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医療サービスを提供するOne Medicalを2022年に買収するなど、アマゾンが近年、対面医療の強化に注力している。一方、対面医療は、ドラッグストアや小売大手、100円ショップなど、多分野からの参入も目立つ領域だ。中でも、ドラッグストア最大手は、低価格医療をドラッグストア店舗で提供する「ミニ診療所」の開設を加速させており、業界の中では抜きん出た存在だ。競争が激化する医療業界において、アマゾンに勝ち目はあるのか。
アマゾンも試行錯誤、「遠隔医療→対面医療」に切り替え
アマゾンが、医療分野で試行錯誤を重ねている。まず、2018年にオンライン薬局を運営するPillPackを買収し、年間市場規模5,740億ドル(約77.7兆円、
2021年)という巨大な米医薬品市場への参入を果たした。
その後アマゾンは、2020年にオンライン薬局「Amazon Pharmacy」を開設し、2023年1月には複数の対象医薬品を受け取れる、月額5ドル(約675円)のプライム会員向けサービス「RxPass」を開始した。1億7000万人近い米国内のプライム会員の数を生かした潜在的な仕入れコスト抑制効果や、同社の卓越したECのリーチを勘案すれば、合理的な経営判断であると言えよう。
ところがアマゾンは、医薬品宅配との相乗効果を狙って2019年から提供してきた、遠隔医療・訪問医療(看護師の自宅派遣)のサービス「Amazon Care」を2022年末に終了させた。同社はこのデジタルヘルスサービスを自社の最も重要なイノベーションとして宣伝してきただけに、テック業界はサービス終了に驚きをもって受け止めた。
また金融大手のJPモルガンおよび有力コングロマリットであるバークシャーハサウェイと設立した合弁企業のHavenも、何の成果を出せずに2021年に解散している。
しかし、アマゾンは医療サービスの事業拡大をあきらめたわけではない。2022年9月、疾病リスクの高い65歳以上を主な対象として対面医療を提供するOne Medicalの買収を
発表。遠隔医療に見切りをつけ、対面医療に舵を切ったわけだ。
この決断をした背景には、(1)総合的な医療サービスの提供には対面が必須、(2)店舗に併設するミニ診療所などで固定客を囲い始めたCVS、ウォルグリーン、ウォルマートに対抗するには対面医療を提供できる企業の買収が必要、(3)アマゾン傘下の生鮮チェーンであるホールフーズやAmazon Freshの店舗にミニ診療所を併設させるための準備、などがあったと考えられる。
コスパが良すぎる「ミニ診療所」が大好評
アマゾンが医療サービスを重視する背景にはほかにも、高齢化の進行による医療ニーズの高まりが挙げられるだろう。その一方で米国では、世界トップクラスの医療費の高さが社会問題となっている。
たとえば医療費の請求額が保険でカバーされる金額を超えた場合、ささいな症状やケガの治療でも数十万円の請求書が届くケースがある。保険加入者であっても、想像を超えるほどの医療費の高さに困り果ててしまう例が後を絶たない。こうした背景から、薬価や医療費の引き下げがもはや社会的な要請になっている。
その声にいち早く応えたのが、ドラッグストア業界の先頭を走るCVSである。同社は2006年、上級看護師を常駐させ、ワクチン接種、軽い傷の治療、かぜ薬の処方、連鎖球菌感染症や性病の診断・治療などを小売店舗で提供するMinuteClinicを買収。ドラッグストア店内に、ミニ診療所を続々と開設していった。
現在では、全米1万近くある店舗のうち、1割以上の1100店でミニ診療所を開設。無保険で1回600ドル(約8.1万円)もかかる健康診断を、89ドル(約1.2万円)で
提供してくれるとして好評だ。健康診断だけでなく、高度な技術や機器が必要ない医療を安価で受けられる場として、急速に普及している。
早い話が、長く待たされて治療費も高い病院の医者に診てもらうよりも、簡単・定期的な治療であれば、ミニ診療所の上級看護師の方がコスパは良いのだ。さらにCVSは全米最大手の薬局チェーンというスケールの大きさに加え、製薬会社との薬価交渉で高度なノウハウを持つことから、医薬品仕入れの儲けを高めることもでき、合理的である。
このようにCVSはミニ診療所をはじめとした対面医療を展開しているわけだが、小売り最大手のウォルマートやドラッグストア大手のウォルグリーン、そしてダラーストア(米国版100円ショップ)のダラーゼネラルまでもが、自社店舗にミニ診療所を併設させた対面医療へこぞって参入。こうした中でアマゾンは勝機を探っているわけだが、これらの企業が競争の激化する対面医療にこだわる理由はどこにあるのか。
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