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  • 2021/11/15 掲載

吉野家は牛丼並盛426円に値上げへ……国内ファストフード店が崖っぷちなワケ

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牛丼チェーンの吉野家が、とうとう「牛丼」の値上げに踏み切った。全世界的なインフレによって牛肉価格が高騰していることに加え、円安というダブルパンチに見舞われている。食糧価格の高騰は今後も継続する可能性が高く、ファストフード各社は、抜本的な戦略転換を迫られそうだ。
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牛丼チェーンの吉野家が「牛丼」の値上げに踏み切った。世界的なインフレによる牛肉価格の高騰に加え、円安のダブルパンチに見舞われている
(写真:アフロ)

牛丼の原材料ショートプレートの価格はうなぎ登り

 吉野家は2021年10月29日、主力商品である「牛丼」の値上げを発表した。税込みで387円だった並盛の価格は39円上がって426円になった。言うまでもなく値上げの理由は、このところ急ピッチで進む世界的な食糧価格の高騰である。吉野家の牛丼には、米国産のショートプレートと呼ばれる部位が使われているが、ショートプレートの価格が急上昇しており、卸値はすでにキロあたり1,000円を超えた。

 米国ではショートプレートは食用には用いられておらず、ただ廃棄されるだけだったので、日本の牛丼チェーンは安い価格で買い付けることができた。だが急速に豊かになった中国が火鍋用に脂身の多いショートプレートを大量輸入するようになり、近年は日本の牛丼チェーンと買い付けで競合するようになっている。

 加えて米中の経済的な対立で牛肉価格が高騰し、最近はコロナ危機からの回復期待によってインフレが進み、ショートプレートの価格がさらに跳ね上がった。2017年時点におけるショートプレートの卸値は600円台だったので、数年で1.5倍以上に値上がりした計算だ。

 ここまで原材料価格が上がっているにもかかわらず、今回、39円の値上げで済んだのは、同社のコスト削減努力の結果と言って良い。だが、今、起こっている食糧価格の高騰は一時的な現象ではなく、今後も継続的に続く可能性が高い。今回の値上げで問題が解決するというわけにはいかないだろう。

 日本は過去30年間、ほぼゼロ成長が続いてきたのであまりピンとこないかもしれないが、その間、諸外国は1.5倍から2倍に経済規模を拡大させており、物価もそれに合わせて上昇してきた。特にアジアやアフリカなど新興国の成長は著しく、国民生活は急激に豊かになっている。

 新興国の生活水準が上がると、牛肉をはじめとする食材の消費が急拡大することは過去の経験則から分かっている。ここ数年、中国の爆買いが世界を驚かせてきたが、新興国も束になれば中国並みの経済規模となる。つまり中国に加えて、アジアやアフリカの新興国が今後、次々と爆買いを行うことはほぼ確実であり、食糧の奪い合いが全世界で始まっている状況だ。

 牛肉の価格上昇が短期的なものではなく、長期的に見ても下がらない可能性が高いと述べたのはこうした理由からである。

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吉野家は2021年10月29日、主力商品である「牛丼」の値上げを発表した。税込みで387円だった並盛の価格は39円上がって426円になった。値上げの理由は、このところ急ピッチで進む世界的な食糧価格の高騰である
(Photo/Getty Images)

ワンコインで食べられなくなるのも時間の問題

 当然のことながら、一連の動きはあらゆる食材に及ぶ。吉野家では、牛丼とセットで玉子をオーダーする人も多いが、今のところ玉子を追加しても500円の範囲で収まっている。玉子に味噌汁が付いた朝牛セット(午前11時まで)も並盛であれば458円と500円以下だ。

 だが全世界的な食糧価格の高騰はいずれ鶏卵にも及ぶ可能性が高い。鶏の飼料はすでに相当、値上がりが進んでおり、養鶏事業者はコスト増加に苦しんでいる。加えて近年は、狭いケージに鶏を閉じ込めて飼育したり、卵を産まない雄のヒヨコを大量処分するといった従来の生産方法について見直しを求める動きが活発になっている。

 一部の養鶏場では暖房を用いているが、エネルギー価格も高騰しているので、原油価格の上昇もコスト増加に拍車をかけている。鶏卵価格がさらに上がることになれば、ワンコインで済むという従来の価格体系が維持できなくなる可能性が否定できない。

 一連の動きは牛丼チェーンに限ったことではなく、あらゆるファストフード店に共通する課題である。

 これまでも原材料価格はゆっくりとしたペースではあるものの上昇を続けており、各社はコスト削減努力で何とか乗り切ってきた。日本の場合、賃金が上がっていないので、商品価格を上げてしまうと販売数量の減少という問題に直面する。だが企業努力によって価格を据え置くというやり方は、もはや限界に達していると言って良いだろう。

 今後、コスト面においてダメ押しとなる可能性が高いのは円安の進展である。


 これまでの時代は、為替レートが1ドル=110円程度で大きな動きが見られず、海外の物価だけが上昇するという流れだった。為替レートが変わらなくても、海外の物価が上昇すれば輸入品の価格が上昇するので、円安になったことと同じ影響が日本国内に及ぶ。

 物価の動き考慮した為替レートである実質実効為替レートを見ると、日本円はすでに1970年代と同水準になっており、今の日本人の実質的な購買力は1ドル=200円時代と同程度まで低下している。しかも困ったことに、これまでほとんど動きを見せていなかった為替レートがさらなる円安に向けて動き始めた可能性が高い。

【次ページ】日本人の生活がもっと苦しくなるワケ
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