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ありとあらゆる「モノ」がインターネットにつながり、相互に情報をやりとりする「IoT」(モノのインターネット)が近年、急速に拡大している。中でも医療やヘルスケアに特化した「IoMT」(Internet of Medical Things)には、医療コスト削減や収益性の改善などに貢献するとして大きな期待が寄せられている。米国を本拠とする調査・コンサルティング企業 フロスト&サリバンは、このIoMTを活用した新しい医療モデル「ドクターレス・ケア」を提唱している。IoMTは今後、日本の医療にどのような変革をもたらすのか。同社 パートナー、ヘルスケア部門シニアバイスプレジデント レニータ・ダス氏に聞いた。
執筆:庄司 里紗、聞き手・構成:編集部 佐藤 友理
執筆:庄司 里紗、聞き手・構成:編集部 佐藤 友理
IoMTとは何か?
近い将来、患者は病院やクリニックへ行かずに、自宅や仕事場にいながら医療が受けられるようになるかもしれない――。米国の調査・コンサルティング会社 フロスト&サリバンがこのほど発表したレポート「Internet of Medical Things (IoMT) : 2021年に向けた展望」によれば、IoMTに代表されるテクノロジーの進化は、これまでの医療モデルを根本から変えつつあるという。
IoMTとは、さまざまな医療機器やデバイスをインターネットでヘルスケアのシステムとつなぎ、リアルタイムでの医療データ収集や解析を可能にする技術や概念のことだ。
「これまでの医療モデルは、医師が患者を対面で診察し、病名の診断から治療、薬の処方まですべて担うのが一般的でした。しかしIoMTの発展により、医師が患者のヘルスケアデータをリアルタイムでモニタリングしたり参照したりできるようになれば、患者は自宅や仕事場にいながら適切な遠隔診療が受けられるようになります。また医師の役割も、すでに発病した病気の『治療』から、多様な医療データを駆使した病気の『予防』が中心となっていくでしょう。そんな未来の医療のあり方を、私たちは『ドクターレス・ケア』と名付け、提唱しています」(ダス氏)
ダス氏によれば、ドクターレス・ケアのコンセプトは「医者は不要」ということではなく、医療従事者の負担を減らし、医療の効率化と正確性の向上に貢献するものになるという。
こうした動きが進む背景には、世界規模で進行する高齢化・長寿化による医療コストの増大がある。高齢者の増加は疾病にかかる確率や重症化率の上昇を招く。その結果、1人当たりの医療費が増加し、医療コスト全体が押し上げられるわけだ。実際、先進諸国のGDP(国内総生産)における医療費支出の比率は、年々上昇傾向にあり、日本は約12%、米国では約18%に達している。
「現行の医療モデルが近い将来に持続不可能となるのは明らかです。今後はテクノロジーをフル活用し、健康でいられる期間を伸ばす『予防医療モデル』への移行が不可避となるでしょう。高齢化が進む日本も、こうした流れにいち早く備える必要があります」(ダス氏)
科学的根拠に基づく正確な診断が可能に
ダス氏は、ドクターレス・ケアを推進するもう1つの理由として「100%科学的根拠に基づいた医療の実現」を挙げている。
現在の医療現場は、正確性に問題を抱えている。たとえば、病名の診断や治療方針決定は、それぞれの医師の経験値や主観によって行われるケースがほとんどだ。また、投薬についても、科学的なエビデンスに基づいて処方されるのは全体の50%以下と言われ、副作用の発生率は60%に上ると言われている。
その結果、期待した治療効果が得られなかったり、診療ミスによって病状が悪化したりするなど、患者側が不利益を被るケースは後を絶たない。しかし、1人の医師が患者のデータをすべて把握し、2500万本以上も存在する医学論文をすべて参照し、100%正確な診断を下すことは物理的に不可能と言わざるを得ないだろう。
「医療は非常に高い精度が求められる領域でありながら、いまだサービスといえる水準にないのです。しかし、これまでに蓄積された膨大な医療データに医師がアクセスし、適切に活用することができれば、100%科学的根拠に基づいた正確な治療や投薬が可能になるのです」(ダス氏)
医療データには、患者の血圧や脈拍などの生体情報のほか、食事内容や運動の記録といった生活情報、そして患者固有の遺伝子情報などが含まれる。このような膨大なデータの収集・活用を可能にするのが、ドクターレス・ケアの根幹を支えるIoMTの技術だ。
ダス氏によれば、IoMTは患者の生体データを24時間モニター可能なスマートデバイスやアプリケーション、患者自身によるセルフケアの支援ツール、遠隔診療をサポートする医師向けの診断システムなどの開発に活用され、すでに米国では実用化が進んでいるという。
たとえば、米国の老舗医療機器メーカー・メドトロニックでは、自律した通信機能を持つ心臓ペースメーカーによって、収集・蓄積した患者の生体データを自動的に医療機関に送信するサービスを開発。医師は遠隔で患者の状態を管理することが可能になり、再診の手間やコストの大幅な低減を実現している。
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