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死亡者の多い胃がんの早期発見を促進するため、胃カメラ検査を支援する「内視鏡AI」の開発が急がれています。そこで現役の医師であり、AIの研究開発に携わる多田 智裕氏は内視鏡AIを研究開発するため「AIメディカルサービス」を立ち上げましたが、ここではなんと計145億円の資金調達に成功しました。多田氏はこの経験から、資金調達に不可欠なことや、起業に必要なニーズを捉える力などを学んだと言います。そこで今回は、多田氏に起業と経営の極意について解説してもらいました。
145億円の資金調達に成功したワケ
前回の記事でお伝えしたように、消化器内視鏡は世界に先駆けて日本で実用化されました。今では日本企業が世界シェアの9割以上を占め、日本の内視鏡医療は世界一の質を誇ると言っても過言ではありません。
こうした中、2016年頃からディープラーニングの技術が発展し、医療でもAIの社会実装が進みつつあります。ヘルスケアにおけるAI活用の
世界市場は、将来的に約25兆円規模になると言われています。
そこで私は、いち早く消化器内視鏡の画像診断を支援するAIの研究開発に着手するため、2017年に「AIメディカルサービス」を立ち上げました。
そこでは、2019年10月に
約46億円、最近では2022年4月にソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)をリード投資家とする
約80億円の資金調達に成功しました。これまでの累計では、補助金等も含めると約145億円に上ります。
会社設立当初は、自身のクリニックの経営と、AIメディカルサービスでの研究開発という2足のわらじを履くことになり、目が回るような忙しい毎日を過ごしました。
今では、医師である私自身、CTOを務める一流のエンジニア、過去にスタートアップの上場経験を持つCFOと、各分野の専門家が集まっています。この「各分野の専門家がメンバーとなったチームである」ということが当社の強みです。
今ではクリニックの経営を後輩に任せて、自分はAIメディカルサービスの経営に集中できています。
前述した累計約145億円の資金調達を可能にしたのも、メンバーたちの尽力、実力を評価していただけたからだと考えています。各業界によって培っている常識が違うため、お互いの背景や事情を理解して、しっかりコミュニケーションを取ることにより、さらに高みに向かっていけると信じています。
信用を勝ち取るのは「派手さ」ではなく「地味さ」
医療AIのベンチャー企業と聞くと、少し派手な印象があるかもしれません。ですが、現場でやっていることは、とてつもなく地味な作業です。
医療機関から収集した数万枚の画像にマークを付けて、AIに覚え込ませる教師データをつくります。この作業を「アノテーション」と呼びますが、これには忍耐力が必要です。
また、AI開発において最も重要であるといえるデータ収集においては、質を担保するために、専用の録画機を自社で開発しました。さらに、アノテーションソフトもすべて自社で開発しています。
つまり、AIといっても大事なのは人の手で積み重ねていくことで、その積み重ねがなければ納得のいくような性能をもつAI医療機器は生み出されません。このような地道な作業を徹底して取り組んでいるからこそ信用され、資金調達につながっていると思っています。
【次ページ】起業に必須の「ニーズを捉える力」とは
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