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  • 2020/08/31 掲載

DXはもはや「最低ライン」、流通業がAIでコロナ禍を乗り越えるには

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「第四次産業革命の時代」と言われる中、あらゆる産業構造が劇的に変化している。ウーバー(Uber)やエアビーアンドビー(Airbnb)などデジタルディスラプターの台頭による「破壊的」な変化について、すでに多くの言説が存在する。流通業界も例外ではなく、AI(人工知能)の活用に活路を見出そうとし始めた矢先にコロナ禍が発生した。リテールAI研究会の代表理事である田中 雄策氏が、コロナ禍によって流通業界はどう変化したか、その変化に対応するためにはどうしたらよいのかを解説する。
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リテールAI研究会 代表理事 田中 雄策氏
1980年電通入社。東京ミッドタウンなどの都市開発を手がけ、電通退社後2016年にRemmo設立、2017年にリテールAI研究会を立ち上げ代表理事に就任、現在に至る。


コロナ禍以前からあった流通の課題とは?

 リテールビジネスの領域にAIはどのように受け入れられているのだろうか。リテールAIの現状について、田中氏は「すでに『何ができるか』ではなく、『何を使って、どの課題を解決するか』という実装段階に入っています」と説明する。

 流通業界がAIの実装段階に入るまでには、コンピュータの劇的な性能向上や高速ネットワークの整備、スマホの普及などテクノロジーの進化があった。ユーザーが買い物をする際に「何でも調べられる」「あらゆる商品にアクセスできる」「利用者とコミュニケーションが取れる」という環境が当たり前になった。

 売り手側もこうした環境に対応したサービスを提供することで、デジタルデータが大量に蓄積され、それを活用したサービス向上競争が繰り広げられた。結果として、顧客満足度の概念や基準が変化し、デジタル化に長けた企業が競争力を持つようになったのである。

 こうしてEC企業が台頭するようになり、さらに近年ではアマゾンやアリババなどの企業が“リアル流通”に進出するようになった。それも生鮮食料品など従来ECは弱いとされていた分野での展開だ。

 もちろん既存の流通事業者も黙ってはいない。ウォルマートやクローガーなどの米国流通大手や日本でも小売業を展開するトライアルなどがデジタルを実装し、対抗し始めた。そのタイミングで「コロナショック」、すなわち世界的な感染症の蔓延と経済的打撃に見舞われることになったのが今の状況だ。ではこれからどのようにすれば「巻き返し」が可能なのだろうか。

コロナショックで流通に何が起こったのか?

 コロナショックについて、田中氏は「1990年代のバブル崩壊級の衝撃です」と総括する。IMF(国際通貨基金)の予測によると、今後2年はこの局面が続き、先進国ほど回復が遅いという見通しもある。

 また、その影響は業種ごとに大きく異なっている。

 在宅勤務や移動自粛により自宅の食料品消費量が増えたことから、スーパー業界は右肩上がりだ。しかし、オフィス街や観光地での売上高が大きいコンビニ業界は落ち込んできている。百貨店はコロナ禍前から落ち込んでいたが、コロナ禍でさらに2019年比で7割減になっているという。飲食店や旅客運送、アミューズメントの落ち込み方もすさまじい。

 以上は日本の状況だが、米国も似たような傾向であり、食品スーパーとECは堅調だが、それ以外は激しく落ち込んでいるという。

 コロナ禍の影響で、「昨年対比」が通用しなくなっている。需要が増えすぎて店頭から消える商品もあれば、外出自粛要請など政府や自治体の対策の影響で突然売れる商品もある。昨年の売上傾向と今年の売上傾向が重ならない商品がほとんどであり、需要予測ができなくなっているのだ。

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さまざまな商品で2019年と2020年の売上傾向が重ならず、需要予測が困難になっている

「現状出遅れている企業にはチャンスかもしれません。前年実績という考え方が通用しなくなり、ビジネスに関するデータ全体にリセットがかかっているのです」(田中氏)

 新たなデータを素早く集めるには、小売やメーカー、卸が密に連携してデータを共有しなければならない。ただし共有が進んでも、「データを読み、そこからアイデアを引き出せる人材」が必要なことは言うまでもない。

 一方で「新しい生活様式」の普及により、顧客にも従業員にも、密集や対面、現金の受け渡しなど、「リアルな接触」を避けたいという空気が生まれてきている。

 このリアルな接触を避けるための対応は、いわば強制的な「DX(デジタルトランスフォーメーション)」でもある。DXで競争優位に立つのではなく、しないと生き残れない状況に変わったのだ。「この2年で、次の10年の業界の姿が決まるという印象を持っています」と田中氏は語る。

【次ページ】コロナ禍後の海外市場はどうなっているのか
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