- 2021/02/27 掲載
「Netflix」は映画ビジネスを殺すのか? コロナ禍で壊れた“共存共栄”
稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」
超大作映画が劇場公開と同時配信
2020年12月、世界の映画業界に衝撃が走った。米映画会社ワーナー・ブラザースが、2021年公開予定の主要な新作映画17本を、劇場公開日に合わせて同社傘下の定額制動画配信サービス「HBO Max」でも同時配信する、と発表したのだ。17本の中には『ゴジラVSコング』『ザ・スーサイド・スクワッド(原題)』『マトリックス4(原題)』など、日本でもヒットが見込めそうなタイトルが含まれており、月額14.99ドルを支払う会員ならば、これらを追加料金なしで視聴することができる(期間は配信から1ヶ月間)。同社はこれに先立ち、全米で2020年12月25日に公開された『ワンダーウーマン1984』を、同じように「HBO Max」で同日配信した。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大により、全米の劇場が完全再開する見通しが立たないことを受けての措置だ。当然、反発する劇場や監督は少なくない。
ただ、2020年にディズニーが、実写版『ムーラン』やピクサーのCGアニメ『ソウルフル・ワールド』の劇場公開を取りやめ、同社傘下の定額制動画配信サービス「Disney+」のみで作品提供したことも併せて考えると、コロナ禍が収束するまでの間、映画作品の「劇場公開と同時配信」や「配信ダイレクト」が一定の潮流をなす可能性は、否定できない。
「配信が、劇場に取ってかわるかもしれない」。このことについて、国内の映画関係者はどのように考えているのか。映画興行会社勤務のA氏、映画配給会社勤務のB氏、映画製作プロデューサー・C氏に聞いた。いずれも仮名としたのは、所属会社の原稿チェックという制約を受けることなく、また取引先に忖度することなく、現場の声を拾うためである。ご了承いただきたい(取材日は3氏ともに1月下旬)。
配信に客を取られる?
まず、映画興行会社のA氏から。A氏の興行会社は、シネコンを含む複数の劇場を運営している。興行会社からすれば、「劇場公開と同時に配信」は、映画館の利益を“損ねる”ことになる。「事実から申し上げると、2020年7月17日の劇場公開と同時にAmazonプライム・ビデオで配信された『劇場』(監督:行定 勲)は、興行が大苦戦しました。主演の山崎 賢人さんは若者に引きがあります。言い換えれば、同作はそれなりにITリテラシーがあって配信で映画を観ることに抵抗がない人たちに支えられている作品なので、『配信で観られるなら配信にしよう』と考えた人が多かったのでは。また、本作に限らず配信限定作品の劇場公開も、数字は芳しくありません。『ちょっと時間が空いたから、観てみようかな』という映画館の利用動機は、配信の利用に置き換わってしまったと言えると思います」(興行会社・A氏)
ただ、配信が興行に好影響を与える場合もある。シリーズものの最新作が公開される前に、過去作を一括配信する場合などだ。それによって、一見さんが最新作を観る環境が整う。これは長らく、TV地上波が果たしていた役割でもあるが……。
「コロナの前だったら、その好影響は体感できました。配信と劇場が共存共栄だったんです。だけど今は、配信に客を取られているという感覚のほうが強い。ユーザーにとって、長期間家から出られない時に何が助けてくれたかと言ったら、NetflixとAmazonプライムなんですよね。定額見放題だし、この1年の生活習慣としてかなり根付いたので、多くの人が『映画はもう配信でいいや』という気分になってしまっている。なにより安価ですから、今は新作を映画館で観ることが“冒険”になっちゃってるんですよ。おもしろいかどうかわからないものに1900円も払えないよ、と。だからこそ映画館側は、映画館で映画を観るという原点に立ち返り、価値を創出していかなければなりません」(興行会社・A氏)
【次ページ】0を100にする映画興行、100を1000にするNetflix
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