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全世界的な原材価格の高騰を背景に、値上げを発表する事業者が相次いでいる。値上げが続くと消費者の懐も厳しくなるが、事業者も収益の維持に腐心せざるを得ない。事業者がうまく利益を上げられなければ、結局は賃金という形で国民生活に跳ね返ってくるので、事業者にとっても消費者にとっても頭の痛い問題である。
物価上昇はすぐには収まらない可能性が高い
このところ進んでいるインフレは、コロナ後の景気回復期待による需要急増と、サプライチェーンの混乱が主な原因とされる。コロナ危機で全世界的にサプライチェーンが寸断されており、現時点でも十分に回復しているとは言い難い。一方で市場はコロナを見据えた動きに転じており、拡大する需要と一向に改善しない供給体制との間でミスマッチが生じている。
これはあくまでも短期的な要因だが、今回の物価上昇はそれだけが原因ではないとの見方も多い。新興国の急激な経済成長で全世界の需要は増える一方となっており、そもそも物価が上がりやすい環境が続いている。しかも米中の政治的対立によって、両国経済圏は個別に商品を調達するようになっており、スケールメリットの消失でコストが上昇している。これらの要因は構造的・長期的なものであり、もしこれらの影響が大きい場合、インフレはすぐには収まらない。
先日、外食チェーンの吉野家に続いて、いきなり!ステーキが値上げを発表したが、牛肉は今のインフレを象徴する商品と言って良い。今回の急激な価格上昇が発生する以前から、牛肉の価格はジワジワと値上がりが続いていたのだが、最大の理由は新興国の経済成長である。
多くの牛丼チェーンは米国産ショートプレートという部位を使っているが、この部位は米国では食用には用いられておらず、日本企業は安く調達することができた。ところが中国の驚異的な経済成長によって、火鍋用のショートプレート需要が急増。日本企業と調達で競合するようになってきた。
新興国が経済成長を実現して生活水準が上がると、牛肉をはじめとする各種食材の消費量が増えることは経験則的に分かっている。今後は中国だけでなく、アジア各国が豊かになり、多くの食材を消費するようになる一方、食糧の増産には限界がある。今回の価格上昇が落ち着いたとしても、長期的には上昇傾向が続く可能性が高い。
同じような現象が食材以外の分野でも発生しており、多くの企業が原材料価格の上昇という事態に直面しつつある。では、こうした価格高騰は企業収益にどのような影響を及ぼすのだろうか。吉野家といきなり!ステーキのケースで考察してみよう。
インフレに強いビジネスと弱いビジネス
今回の値上げで吉野家は、税込みで387円だった並盛の価格を39円引き上げて426円にした。ショートプレートの価格は2年間で1.5倍上に値上がりしているので、もっと価格を引き上げたかったはずだが、426円にとどめたのは玉子との関連性と思われる。吉野家では牛丼と玉子を同時にオーダーする人が多く、玉子の値段は74円である。牛丼が426円であれば、玉子を入れても500円で収まる。500円を超えると、販売数量が急激に減る可能性が高いと判断した可能性が高い。
一方、いきなり!ステーキは、「ワイルドステーキ」(150グラム)は税込み880円を1,045円に、200グラムは1,133円を1,408円に、300グラムは1,419円から1,804円に引き上げた。150グラムは約19%、200グラムは24%、300グラムにいたっては27%もの値上がり率だが、ハンバーグやチキンについては価格を据え置いている。
吉野家は10%程度の値上げにとどめ、ワンコイン以内を死守する価格設定となっているが、いきなり!ステーキは大幅な値上げで、かつ数字のケタが上がることも覚悟している。同じ牛肉を使ったメニューでも、両社のインフレ耐性には大きな違いがあることが分かる。
インフレの初期段階では、価格が安く生活必需品に近い製品やサービスは不利になる。こうした製品やサービスはちょっと価格が上がっただけでも、消費者が敏感に反応するので、なかなか値上げに踏み切れない。一方、単価が高く、嗜好品的な側面のある製品やサービスは、多少、価格が上がっても、それほど売り上げは落ちない。
いきなり!ステーキは、大衆向けにステーキを提供する店だが、それでも単価は高く、店にはステーキ好きが集まってくる。2割程度の値上げは利用者が何とか受け入れると判断した一方で、ハンバーグとチキンの価格を据え置いたのは、牛丼と同様、消費者が価格に敏感な商品だからだろう。
もっとも、単価が高い製品やサービスの方がインフレに強いというのは、あくまで初期段階の話である。物価上昇がさらに継続した場合、生活必需品を提供する事業者の方が今度は逆に有利になってくる。必需品はどんな状況でも買わなければならないモノであり、各社が一斉に価格を引き上げた場合、消費者はそれを受け入れるしかない。
こうしたフェーズに入ると消費者は高額商品の購入を抑制して、浮いた分を生活必需品の購入に充当するので、今度は高額商品の売れ行きが悪くなる。
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