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- 2021/08/06 掲載
TSUTAYAのデータ活用戦略、7000万人分の会員データをAIに生かせるか
井澤梓
大学卒業後、金融機関を経て、2010年ビズリーチの新規事業立ち上げに参画。法人営業や人材エージェントの新規開拓営業に携わる。その後、独立し企業広報支援を開始。主にBtoB企業の発信力向上をサポートする。2020年にカタル設立。代表取締役に就任。
前編はこちら(この記事は後編です)
CCCが打ち出した4つの施策
書店を「儲かるビジネス」に変えるために、CCCは4つのアクションプランを打ち出している。1つ目は、前編にも触れた書店が書籍を版元から買い切る変わりに返品できない「買い切り」仕入れの実施である。
すでに52の出版社と、207銘柄の雑誌で取り組みをスタート。バックナンバーの値引き販売することなども行っている。危惧された売上減についても、前年を超える結果を残した。返品廃棄となる雑誌は年間121万冊(=3万箱)で、環境負荷も軽減されるという。
雑誌だけでなく現在は買い切り範囲を、書籍にも広げている。そして積極的な買い切りは、利益率の改善だけでなく、新たな展開を呼んでいる。
それが、2つ目の施策となる、売れ筋商品の開発である。
「出版社さんが刷る前に、買い切りを約束することで、東野圭吾さんの新作『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』では、TSUTAYA限定のカバー商品を、店頭に並べることができました」(鎌浦氏)
CCC独自の装丁を、CCC買い切り商品にのみ利用。限定カバーは各種SNSでも話題を呼び、本作品の売上はその他書店よりも10%以上高い結果を出した。そして20〜40代女性の新規読者層の開拓につながっている。
これは、2016年からスタートした、絶版作品や発売から時を経た作品の中から、TSUTAYAの書店員が“イマ”読んで欲しい作品を発掘し、装丁まで含めてプロデュースする「TSUTAYA文庫」に端を発している。
鎌浦氏はこの成果について「既刊本が売れ、さらには新たな読者層を開拓でき、出版社さんに非常に喜んでいただいています。TSUTAYA文庫をはじめ、TSUTAYAコミック大賞、TSUTAYAえほん大賞など、弊社発の取り組みが増えており、書店からベストセラーを作っていきたいと考えています」と自信を覗かせる。
リアルならではの視点、売れる見せ方の法則を探す
3つ目が、売り切る店舗作りの規格化だ。「我々は、直営店舗を実験場所と位置づけています。ノウハウをため、FCや地方店舗に還元していこうと思っています。たとえば都内の馬事公苑店では、適正な在庫量の調査を行い、全国一の低返品率17.5%を記録することができました」(鎌浦氏)
その方法はこうだ。極端に考えるなら返品率を下げるためには、そもそも店の在庫を極限まで減らせればいい。しかし、スカスカの棚では購買意欲も下がってしまう。そこで、最適な面平率(背表紙ではなく、表紙を見せて陳列する割合)を数値化したのだ。
「試行の結果、ジャンルごとに最適な面平率があることがわかりました。たとえば売り場で気になって買うことが多いビジネス書は65%、目的が定まっている学術参考書は14%といった形です。売り場で購買意欲をそそる、最適な品揃えと見せ方を計算し、直営以外の店舗にも導入していきました」(鎌浦氏)
品揃えだけではアマゾンにリアル書店は及ばないが、店頭ポップとの組み合わせで、人気タイトルの売り伸ばし、「100冊売れていた本をもう100冊売る」という戦略が取れるようになる。
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