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新型コロナにより実店舗をもつ小売は大きな打撃を受けた。回復のための一手を打つためには、今業界に起きている変化を正しく認識する必要がある。元ファミリーマートDX責任者でDXJAPAN代表/日本オムニチャネル協会アドバイザーの植野大輔氏と、デロイトデジタル執行役員パートナーの森正弥氏の2名が、これからの小売業界のあり方について議論を交わした。メインファシリテーターは衆議院議員の鈴木 馨祐(けいすけ)氏が務める。
※本記事は2020年7月13日開催「小売業におけるデジタルトランスフォーメーションについて(主催:イグニション・ポイント)」の講演をもとに再構成したものです。
コロナ禍で起きた、顧客心理の「3つの変化」
DXJAPAN代表 植野大輔氏(以下、DXJAPAN 植野氏):「コロナ禍によって小売業界がどのように変化したのか」という問いは、「お客さまの気持ちがどのように変わったか」と言い換えられます。その点では、大きく3つの変化があったと見ています。「生活必需品が欲しくなる」「財布のひもが堅くなる」「密なお店を避けるようになる」の3点です
衆議院議員 鈴木 馨祐氏(以下、鈴木氏):それは小売業界からしたらかなり厳しい変化ですね。
DXJAPAN 植野氏:そうですね。たとえば嗜好(しこう)品を定価で売っていて密な都市圏にある、つまり百貨店などの店舗はなかなか苦労されているのが現状です。そのため、今実店舗をもつ小売がチャレンジしているのは、「必需品まわりのニーズを」「いかにお財布に優しく」「ソーシャルディスタンスを担保しながら」みなさんにお買い物を楽しんでいただくか、ということです。
鈴木氏:緊急事態宣言が出る以前から、自粛ムードが広まっていて、お店側としては読めない部分が大きかったと思います。小売業界の人たちは当時どのような形で変化を受け止めていたのでしょうか。
DXJAPAN 代表 植野大輔氏(以下、DXJAPAN植野氏):私はローソン、ファミリーマートとずっとコンビニの改革に取り組んで来たのですが、今、コンビニ店舗は立地によって大きく二極化しました。
オフィス街にあるコンビニは、出勤自体が減ってガラガラな一方で、住宅街にあるコンビニはむしろ日々の食材を買いだめたいお客さまで活況だったりする。前者は発注を減らし、後者は発注を増やし、とコンビニは店舗に合わせて2つの戦い方を強いられています。
タレント 黒田有彩氏(以下、黒田氏):今回のコロナ禍によって、コンビニの店員さんのオペレーションが増えるなど負担も大きくなったと思います。そこで現場の方々にはどのようなケアがあったのでしょうか。
DXJAPAN植野氏:たとえばファミリーマートであれば店員さんに身を守っていただくためにマスクを配ったりビニールシートのガードを導入したりしていました。やはりこの大変なときに現場で対面して商売をしていただいている現場の方々には各管理会社が感謝すべきですし、実際に各社さまざまな形でサポートをしている印象です。
世界中で起きている、小売業界3つの変化
デロイトデジタル執行役員パートナー 森正弥氏(以下、デロイトデジタル森氏):小売業界が直面している実態として、私からも3点ほど挙げます。まず1つ目は、需要が急激かつダイナミックに変化しているということ。たとえばマスクや消毒液などは想像しやすいと思うのですが、実は世界で最も売れているのはパン焼き器です。逆に、スーツケースは世界中でまったく売れなくなってしまいました。
2つ目にはデジタルシフトです。みなさん一気にeコマースを使い始めるようになったり、実店舗に配達を頼むようになったりした。特に今回は、60代以上の方々が急に使い出したのが大きな特徴でしょう。日本の今年の3月のeコマースの利用率は去年の同月比でプラス60%。中国はプラス90%と出ています。
そして3つ目は、安全、安心、そしてエコフレンドリーな意識が強まったことです。感染症に影響を及ぼすことから、食べ物や日常品も安心安全で健康に近づけるものに人々の意識が向くようになりました。加えて、特に中国では今回の新型コロナ流行は環境破壊が影響しているという考えが浸透しており、環境に対する配慮も数値として出ているのが興味深いところです。
鈴木氏:森さんが今おっしゃった3つの変化は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の強みそのものですよね。
デロイト森氏:そうですね。お客さまがどういうものを欲しいかちゃんと押さえて、そこをデジタル化しておくと急激なニーズの変化にも対応できる可能性が高まります。デジタルシフトをきちんと準備しておいた企業は、今回のコロナの影響をある程度抑えられたかもしれません。
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