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政府の健康・医療政策と言うと「厚生労働省が一手に担っているのでは?」と感じる人も多いと思いますが、実は近年、産業育成の立場から経済産業省が関与するケースも増えています。たとえば同省では、デジタル技術を駆使した、さまざまな健康・医療情報を有効活用できる基盤構築に取り組んでいます。今回は「健康・医療情報活用」を軸に、経済産業省のICT政策を紹介していきます。
「ヘルスケア産業の発展・創出」を目指す経済産業省
経済産業省は、民間の経済活力の向上や対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済、産業の発展を主な任務とする国の行政機関です。同省は、2014年に政府が閣議決定した「健康・医療戦略」の基本理念として「世界最高水準の技術を用いた医療の提供」「経済成長への寄与」を掲げています。
2020年3月には、第二期の「健康・医療戦略」が閣議決定されました。2020年度から2024年度までの5年間を対象とし、2040年ごろまでを視野に入れた先端的な研究開発や新産業創出に関する施策が取りまとめられています。
産業の発展・創出という観点では、経済産業省がカバーする領域は非常に多岐にわたります。実際、同省は関連する省庁や機関と連携してさまざまな政策を展開しています。医療関連では、より広範な領域を含めた「ヘルスケア産業」として取り組みが進められているのです。
この記事では、経済産業省がWebサイトで公開している資料「
経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」を踏まえ、「健康・医療情報活用」の観点で同省のICT政策を紹介していきます。
「ビックデータからクオリティデータへ」を合言葉に
急速に高まる高齢化率を起因とし、社会保障費の拡大が日本の財政を圧迫する要因の1つとなっています。そうした中、経済産業省では、次世代ヘルスケア産業の創出に向け、生活習慣の改善や受診勧奨を促すことで「国民の健康寿命の延伸」と「新産業の創出」を同時に達成し、医療費・介護費の最適化の実現を目指しています。
具体的には、生活習慣病の予防や早期診断・早期治療を重点に置き、介護予防・生活支援と連携する「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。
経済産業省のICT活用の根幹を担うのが「デジタル技術を駆使した、さまざまな健康・医療情報を有効活用できる仕組み」です。ICTやロボット、AIなどの医療・介護現場での技術活用の促進が挙げられます。
経済産業省では「ビックデータからクオリティデータへ」を合言葉に、すなわち「データの(量より)品質」を意識し、仕組みの構築に向けて取り組んできました。
たとえば、本人同意を前提にウェアラブル端末やIoT機器から取得されるデータを連携し、その蓄積基盤を構築したり、その情報共有化に当たって、より円滑に進めるための交換規約やデータ交換様式を検討・試行したりしています。
一例としては「糖尿病重症化予防プロジェクト」が挙げられます。同プロジェクトでは、糖尿病有病者を対象に糖尿病診断指標である「HbA1c」を軸に、歩数計などのウェアラブル機器、スマホで取得した歩数や活動量、体重、血圧などの健康情報を取得。「健康関連データベース」に蓄積します。そのデータを基に日々の行動をモニタリングし、症状の変化があれば、事業者にアラートを出す仕組みを構築しました。
また、産業医や保健師、臨床医などが必要に応じて健診データやレセプトデータを共有することで、対象者に対する行動変容を促す介入を可能にしています。
2016年度の実施事業「健康・医療情報を活用した行動変容促進事業」では、約1000人を対象に実証事業を実施。「日々の健康情報を用いた行動変容が、糖尿病軽症者の状態改善に効果を発揮する」ことが示唆されています。
同年以降、糖尿病軽症者を対象にした介入研究が継続されています。また、高血圧・高脂血症など糖尿病以外の生活習慣病への拡大、介護予防分野における活用可能性が検討されています。さらに既存の医薬品や医療機器についても、IoTやAI、ビッグデータなどの技術革新を背景とするデータ利活用による、予防・モニタリングを含めたヘルスケアソリューションを提供するビジネスモデルへの転換が期待されています。
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