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多品種少量生産など、どうしても職人技術に依存せざるを得ない生産工程はいくつも存在する。解決策の1つとして「産業用ロボット」が挙げられるが、産業用ロボットには生産工程をインプットさせるティーチングが必要であり、それが生産工程の多い多品種少量生産の現場となればティーチングだけで一苦労となる。つまり、従来の産業用ロボットだけでは製造現場の課題を解決しきれないのだ。こうした課題に切り込むのが、浜松市のベンチャー企業リンクウィズ(LINKWIZ)だ。同社の代表取締役 吹野豪氏に、国内製造業の課題について聞いた。
現場課題は「生産性向上」ではなく「生産の置き換え」
──吹野さんは、日本のモノづくりを間近で見られて来たと思いますが、最近の状況をどのように感じていますか?
吹野豪氏(以下、吹野氏):まず認識していただきたいのは、日本のモノづくりは今でも高い品質を誇るということです。それは、職人の技術に依存した生産工程が残る分、モラルによって品質が維持されてきたからです。しかし今、日本ではモノづくりを目指す若者が減ってきており、製造業の平均年齢は上がる一方、いわゆる技術承継問題が発生しており、ここが一番の課題なのだと思います。
私がこの問題に初めて向き合ったのは、約20年前にさかのぼります。当時、求められたのは「生産性の向上」でした。つまり、製造現場には人がたくさんいることを前提に、その人々が最小工数で製造できるような仕組みが求められていたのです。働く人の数がある程度確保された状況下で生産性の向上だけを目指すのであれば、ロボット単体でも一定程度の効果は出せるでしょう。
しかし近年、製造現場から人が減っており、モノづくりの危機感は、次のフェーズへと進んでしまったと感じています。人材が確保できない以上、求められるのは「生産性の向上」ではなく、「生産を置き換えることによるリソースの確保」にほかなりません。
つまり、求められる“問い”が変わってきたのです。今までのように職人技を人へ伝えていくことに期待はできないので、その技を伝承するためには、ロボットの「頭」に叩き込むことが必要になります。現代の製造業に必要なのは、人がつないできた”品質に対するモラル“を、仕組み化して受け継いでいくことなのだと思います。
忙しすぎる製造現場の実態
──職人の技を仕組み化して受け継いでいくために、どのような工夫が必要になると考えますか?
吹野氏:生産にとって重要なシステムは大きく3つに分類することができます。1つは会社の基盤となる基幹システム、いわゆる
ERP(Enterprise Resources Planning)です。その基盤の上に、製造の基点となる設計に関わるシステムBOM(Bill Of Materials、部品表)やMRP(Material Requirements Planning System、資材所要量計画)などのシステムが存在し、それを実行する
MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)につながっていく流れです。基盤があり、その上で設計がなされ、その設計にしたがってモノづくりを実行していく、というものです。
これらの3つのシステムが有機的につながり、現場を改善していくというのが理想形ですが、そうもいかないのが現実です。なぜならば、これら3つのシステムをつなぐのは“データ”になるのですが、その“データ”が驚くほど現場では収集できていないからです。
たとえば、それぞれの製造物が誰の手で、どのような工程を経て、どんな状態になっているかが分かることが理想です。しかし、忙しい現場の人々がわざわざ作業データを残すのかというと、残すことは少ないです。また、不良が発生したとしても、そのエビデンスをしっかり残すこともできておらず、いわゆるトレーサビリティもままならないのが現実なのだと思います。だからこそ、現場においてデータを自動で残していけるような仕掛けが必要になるのです。我々が全数検査を重要視するのも、このためなのです。
通常、企業は製造プロセスを省力化するためにロボットを導入しますが、省力化もさることながら、しっかり全数のデータを採取し、そのデータに基づき、製造プロセスを見直していくためのロボットを提供することが重要だと考えています。
つまり、ロボットは手段であり、その先にあるのは、単なる部分的な改善ではなく、製造プロセス全体の改善を目指しているのです。
ソフトウェアによって「自ら考え、動きを補正する知能ロボット」の提供している当社は、よく周りからは「ロボットの会社ですよね」と言われたりしますが、そのたびに「違います。我々はスマートファクトリー、製造業の働き方を変えていく会社です」と答えています。ここが他社との違い、すなわち、着眼点、目指すゴールの違いなのだと思います。
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