物理的な在庫制約があるのはBlockbusterなどのリアル店舗サービスと同じです。

 1998年、ネットフリックスはホームレンタルライブラリという機能を提供し、月額20ドルで月6本まで借りられるサービスを実現しました。このサービスは QUEUE(キュー)と呼ばれるオンライン予約リストと連動し、QUEUE上の予約リストに登録されたタイトルが、毎月6本を上限としてユーザーへ送られ、返却すれば次のタイトルが送られてくるのです。

■6本以上の「観るべきリスト」
 このサブスクリプション実現の背景には、リコメンドエンジンのシネ・マッチがありました。

 ネットフリックスは旧作を大量に保有し、マニアックな嗜好属性に最適なコンテンツをマッチングさせることができましたが、常に6本以上の「観るべきリスト」が埋まる状態を作り出すことで、個別に6本借りるよりもお得な状況を維持することができ、全米のどこにいてもマニアックな作品を観ることができるようになったのです。さらに、延滞料は発生しません(その代わり、返却するまで次のタイトルも届かない)。

 つまり、デジタル技術によって、定額料金でも損を感じさせない、ユーザーが「サブスク負け」をしない環境を作り上げました。

 このモデルは現在も、ネットフリックス基本路線として踏襲されています。

「サブスクリプション」で取り去ったペイン、もたらしたゲイン

■ネットフリックスが取り去るペイン2─「自動配送」と「延滞料」の排除に成功
 ネットフリックスのサブスクリプションモデルによるペインの除去は、2回目以降のレンタルに効果が最大化されます。

 店舗モデルは返却機会を次のレンタルにつなげるため、単品購買と店舗内でのクロスセルが基本となります。ネットフリックスはQUEUEからの自動配送を実現することで、2回目以降の決済の手間を省略し、弱点だった配送待ちのペインも実質上ゼロにしました。また、リスト追加の手間はリコメンドエンジンの精度を上げることで軽減し、むしろリストの補充自体をゲイン保持のためのルーティンに転換しました。

 さらに、延滞料という最大のペインが完全に消え去り、ユーザーはより安心してコンテンツを楽しむことができるようになりました。

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ネットフリックス2回目のDXによるペインリリーバー

■ネットフリックスがもたらすゲイン2─フェアネスの上に成り立つ安心
 もし5本しか借りない月があれば、定額料金では損をする「サブスク負け」となり、単品取引である従来型レンタルのほうが公平です。一方、本来は公平取引の交換条件である「延滞料金」が、コンテンツ購買価格をはるかに上回る事象が多発し、皮肉にも不公平さの代名詞のように捉えられ始めていました。

 そもそも、延滞料制度とは売れ筋である新作の回転率を担保するためのもので、大きな収益源になるので、ビデオレンタル業界は「フェアネスという名のアンフェアネス」を黙殺していました。

 ネットフリックスはこれに目をつけ、定額バルク提供の代わりに延滞料を取らない「新しい公平性」を提案します。延滞料金の心配が消えた新しい公平性は、ユーザーから非常に支持されました。

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ネットフリックス2回目のDXによるゲインクリエイター

【次ページ】ネットフリックス3回目・4回目のDXとその成果
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