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「食料生産者が儲からない」という課題を解決すべく、生産者と消費者を直接つなぎ産地直送を可能にするプラットフォームを提供する「ポケットマルシェ(以下、ポケマル)」。同社のような需要者と供給者をマッチングさせる、いわゆる「リボンモデル」をとるビジネスモデルは、いかに供給者と需要者の数を集められるかが、サービスの成否を左右する。同社は、産地直送ビジネスを立ち上げるにあたり、いかに生産者(供給者)と消費者(需要者)を獲得していき、そしてリボンモデルのビジネスを成功させたのか。ポケットマルシェ 生産者・CS部 部長 中山拓哉氏に話を聞いた。
「食べ物を作る人が食べていけない」、深刻な生産現場の課題
──貴社のサービス「ポケマル」とは、どのようなサービスなのでしょうか。
中山拓哉氏(以下、中山氏):ポケットマルシェが提供する「ポケマル」は、C to Cプラットフォームです。消費者はスマホやPCなどから欲しい食材を探し注文することで、直接生産者から食材を購入することができる一方、生産者は直接消費者と取引できるため、既存の流通構造を通すより利益が出しやすくなります。
──「ポケマル」を始めたきっかけ、サービスに込めた思いなどを教えてください。
中山氏:これまで食品を小売店で選ぶ際、「値段」が重視されており、それ以外の価値を表現することが難しいという課題がありました。「おいしさ」という定性的な価値より、定量的な「〇〇円安い」という表現は明らかにインパクトがあるため、消費者はより安いものを選ぶことが多かった。
これに対応するために、流通システムは規模拡大を追求し、また海外製などの安価な食品に頼ることとなります。そうすると、日本の食料生産の大半を支える小規模事業者の生活は厳しくなり、やがて衰退を迎える。「食べ物を作る人が、食べていけない」、こんなおかしな状況は何としてでも阻止しなければならないと考えたのが発端です。
根源的な課題は「流通システムの分業体制」
──なぜ、消費者が「値段」ばかりを重視する状況が続くのでしょうか?
中山氏:根源的な原因は、消費者から生産者の状況を見えにくくしている、「流通システムの分業体制」にあると考えています。
これはモノが足りなかった時代に、効率的に分配する仕組みとしては良かったのですが、モノがあふれる昨今、制度疲労とも言える状態が見え隠れしてきたのではないかと感じています。
分業体制下において、生産者は後工程である既存流通に生産物を流して終わりとなる。そうなると、川下との接点が分断され、生産者の中には消費者と話したことがない人だっている状態になってしまった。
また、消費者側も生産者がどんな状況で食べ物が作られていくのか、リアルな苦労とか分からない人も多い。こうした生産と消費の分離した状況をつなぎ合わせ、相互にリスペクトしあえる環境を作ることが課題解決につながると考えました。
そこで我々は、「生産者と消費者が直接つながること」、我々の言葉では「かきまぜること」にこだわったのです。ポケマルに、消費者と生産者がつながり、対話することができる機能を設けたのは、そうした狙いからです。
──サービスの利用者の反応を教えてください。
中山氏:この取り組みから生まれた、成功例を1つ紹介します。
ポケマルを使っていただいている秋田の漁師さんが「鮮魚セット」を販売しており、大人気で注文も殺到していました。しかし、冬の日本海にはシケがあり、船すら出せない日々もあります。普通の通販だったら、「納品が遅延します。申し訳ございません」と生産者が言い、消費者は「なぜ、期限通り届けないんだ」とクレームをつけたりしますよね。
しかし、この漁師さんは荒れ狂う日本海の状況の写真をポケマルにアップし、「海が怒っているから、漁に出られません」とコメントしたところ、消費者からはクレームどころか、応援のメッセージが多数寄せられました。
生産者と消費者がつながり、消費者が生産者の現場を知ることで、共感が生まれた瞬間でした。これこそが我々が目指す姿だったのです。
生産者と消費者がつながり、生産者の生き様、こだわり、工夫など生産者のストーリーを、消費者にしっかり伝えること。ここに共感してもらえれば、多少高くても買ってもらえる、そうすれば生産者が今後も食べていけるようになる、こういう好循環を広げることが弱った生産者を助けることにつながる、そう考えたのです。
──なるほど、プラットフォーマーとしては生産者と消費者の間に入ってさばく方が効率は良いかもしれませんが、多少遠回りであろうとも、「生産者と消費者が直接つながること」にこだわったのですね。
リボンモデル確立のポイント、いかに供給者を獲得するか
──産地と消費者をつなぐ、いわゆる「リボンモデル」をとる貴社のビジネスでは、まずは食材を供給する供給者と消費する需要者を集める必要があります。食材の生産者に「ポケマル」という産地直送ビジネスを利用してもらうために苦労した点はありますか。
中山氏:元々、産直サービスには先駆者がいたので、インタビューなどを通じて、色々勉強させてもらいました。皆が口をそろえて言うのは、「生産者を動かす」ことの難しさ、心理的な拒否感でした。
生産者に通販とか、産直とか、言ってもなかなか納得してもらえない。先駆者たちは血と涙を重ねる努力にて、生産者を動かしてきたのです。なので、我々もここは覚悟して臨みました。
今でこそ、スマホは浸透してきましたが、ポケマル設立当時はまだまだスマホを使っていない生産者もいましたし、「プラットフォーム」や「通販」と言ったところで、「分からない…」といった反応が多く、すぐに「要らない!」と心の扉が閉じてしまう生産者さんが多いような状況でした。
そういう難しさを持つ生産者に対しメルマガ送ったり、DM送ったり、ネット広告打ってもダメで、直接我々が回って説得していかねばならなかったのです。そこで、当社代表の高橋と「平成の百姓一揆」と言って全国の生産現場に説明会に行脚して回りました。こうして愚直に生産者との接点を広げ、ポケマルに登録していただいたのです。
さらに我々がこだわった点がもう1つあります。それは「つながる」ことが一時的なものではなく、永続的なものでなければならないとことです。
よくこんなたとえ話をしていまいた。魚がいない地域の人が魚を食べられるようにするために、「魚を分け与える」のだと、分け与える人がいなくなったりすれば魚はまた食べられなくなってしまう。でも、「釣り竿を渡し、釣り方を教える」ことができれば自分たちで何度も魚を捕まえる再現性を持つことができる。
つまり、今まで流通の分業体制の中で、本当に“生産”しかしてこなかった生産者の方々に、“商人”として販売できるマインドを持っていただきたい、そうした生産者の自立への進化という思いも込めて進めているのです。
だから、通常のサポート以外にも、定期的に生産者向け勉強会である「ポケマル寺子屋」というものを無料で開催しており、他生産者の成功事例の共有や商品をより良く見せるプロカメラマンによるレクチャーなどを進めているんです。
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