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  • 2021/12/14 掲載

手術ロボットの進化と真価、ロボット心臓外科医 渡邊 剛氏に聞いた医療の未来

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2000年、医療現場に内視鏡手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」が登場してからおよそ20年。圧倒的世界シェアを誇るダビンチの大部分の特許が期限切れを迎えた2019年を潮目に、手術ロボット業界は群雄割拠の時代へ突入した。世界的なダビンチ・パイロット(ダビンチ執刀医)であり、天才心臓外科医として知られる「現代のブラック・ジャック」こと、渡邊 剛氏にロボット手術を取り巻く現状と医療の未来を聞いた。
企画:林 裕人、執筆:峯田亜季

企画:林 裕人、執筆:峯田亜季

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渡邊 剛氏
心臓血管外科医、ロボット外科医(ダビンチ・パイロット)。中学3年で手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』に出会い、外科医の道を目指す。1989年よりドイツで活躍し、32歳で心臓移植執刀医(日本人最年少)に。92年からは日本で執刀を重ね、2007年、国内初のダビンチによる完全内視鏡下僧帽弁形成術に成功。2014年、ニューハート・ワタナベ国際病院を設立。2019年には同院がロボット心臓手術執刀数世界一に。医療ドラマ『ブラックペアン(TBS系・2018年)』では医療統括・医療ロボット監修を務めた。
(写真:濱谷幸江)

手術ロボットとは何か?

 医療現場や手術室にはさまざまな医療マシンがある。手術ロボットとは、その中で外科手術を行う執刀医の手や指の動きに連動し、患者の体に直接触れて手術の一部を代替する医療機器のことを指す。手術支援ロボットと呼ぶほうが実態に近いだろう。この手術ロボットで実施する手術をロボット手術と呼ぶ。

「ロボット手術に明確な定義はありません。現在は、内視鏡手術の延長線上にあるもので、遠隔で操作する医師がいて、離れたところにいるロボットが動いて行う手術をロボット手術と呼ぶのが一般的です。『鉄人28号』のようなシステムと言えば分かりやすいでしょうか。

 そもそもロボット手術の実用化は、2001年に米国とフランス間で行われた、通称『リンドバーグ手術』に始まります。使われたのは『ゼウス』という手術ロボットでした。ゼウスの技術ライセンスを譲り受けたのが、手術ロボットのダビンチを手がけるIntuitive Surgical(インテュイティブサージカル)社です」(渡邊氏)

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患者の体に挿入されるダビンチの鉗子
(写真:ニューハート・ワタナベ国際病院提供)

台頭する「第3世代プレイヤー」たち

 Fortune Business Insightsの調査によれば、手術ロボットの世界市場は年平均成長率20%以上を続け、2026年には68億7,510万ドルに上ると予想される。

 手術ロボットの代表、インテュイティブ社のダビンチの特許切れを合図に、近年、新たなビッグプレイヤーたちが登場し、その動きが活発化している。

 2015年にはグーグルの親会社Alphabet(アルファベット)とJohnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)が、共同で手術用ロボット企業Verb surgical(ヴァーブ・サージカル)社を設立。2019年には独Siemens(シーメンス)が、血管手術ロボットシステムを開発するCorindus Vascular Robotics(コリンダス・バスキュラー・ロボティクス)を買収。

 2021年には、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏やグーグル元CEOエリック・シュミット氏らが出資するVicarious Surgical(ヴィカリアス・サージカル)社が外科用手術ロボットの効率化を掲げ、SPACに上場した。


 日本でも2020年8月に初の国産手術ロボット「hinotori(ヒノトリ)」の製造販売が認可され、期待が高まる。手がけたのは川崎重工業とシスメックスの共同出資会社のメディカロイドだ。

「まさにこれから手術ロボット業界は群雄割拠になってくるでしょう。医療ロボットとしては第3世代に突入していくところです。第1世代は、執刀医が直接手術する際のさまざまなサポートマシン、第2世代が、執刀医の手に替わってロボットアームが手術をするダビンチ、そしてこれからの第3世代では、手術ロボットの精度がさらに上がるとともに、AIを活用した予測機能が伴ったり、手術と同時に画像でシミュレーションできたりする付加価値がついてきます。

 これからは、特定の病気に特化した専用ロボットもさらに出てきます。また、手術のナビゲーションだけを行うサポートロボットや手術スタッフに替わる助手ロボットのように、手術の周辺を支える医療ロボットも増えてくるでしょう」(渡邊氏)

【次ページ】なぜダビンチが世界を席巻できたのか
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