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  • 2018/08/30 掲載

ゲノム編集とは何か? 従来の遺伝子治療と何が違う?具体的な実用事例からみる可能性

フロスト&サリバン連載 「TechVision:世界を変革するトップ50テクノロジー」

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人類の長期的生存に不可欠な変革をゲノム編集技術が起こすといわれている。人間のDNAを書き換えて難病を根底から治療したり、作物の遺伝子をピンポイントで組み換えて耐性を高め、世界の食料需要に応えられたりできるようにする可能性があるからだ。ゲノム編集はどこまで有望なのか。いまだ開発段階にあるゲノム編集の概念、技術、応用分野、医療における現在の取り組み事例、現状と今後の展開についてフロスト&サリバン ジャパン コンサルティングアソシエイトのン・ディオン氏が解説する。
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DNAを書き換える「ゲノム編集」。これはどういう技術で、どうやって活用できるのか。
(出典:フロスト&サリバン)


ゲノム編集とは? 遺伝子治療とどう違う?

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 「細胞」は人間の身体を構成する最も小さな単位であり、「DNA」は1つひとつの細胞に含まれるさらに細かな生体物質である。そのDNAを編集する技術は近年まで想像もつかないものであった。

 ゲノム編集の前段階として、1990年代に遺伝子治療(Gene Therapy)の研究が本格的に始まった。患者の骨髄から幹細胞を取り出し、正常な遺伝子をその幹細胞の核に組み込み、再度その細胞を患者の体内へ戻すことにより、正常な遺伝子が体内で機能するようにする。

 およそ20年後に遺伝子を自在に書き換える「ゲノム編集」(Genome Editing)技術が開発され、その技術は今日ますます発展を遂げている。遺伝子異常による難病を持つ患者の治療方法として期待され始めたこの技術は、ヘルスケア業界を始めとするさまざまなバイオテクノロジー関連分野に革命的な影響を及ぼしている。

 ゲノム編集とは、約31億塩基対あるヒトゲノムの特定の部位で外因性の遺伝子を追加・挿入、遺伝子変異を修正、削除できる最新の遺伝子工学技術である。従来の遺伝子組み換え技術と比べて著しく精度と効率が高いため、医科学に不可欠な技術になるとみられている。 

 従来の遺伝子治療では、正常な遺伝子を導入することはあってもゲノム編集のように遺伝子の中身を編集し、根本的に書き換えることはない。これが2つの大きな違いである。

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従来の遺伝子治療と現在のゲノム編集技術の相違点
(出典:フロスト&サリバン)

ゲノムを編集するための「ヌクレアーゼ」

 ゲノム編集技術の精度を高めるうえで大きな役割を果たしているのがヌクレアーゼという核酸分解酵素である。

 人工ヌクレアーゼには、大きく分けて「ZFN」「TALEN」「CRISPR/Cas9」「メガヌクレアーゼ」の4種類がある。

 高速形質開発システム(Rapid Trait Development System, RTDS)、組み換えアデノ随伴ウィルス(Recombinant Adeno-associated Virus, rAAV)などのようなヌクレアーゼによらない技術もあるが、業界で最も一般的に使われているのはやはりヌクレアーゼだ。

 人工ヌクレアーゼはDNAの標的部位に二重鎖切断(Double Strand Break, DSB)を起こすことで、外来遺伝子を導入(ノックイン)したり、標的遺伝子を破壊、編集したりできる。特にCRISPR/Cas9は「分子のはさみ」とも呼ばれ、DNAの特定の部位を切り取ることができ、従来の遺伝子工学の進化形とみなされている。

ゲノム編集技術の応用事例:農業、動物、ヒト

 ゲノム編集技術はヒトの疾患の治療、動植物の遺伝子操作など多様な分野に応用できるが、これまでのところ規制がそれほど厳しくない農業分野で大きな成功を収めようとしている。

農業
世界人口が増加する中で、ゲノム編集は作物生産量を増やして食糧需要を満たすために応用できる。国連食糧農業機関(United Nations Food & Agriculture Organization, FAO)の予測によれば、現在の人口増加率を維持するには2050年までに作物生産量を70%増やす必要がある。ゲノム編集を活用すれば、病気、害虫、異常気象にも耐えられる作物を作り出すことができる。バナナ、ジャガイモ、キャッサバなど、従来の品種改良や遺伝子組み換えによりすでに耐性が付いた作物にもこの技術は適用可能である。

動物
ゲノム編集は畜産や養殖に応用できる。牛や鶏の飼育、鮭の養殖などでこの技術を活かして食糧生産を増やすことが目標だ。食料となる動物がかかる病気(媒介性の病気など)の治療と予防の研究のために、さまざまな研究モデル(マウスモデル、動物細胞株の研究など)で実際に使われている。

ヒト
ゲノム編集はがんや希少疾病のための創薬研究で利用されている。また、遺伝性疾患の病因を直接取り除く手段としても使われる可能性がある。各種腫瘍性疾患やHIVの既存治療法を改良すべく、ゲノム編集をめぐる企業間の提携とライセンス供与が進んでいる。遺伝性疾患の発症を防ぐため、この技術で赤ちゃんの遺伝子を操作し、いわゆるデザイナーベビーを生み出すことも考えられる。

【次ページ】医療におけるCRISPR/Cas9の最新の研究事例・取り組み
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