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- 2018/05/15 掲載
人工臓器とは何か? 人工の心臓と耳は「本物」を超えるのか
フロスト&サリバン連載 ~ICTとの融合で特定の産業がどう変化するか~
フロスト&サリバン ジャパン ジェウー・キム(執筆アシスタント)
人工臓器とは
世界は臓器ドナーの不足という問題に直面している。臓器ドナー数は長年変わらないのに対し、移植希望者数は年々増加している。しかし、近年、医療技術および細胞組織工学において飛躍的な発展が見られ、人工臓器の開発も上昇気流に乗っている。各国政府もドナー不足の解決策として人工臓器の導入を検討し始めるなど、人工臓器市場は大きな期待を集めている。
人工臓器の「3つの役割」
人工臓器の目的は主に3つある。1つ目は、臓器の機能不全に直面している患者、特に病気の終末期で臓器移植待機中の患者の補助をすることだ。たとえば、人工心臓や人工腎臓などが考えられる。
2つ目は、患者が医者や看護師に頼らず、自分で病気を管理できるようにすることだ。たとえば、糖尿病患者は人工膵臓を通じて血糖値を定期的にリアルタイムで測定し、インスリン分泌量の適宜調整ができるようになる。
3つ目は、クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life、QOL)を向上させることだ。人工内耳や人工視覚装置は、日常生活における不便を解消し、人と人とのコミュニケーションを促進することができ、患者の精神的健康の改善が期待できる。
心不全患者の増加に対応する「人工心臓」
ここで、人工臓器市場で最も開発が進んでいるといわれている人工心臓と人工内耳を取り上げ、それぞれの必要性や重要性、市場における主要プレイヤーやマーケットシェア、そして今後予測されるトレンドを探る。まず、人工心臓について。心臓移植の需要そのものは、臓器移植の件数から見ると腎臓や肝臓などと比べて少ないといわれる。しかし、心臓のドナーは極端に少なく、ドナーが見つかったとしても移植後に拒絶反応が起こる確率が80%を超えるといわれている。そのため、移植用心臓の供給不足の解決に向け、人工心臓の開発は以前から注目を浴びていた。
人間の心臓は心房と心室という部屋で構成されている。各心房は受け入れた血液をそれぞれの心室に送る一方、心室は心房から受け入れた血液を動脈に送り出す役割を果たす。心不全は、一般的に老化や生理的な問題による心室の機能低下に伴い、血液の供給障害から発生することが多い。
最も一般的なのは、心室の不充分な弛緩から生じる心房からの血液の受け入れの失敗だ。これらの症状により、身体の各部位で血液が円滑に回らなくなり、適切な処置が受けられないと死につながってしまうこともある。
ここで現状に目を向けてみると、心不全で苦しむ患者数が徐々に増加しているのに対し、ドナーの数は数十年間伸び悩んでいる。心臓移植はいまだに深刻な供給不足の状態に置かれている。ここで解決策として、深刻な心不全になった心臓の機能を完全に代行する「全置換型人工心臓」(Total Artificial Heart : TAH)」と、心不全になった心臓のそばに置かれ、心臓の循環機能を助ける「補助人工心臓」(Ventricular Assist Device : VAD)が挙げられる。
人工心臓がかかえる「2つの課題」
TAHおよびVADの各市場は、高い開発費や資金調達の難易度により参入障壁が高く、少数の企業による独占もしくは寡占体制で形成されている。全置換型人工心臓(TAH)市場は、SynCardia社が9割以上を占めており、12.5万米ドルという安価で比較的優れた製品を提供している。一方、補助人工心臓(VAD)市場に関してはThoratec社が最大の市場シェアを確保しているが、2012年よりHeartware社をはじめ、新規参入した企業間での競争が生まれている。
現在、人工心臓において課題が2つある。
1つ目は、電池の質の向上だ。現在使われている電池では移植や充電が困難であるため、各企業および研究機関・学会が小型で、より長持ちする電池の開発に取り組んでいる。
2つ目は、人工心臓そのものの縮小化の課題だ。2005年にアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)の承認を取得し、その後開発の段階においてさまざまな問題によりR&Dが中止されたAbiomed社のAbioCor(TAH)のように、人工心臓そのものの大きさが問題で移植が困難なものもあった。現在は3Dバイオプリンティング技術を用いた小型の人工心臓の開発が進んでいる。
【次ページ】人工内耳の市場は安定期に
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